旅行の初日は最悪だった

1年半に渡るカナダ・トロント滞在のうち9ヶ月間住んでいた部屋を次に住む人へと引き渡し、バスで国境を越えてアメリカのニューヨークへと渡る日、2015年5月30日。トロントは洪水になるんじゃないかというぐらい雨が降っていた。トロントに滞在していた間にこれほど雨が降った日は今日まで一度もなく、最後の日に突然の雨。前日まで降っていなかったのにその日だけ雨。出足の不吉さを予感させた。僕はこれから15kgを超える65Lバックパックを担ぎ、デイパックを一つ手に提げて移動しなければならない。引き払った家からBay x Dundas にあるバスターミナルまで、地下鉄で4駅ある。普段なら歩く距離だけど、バスに乗る前に雨に濡れると最悪なことになる。これはパンツや靴下まで濡れる勢いの雨であり、ましてやこれから欧州旅行1ヶ月とオーストラリアの1年を過ごす荷物がずぶ濡れになってしまうなんて事態だけは避けないといけない。

 

時間は夜の11時。雨の勢いはおさまっている。夜行バスのバス停までは、結局地下鉄で向かうことにした。それにしても荷物が重い。出発に向けて荷物をかなり捨てたんだけどな。地下鉄に乗るまでの間にはバックパックを背負って片手にリュックを持って家や駅の階段を昇り降りしなくてはならない。それだけでかなりきつい。それでも地下鉄に乗ることにして正解だった。これから雨が降ろうと降るまいと、この荷物のまま歩いてバス停まで向かうなんていうのは無理があった。トロントの中心地にあるYonge駅から地下鉄に乗り、4駅先のDundas駅で降りた。そこからBayストリートにあるバスターミナルまで歩く。バスターミナルには、バスの出発の30分前に着いた。バス自体まだ来ておらず、多くの乗客は待合室のシートに座っている。バスが到着するところには誰一人並んでさえいなかった。元々歩いてここまで来るつもりだったのが地下鉄に乗り、若干急いだこともあって余裕ができてしまった。歩いてもよかったんじゃないかと思いながらバスを待っていたら、雨が降ってきた。雨はどんどん激しくなり風呂場のシャワーどころか滝みたいになった。考えが浅はかだ。やっぱり地下鉄に乗り早目に着いてよかった。

バスのwi-fiが使えない

Megabusの利用も5回目ぐらいになるだろうか。アメリカの格安バスとして有名なMegabus、カナダでも運行しており今ではヨーロッパの運行ルートもある。5回も乗ればもう常連の域だ。いつもは若い黒人ドライバーなんだけど、今回は珍しく中華系の爺さんだった。5月末はトロントにおいて真夏であり、日中の気温は30℃を越えている。僕は日中タンクトップにショートパンツだったのに、バスに乗るためだけに裏起毛のパーカとバギーパンツ、靴はトレッキングブーツを履いていた。夜行バスの中は飛行機などと同様、極端に寒いんだ。トロントからニューヨークへと向かうMegabusはたった$20にも関わらず、車内でwi-fiと電源が利用できる。そういうサービスを配備した車両になっている。しかし今日は違った。wi-fiを拾わない。iPhoneでもMacBook Airでも拾わない。近くに座っていた中華系っぽいおばさんが「wi-fiつながる?」と僕に尋ねてきた。「繋がらないね」と答えると、おばさんはドライバーに聞きに行っていた。

聞きにいったおばさんに尋ねてみると、ドライバーの爺さんいわく

「このバスはアメリカのバスだから国境越えたらつながるようになるよ。国境までは2時間だからあと少しだ」

みたいなことを言っていたらしい。これまで何度もMegabusを利用してきた中で、国境でwi-fiの接続が変わるようなことは一度もなかった。この爺さんは多分何もわかっていないのだろう。スイッチか何かがあるのか、操作ができていないのか、忘れているのか、wi-fiさえ意味わかっていない可能性もある。バスがニューヨークに着くのは明日の昼であり、乗車時間はトータル12時間だ。しかたなく僕はKindleで本を読んだりiPodで音楽を聞いたりしていた。それでもやはり暇だ。僕はこういう長距離バスや飛行機で寝れない質だからつらい時間を過ごしていた。予想していたとおり国境なんか越えたところでwi-fiは使えるようにならなかった。移動中2回休憩があり、パーキングエリア内だけ唯一wi-fiが使えたためそこでメールのチェックなどをしていた。

