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前回の続き

「こっちには何があるの?」

前方は見渡す限り荒れ地に草のままだ。突如何かが現れたりはしない。僕ら一行はそこを延々と歩いている。彼は呼びかけに応える。

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が、何を言っているかわからない。身振り手振りで何かを示してくれるが、全く意味がわからない。こうなったらとにかくついていくしかない。じきに日が暮れる。それまでにはどこかに着くだろう。見たところ野営の荷物も持っていないみたいだから。

一人で歩いていた時よりも退屈はしのげるかと思ったが、なにぶん言葉が通じない。コミュニケーションが取れない。動物はおっさんのすぐ横を付き添っている。やはり人が上に乗るほどは大きくない。馬に似ているが顔は明らかに馬のそれではない。顔がもっと長く、耳がもっと長い。馬の一種なのかもしれない。毛も全体的に少し長い。

心なしか空は少し暗くなってきた。空港から合計して4,5時間は歩いただろうか。もちろん休み休みに歩いている。おっさんが急に座りだしたりするから僕もそれに倣う。それにしても疲れた。さすがに疲れる。最初の2時間ほど一人で歩いていた時は物珍しさに平気だったが、さすがに慣れてきたし飽きてきた。そしておっさんが現れたが何を言っているかわからない。そんなおっさんに付いて何もないところをまた歩いている。その前には道路があったのにな。道路をそのまま真っすぐ歩いて車をひっかけた方が良かったかな。

鳥の鳴き声がした。

違う、おっさんがまた喋っているのだ。何かピーピー口を鳴らしながら腕を振っている。そっちに何があるというのだ。
それは、近づくまでわからなかった。遠くから近づくに連れ、地面に一つの筋が見えてきた。少し色が違う筋が。それが遠くの地面で右から左までずっと続いてた。近づくに連れ、その筋は大きくなった。それは亀裂だった。地面に大きく走った亀裂。それが右から左へとずっと続いて崖のようになっている。亀裂の傍には幅の広い階段があった。ちょうど地下鉄の駅のホームへ降りていくような階段だ。あんな色ではないが、荒野の石と土の色をした階段だ。おっさんはどうも、馬と一緒に亀裂に住んでいるらしい。

僕はその崖の端に近づいてみた。向こう側に人がいる。崖の上ではない。崖の中に人がいる。多くはないが子供もいる。彼らはおっさんと似たような帽子やローブをまとっている。崖を繰り抜いて通路があるのか、その奥には家もあるのだろうか。橋がかかっている。何故か端は崖の上にではなく、中間の部分にかかっている。上から覗かなければあんな場所に橋があることなんて気づかない。事実上からは見えなかったため、僕はこの崖を渡れないと思っていた。しかし、おっさんがここに住むなら、今日は渡る必要もないだろう。どこかに泊めてもらえないだろうか。

この亀裂、崖は向こう岸まで10mぐらいだろうか、そんなに遠くないものの、ジャンプで届く距離ではなく、底が結構深い。底は川になっているようだ。水の量はそんなに多くはないが、一応流れている。この川が先ほど地面に増えてきていた雑草の水源なのかもしれない。おっさんがまたピーピー言いながら手を振っている。ロバと一緒に階段を降りていくようだ。階段は駅にあるような幅の広い階段だが、そのまま進むと崖に落ちるようになっている。それが前面の崖も同じ色をしているため、注意しないとそのまま下に落ちてしまうのだ。それこそ馬なんかに乗ってそのまま突っ込んだら崖に真っ逆さまだ。これはそういう罠なのだろうか。おっさんは階段を右に通路へ入った。おっさんとロバは並んで通路の先を行く。崖を繰り抜いた通路だ。天井も高くてそこそこ広い。屋根もあり、崖の側は崖と繋がった柱のような柵のようになっている。陽の光を取り入れる仕組みになっているのだろう。向かい側と同じ作りだ。だから壁の中に人がいるように見えたんだ。

「どこへ連れていってくれるの?」

言葉が通じないのはわかっているが、相手もピーピーわめくのと同様に、僕もなにか言葉を発せずにはいられない。それがたとえ伝わらなくても、僕が何かを言いたいんだということ、何かを伝えたいんだということを伝えたい。声のトーンからあやしくない人間であること伝えたい。友好の意思を持っていることをなんとなく掴みとってほしい。おそらくそれぐらいは伝わっているはずだ。おっさんも、こっちを振り向いてまたピヨピヨ言いながら手を振っている。ほら、伝わっている。

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