子供の頃の話

私は中2までマンションに住んでいたのだが、そのマンションの、私が寝ていた部屋には窓があり、窓の外がマンションの廊下であった。夏などはよく窓を開けて寝ていたが、私は虫が嫌いだったので網戸を欠かさなかった。

網戸は暗いとこから明るいところは丸見えで、明るい側から暗い側は網戸の網の面に光が反射してよく見えないという性質がある。マンションの廊下は常に電気がついていたので、夜になって部屋の電気を消すと、マンションの廊下が丸見えであった。

廊下を人が通るとはっきりわかるのだ。幼少の頃、私はそれが恐くて仕方がなかった。部屋の電気を消していても、窓の外は煌々と明るく、目をつぶっていても人が動けばわかり、幼かった私は網戸の性質なんぞ知るわけもなく、こっちから廊下が丸見えなように、向こうからも私が寝ている様子が丸見えだと思い、部屋を覗かれる、こっちを見られる恐怖が常に頭の中にあった。

そのせいで、窓を開けて寝る夜は過敏になり、いつもなかなか寝られなかった。

また、人が通ることに敏感になると音にも敏感になった。マンションの階段を人が上り下りする音、夜にもなると他に音はなく、はっきりと聞こえる。その人が、自分の部屋の前を通り、窓から自分を見ないか、とても恐ろしかった。だから夏の夜はいつも階段の音が気になっていた。

部屋にかけてある時計の音が人の歩く音に似ており、常に誰かが階段を、廊下を、私の部屋の周りを、うろうろしているような錯覚に囚われていた。そんな幼少期を過ごした。幼少期というのはそういうもんだなぁ。