ニューヨーク暑すぎる

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wi-fiが使えないまま、寝られないまま朝を迎え、そして昼を迎え、ニューヨークに着いた。ちょうど去年の夏にもニューヨークに来た。その時は日本から飛行機に乗って来たんだった。ニューヨークの街は去年同様暑い。去年の夏は37℃だった。道行く女性たちは水着みたいな薄手の格好をしている。バスを降りると僕はすぐさま上着を脱いでリュックにしまい、15kg以上のバックパックを担ぎ、パソコンとメタルボディの重いカメラが入ったリュックを右手に提げ歩いていた。歩くだけで汗が噴き出してくる。薄いタンクトップの上から直にバックパックを担いで歩くと、重さを支える肩の部分に跡、というか傷がついた。ニューヨークに着いたのは昼の12時頃、ニューヨークを発つのはその日の夜10頃の予定だ。その間にもう一度街を見ておこうと思った。しかしバックパックを担いだまま歩くのは苦行に近かったため、Penステーションの近くにあるSCHWARTZ TRAVEL SERVICESという荷物預かり所でバックパックを預ける。値段は当日$10、現金のみしか受け付けていないがATMを備えている。受付の黒人の女性はやたらとフランクだったが英語の聞き取りが難しくて何言ってるのか全然わからなかった。

前回ニューヨークに来た時は行き先の候補もあり、ガイドブックを持っていたけれど今回は何もない。まさか三度目のニューヨーク訪問があるとさえ思っていなかった。正直なところ、ニューヨークに今更行きたい場所もなかったが、やはりニューヨークの街は長く住んだトロントと全然違い、それをもう一度実感できるだけでよかった。街を歩いてみれば、ニューヨークのことはずいぶん忘れていた。1年前は地下鉄の路線や駅もある程度覚えていたけれど、もう電車の運賃さえ覚えていない。ニューヨークは地下鉄の切符もクレジットカードで買えるため、よほどのことがない限り現金は必要ない。そのことも既に忘れており、荷物預かり所でATMから$40も引き下ろしていた。今日アメリカを発つというのに、こういう失敗が多い。

3度目のニューヨーク

Penステーションから北上してセントラルパークを歩き、暑い中を時々休憩しながらセントラルパークを歩いていた。時々雨が降ってきたりして、雨宿りもしていた。その日のニューヨークは、前来た時と少し違った。セントラルパークから南下している最中、同じTシャツを来た人をたくさん見た。Tシャツには「IMAGINE ISRAEL」と書かれている。Tシャツのデザインは4種類か5種類ほどあったが、全てのシャツにイスラエルがどうとか書いてあった。同時に彼らはダビデの星を印した旗を掲げていた。今日は一体何の日なんだろう。このユダヤ人が行進するために、ニューヨークの5番街は結構な距離が封鎖されていた。車が入れないように鉄柵のバリケードが築かれ、いたるところに警官が立っている。当のユダヤ人たちは怒ってデモ行進したりするわけではなく、単にお祭り騒ぎだった。建国記念日?独立記念日?よく知らない。変わっていたのはユダヤ人だけでなく、隣のマディソン・アベニューでも道路が封鎖されており、祭のような露店だらけになっていた。火を使っているからか、いたるところで消防車のサイレンが聞こえてる。ニューヨークでこんなことあるんだなーと思いながらも暑すぎて興味もなく、僕はスターバックスを探していた。 

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Megabusでwi-fiを利用できなかったため、ネットを利用するためにスターバックスを探していたのだが、何故か立席しかない店ばかりになっていた。座席のある店舗がほとんどない。おかしい。去年はこんなではなかった。もちろんトロントのスターバックスもこんなではなく、日本と同様に座席やソファがある。この1年でニューヨークにおけるスターバックスの方針が変わったのだろうか。wi-fiを利用する際にはパソコンを使いたかったため、しつこく座席のあるスターバックスを探しまわったんだけどやはり全然見当たらない。別にスターバックスにこだわっているわけではなく他の店も見て回った。しかし同様に、カフェでラップトップを利用している姿を全くと言っていいほど見かけない。いつからこんな風になったんだろう。ニューヨーカー達は街でラップトップを利用することをやめたのだろうか。かろうじて見つかった座席のあるスターバックスは、最初に荷物を預けたPenステーション近くだった。その店も決して座席が多いというわけではなく、ラップトップを利用している人は僕を含めたアジア人ばかりだった。「もうニューヨーカーはカフェでラップトップを使用しない」説が強くなってきた。

