記憶について

過去のことを、ほとんど覚えていない。特に、自分が言ったこと、やったことについては、全く身に覚えがなくて、二度も三度も繰り返し同じことを言ったりやったりしてしまう。昔のことは本当に覚えていない。断片的にしか。脳には確かに記憶が蓄積されているのかもしれないけれど、そのネットワークが働いていない。記憶にまで辿りつけない。体が拒絶している。

過去を振り返るというのは、あまりいいことではないのかもしれない。昔のことを、物や写真などを頼りに無理矢理記憶を呼び起こしてみても、暗い気持ちになる。僕は何も積み上げてこなかったから。ろくでもない人間が、ろくでもない人生を振り返ったところで、真っ当なものは何も思い浮かばない。記憶というよりは、人生が断片ばかりだ。一つも塊がない。

アリとキリギリスではないけれど、今のことしか考えられない。先のことも、過去を悔やむこともできない。気が滅入るだけだ。今この時のことだけを考える。

昔の人は、そのしがらみからか、何なのか、生きていく上では二つの方向しか見いだせなかった。気が狂うか、自殺するか。多くの人が。一部の人が。現実と向き合うのは、それほど苦痛を伴うのだろうか。