童話作家

「文章が思いつからないなら、夢を書き綴ってみればいい。寝て見る方の夢だ。夢は、想像力の塊である。そこで起こったことは現実にはないことだ。自分の想像力を信じてみる気になったか?」     

「夢の内容って、起きたら忘れていませんか?」

「枕元に紙とペンを置いておけばいい。起きた直後は覚えているが、時間が経つとすぐに忘れるものだ。だから、目が覚めたらすぐに紙とペンを持ち、覚えていることをとにかく書き殴るんだ。順番なんかは後から直せばいい。忘れる前に全部書き出してしまえ。それを後から読んでみろ。十分な題材とテーマに溢れている。自分の夢だから盗作の心配もない。あとは、そこに肉付けをしていけばいい。一度はその情景を見ているんだ。夢でな。どれほどその情景に近づくかは、君の文章次第だ。」

「そもそも、夢をそんなに見ないんです。」

「見ればいいじゃないか。寝る前に考えていることが、夢に出やすいらしいぞ。見たい夢を見ることが出来る。」

「それじゃ結局、夢を見ないで考えている事を書けばいいじゃないですか。」

「夢は情報を整理したり拡大してくれるのだ。夢という箱を通せば、思いも寄らない映像に出会うことができる。夢の中で自由に動くことだって出来るぞ。その方法はな、やはり夢の内容を記録することなんだ。枕元に紙とペンを置いてな。目覚めたらすぐ、夢の内容を書く。そして、自分はどうしたかったのか考えるんだ。夢の中でな。本当はどう動きたかったか。次同じ夢を見たら、自分はどうするのか。それを繰り返しているうちに、いつしか夢の中で「これは夢だ」と気づく日が来る。これを明晰夢と言う。夢の中で、自分が夢を見ていることに気づく日が来れば、そこから君は夢の中を自由に動く事ができる。夢の世界は想像力の世界だ。空を飛ぶ事も瞬間移動も自由だ。また、頭に思い描いたものが現れる。ある国では昔からそうやって自由に夢を見る習慣があるそうだ。君もそれをやればいい。想像力の世界を体感しなさい。夢の世界もそう悪くないぞ。それができたら、君は夢の世界を現実に引き連れてやればいいんだ。紙とペンでな。」

「ある国ってどこですか?」

「アイスランドだ。アイスランドの子供たちは夢の中で自由なんだ。君には忠告しておきたいことが二つある。アイスランドの子供たちも受ける忠告だ。いいか。はじめのうちは、夢を夢と認識したらすぐに目を覚ましてしまう。「これは夢だ」とわかった瞬間にな。目覚めるプロセスの中に夢と現実の切り離しがあるからだ。だから君は夢を夢だとわかっても起きてはいけない。これは夢だと気づいても意識をそのままにとどめておかなくてはいけない。そうしないと、君はすぐさま目を覚ましてしまうからな。」

「具体的にどうやればいいんですか?」

「まずは落ち着くことだ。君は寝ているのだから意識はぼんやりしているはずだ。それをハッキリさせようとしてはいけない。「これは夢だ」とわかっても落ち着いてそのぼんやりした状態を保ち、覚醒しないように抑えるんだ。脱力して、ゆっくりと動いてみろ。力を抜いたまま、ゆっくりとな。」

「動けるんですか?」

「そうだな、体を動かすよりも、体ごと浮遊させた方が目覚めにくい。体が風に流されるように移動することをイメージすればいい。水に浮かんだまま方向を決めることが出来ることを想像するんだ。体は動かないまま移動する。夢のなかは想像の世界だ。思い描いたことがそのまま実現する。だから体を動かさずとも移動できるようになる。体だけではない。はっきりと物を考えることもいけない。ぼんやりとだ。少しずつ、揺れ動くように移動し、少しずつ、物を考える。慣れればじきに、はっきりと物を考えたり動いても目が覚めないようになる。つまり、それが夢の中で自由になるということだ。ここからが二つ目の忠告だ。ここまで来ると、どういう忠告か察しがつくな。」

「帰れなくなるんですね。」