ニューヨークでも雨

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そうやって見つかった、というより戻ってきたらそこにあったスターバックスにてスムージーを頼み、Macを開き、半日ぶりにメールのチェックをしたりブログを書いていた。窓の外を見ると雨が降っていた。その雨はすぐに強くなり、止んでは降りを繰り返す。旅行中に雨が降っていると非常に困る。空港までは地下鉄とエアトレインで行くから濡れないとしても、これから荷物預かり所に行って荷物を持って駅まではどうしても屋根のないところを歩かないといけない。雨の勢いは、外を5秒歩いただけで溺れるほどに増していた。そんな中をバックパックを担いで歩くわけにはいかない。僕はスターバックスで雨が止むのをひたすら待っていた。

飛行機への搭乗時間は夜10時、ニューヨーク市街から空港へ到着するまで1時間と見積もって、夕方6時には空港へ向かおうと思った。今日の昼の12時ニューヨークに着いて歩きまわり、雨宿りを繰り返しながらスターバックスに辿り着き、パソコンを使っていたら結構時間も経っていた。雨は完全にあがっていないけれど、少しぐらいなら大丈夫だろうと思ってスターバックスをあとにする。幸いにも預かり所までの道中で大雨に降られることはなく、荷物を受け取るとすぐさま駅へ向かった。今日のところはニューヨークの街をずっと歩き回っていたため、まだ地下鉄を利用していない。ということは空港に向かうためだけに地下鉄に乗るメトロカードを新たに作らないといけない。$20札しかなかったから$20を入れると、画面には「メトロカードにチャージしますか?」という表示が出た。$20分も必要ないためNoを押すとカードが作れなかった。$20分なんて絶対に使わない。でも今から$20を崩しに行く時間と体力の余裕がない。Yes押すしかない。仕方なくカードを作ってそのままEの地下鉄に乗り、空港まで向かった。ここでもまた失敗だ。

飛行機の遅延

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空港の近くまで来たが降りる駅名を忘れており、乗り過ごしてしまった。JFKを利用するのは1年ぶりになる。ジャマイカセンターではなくその一つ前で降りないといけなかった。飛行機でJFKに到着したことは今までに二度あったけれど、JFKから乗るのは今回が初めてだ。次の行き先はスウェーデンの首都、ストックホルム。しかも乗り継ぎだけ。ストックホルムにはアーランダ空港とスカブスタ空港の2つがあり、チケットの購入を失敗して空港から空港へと移動しなければならない。140km離れた空港間を3時間以上かけて移動する。無駄過ぎる。今回ストックホルム市内には寄らず乗り継ぎだけだけど、この旅行の最後ヨーロッパからタイへ向かう際にまたストックホルムへ立ち寄る予定になっている。次回タイへ行く前にはしっかり見ておこうと思う。

地下鉄を降りてJFK空港へと向かうエアトレインを待っていると、またとんでもない勢いで雨が降ってきた。エアトレイン乗り場では濡れることはないためタイミングが良かった。それにしてもこんなに雨が降っていて飛行機は問題なく飛ぶのだろうか?そう思っていたら、その嫌な予感は的中した。エアトレインを降りて空港のターミナルに着き、電光掲示板に表示される発着一覧を見ていると、乗る予定の飛行機がなんと予定時間より1時間半も遅れていた。ストックホルムでの乗り継ぎ時間は1時間半も余分に見ておらず、スカブスタ空港から次の目的地であるクラクフへの飛行機に乗れないことが確定した。これはもうチケットを買い直さないといけない。チケット代を調べてみると、だいたい25,000円。予定外の出費だ。

とりあえず空港でチェックインを済ませ、荷物を預け、検閲を終え、搭乗ゲートまで向かった。電光掲示板で指定された搭乗ゲートに辿り着くと、そこでは違う飛行機の名前が表示されていた。掲示板はそのゲートを指している。どちらが正しいんだ。空港には出航時刻の3時間前に到着しており、そこから遅延分の1時間半を余計に待たなければならない。さらに悪いことに、JFKはフリーwi-fiが30分しか使えなかった。それ以降は有料。wi-fIごときに金を払う気にはなれず、何もない空港でひたすら待つことになった。この空港には何もない。そこそこ古い空港だからだろうか、別に広くもなければハイテクでも便利でもない。今のところJFKに良いイメージはない。去年に日本から到着した時も、入国までに1時間半並んだ。

1時間半遅延の予定だった飛行機は、その後更に遅れた。元々21:55だった出航予定時刻は24:00になり、搭乗ゲートも変更になった。その後出航予定時刻は「未定」になった。未定ってなんだよ。最悪だ。出だしから本当に些細な災厄が降りかかった。そしてこの日記はいつ来るかもわからないストックホルム行きのノルウェジアンを待ちながら書いている。 2015.6.1. JFKにて

※結局搭乗したのは午前2時だった。

次回、2日目ストックホルム・アーランダ空港で立ち往生