今どこで何をしているか分からない人たち

今は昔、昔好きだった歌を聞くと、その当時を思い出す。その当時、自分が何をしていたかという記憶と同時に、自分が誰と一緒に居たかという思い出。特に思い入れの深かった歌は、当時の記憶をより鮮やかに思い起こす。今この時間も、今流れている歌と一緒に思い出になる。

ニルヴァーナを聞きながら堀川通りを自転車で走っていた僕は、予備校に向かっている。寒い中、コートを着てマフラーをして、息を切らしながら自転車をこいでいる。たった一瞬の事でも、良くなくても悪くなくても思い出になる。その時の自分が何を考えていたかよく思い出せないけれど、風景はよく覚えている。薄暗い丸太町のホテル、パチンコ屋、松屋ナンバーガールの話が初めて出来たバイトの先輩がいた。
「向井って紙一重やな」
「めっちゃ変ですよね。どう見てもいじめられっこでしょ」
「でもライブ行ったらめっちゃいかつい兄ちゃんがむかいーって叫んでたりすんねん」
当時は記録シリーズというCDを聞いてた。ラーメンの話でも盛り上がれた。意外だった。
「天龍はチャーシューが厚い」
「近所の一風堂は有名やけど、場所が入り組んでるから大学生がよく道を聞きに来てるやろ」
お笑いの話もした。こんな話があったと言づてしただけなのに大笑いしていた。普段にやける程度にしか笑わなかった先輩が。同じ大学だった。在学期間は被らなかった。先輩は片目だった。素朴な人だった。公務員になった。お祝いはしなかったけれど、お祝いの言葉は贈った。区役所の事務員だそうだ。後に、住民票をとったりで何度か区役所には足を運んだけれど、先輩を見かけた事は一度も無かった。みんなおめでとうと喜んでいた。店が潰れた時に、一度だけ電話があった。
「こないだ前通ったんやけど、無くなってるやん。今どうしてんの?店長とか自営やろ?」
「店は移転しましたよ。びっくりしたでしょ。前から夜めっちゃ暇で掃除ばっかりしてましたもんね」
「びっくりしたわほんま、だって中改装してんのかなんかでボロボロに壊れてたで」