ご無沙汰しております。突然のことで、何事かと思ったかもしれないけれど、なんでもないのでそう構えることはありません。そういえば長く会っていませんね。ちょうど1年ぐらいでしょうか。その間も何度かお話はしておりましたが、今回はこういう形で送ってみました。別に意味はありません。ただ、なんというか自分の中では節目だったので、いつもとは違った形で連絡をとってみた、というだけのことです。連絡ではないですね。こちらからの一方的な通知です。

知っていると思うけれど、僕はあまり人付き合いが得意ではありません。人に物を伝えるというのが苦手です。何をどう表現すれば、どういった意味合いで相手に伝わるのか、それがわからないのです。だから誤解されることも度々あります。全てが誤解と言ってもいいでしょう。人の捉え方というのは様々です。それまでの経験や慣習、常識から、自分なりの解釈をこしらえます。言葉を選んだつもりが相手をひどく混乱させたこともあったようです。それは今も続いております。なるべく正確に言葉が伝わるように努力しようと思います。結果伝わらなければ、伝わるように直していきたいと思います。

ただ、あなたなら、僕のことも多少知っているでしょうから、そのままの僕の言葉でもいくらかは伝わると思います。形は見えなくても、うっすらとぼんやりと浮かぶ程度には像を写すことができるのではないでしょうか。その像が一体どんな姿をしているか僕には検討もつきませんが、どんな姿をしていようとも像が写ることだけを期待して、僕は言葉を綴ることにします。

僕は、本当は何も考えていません。自分の考え、思想、哲学というものを持ちあわせておりません。それが嫌で、いつも何かを考えているふり、傾倒しているふり、同調しているふりをしてきました。本当はそんなことどうでもよかったのです。僕には何も考えることができない。考えを持つということができない。それは、考えだけでなく、同時に思いも持ちあわせておりません。僕はただの入れ物です。ペットボトルと同じ。中身が無い。僕のことを無機質な、虚無的な印象を持っていたとしたら、それは当たっています。ペットボトルは高分子ですけど。
中身が無い人を見ると、僕は自分を見ているかのように錯覚します。それが嫌で、自分はそう見えないように努力をします。しかし、本質的には変わりませんでした。いくらラベルを貼り替えても、空のペットボトルは空のままです。

多分、あなたはそのことに気づいていたでしょう。僕が、あなたに合わせて話していたことを。僕の話に熱がないことを。あなたは聡明だから、そんな僕にさえ合わせてくれていたのだと思います。僕はただ、その場を保ちたかっただけです。その時間を。きっとあなたは退屈だったでしょう。それでも嫌な顔をせず、何度も僕の道楽に付き合ってくれた事を本当に感謝しております。僕は今までそういうことを伝えてこなかった。その時から同じことを思ってはいたけれど、伝えようとしたことはなかった。だから今伝えます。僕に構ってくれてありがとう。

寒くなってきました。そろそろ雪の季節です。この季節には特に、あなたと並んで歩いた情景を思い出します。冬の装いで、行く宛を探しながら、道に迷ったり。かといって急ぐわけでもなく、お互いの近況などを話しながら。おそらく、あなたはそんなことを覚えてはいないでしょう。私も正確には覚えておりません。ただその時目にした景色や、色、温度、あなたの表情、自分の気持ちを覚えているだけです。その場所はもうありません。あなたはもうあの頃のあなたではなく、僕も、もうそこにはいません。 この失くしてしまったひとときの記憶を書き残しておきたいと思いました。さようなら。どうかお元気で。