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6日目、3人でNowa Hutaへ

前回の続き

この日は祝日であり、泊めてくれているオルガ、パブロと僕の3人で出かけようということになった。行き先としては家からバスで40分ぐらいのところにあるNowa Huta(ノバフタ)というところに決まった。そこはクラクフの中心とは少し趣が違い、ソビエト時代の名残の建物が見れるということだった。元々工業地帯で、工場労働者用の建築物は戦車が通れるような大きなゲートがついている。また、建物の屋上にはスナイパー用の弾除けが設置された無骨な建築のデザインとなっている。行く前に軽く写真を見せてもらって説明を受けなければ何のことかわからなかっただろう。

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こちらに来てから夜寝る時間がだいたい1時2時と遅い。そのため起きるのも昼近くになっている。僕は午前11時頃に目を覚まし、今日は二人についていくだけだから特に準備することもなく、後片付けをしたりシャワーを浴びたりダラダラと過ごしていた。

「あと10分で出るけど大丈夫?」

と言われ「いつでもいいよ」と答えてから3人ともが準備を済ませ、昼の1時頃いよいよ出かけることになった。バス停まで歩いていると二人はなにやらポーランド語で会話している。「ソーンソーン」という言葉が気になって「それはどういう意味なの?」と尋ねてみたら

「テニスの音がしたから、テニスコートはどこ?って聞いたらパブロが、そこだよって教えてくれたの。それがソーンソーン」

「英語だとthere areみたいなもんだよ」と言われ、後で調べたけどよくわからなかった。このように二人の会話の中で気になったポーランド語の意味をたまに聞いたりしている。例えば非常によく出てくるのが

dobra (ドォブラッ)これはOkayと同じだよと言われた。他にtak tak(タク タク)はYesの意味で一回でもいいけど繰り返して使うことが多いとか、no no no(ノノノ)も同じYesだけどもうちょっとフランクで、「ノ」一回だけだと失礼になるとか。実際には僕は全然覚えられなくてほとんど使うこともなかったんだけど、よく使われている気になった言葉をそうやって尋ねるのは面白かった。二人の会話や街中の会話でも「ドォブラ」と聞こえる度に「何か了解したんだな」とわかったような気になっていた。

ノバフタへと向かうバス停に着くと、バスは既に停まっていた。ここが始発駅というか最初の停留所になるため、発車時刻まで停留している。オルガはバスに乗り込み、パブロは外で電子タバコを吸っていた。

「先に乗ってていいよ。俺はまだこれ吸ってるだけだから」

「ああ、でもバスの中は暑いと思って」

そうは言ったものの、どのみちチケットを買わないといけないから中に入ってチケットを購入した。中のほうが暑いかと思ったけれどそんなに大差なかったため、僕はオルガの斜め向かいに座った。暑いと言ってもカンカン照りで汗が止まらないということはなく、程良い暑さで僕はジーンズに長袖の白いシャツを袖を捲って着ていた。パブロはTシャツにハーフパンツというラフな格好、オルガもパンツスタイルに薄手の上着を羽織っている。パブロも電子タバコを吸い終えるとバスに乗り、チケットを買って僕の隣に座った。しばらくしてバスは動き出し、僕らはただバスに揺られていた。時々僕が何か質問したりしていたけれど、会話が続くわけでもなくバスの中で時間は静かに流れていた。二人が余りにも静かで、僕は気になって聞いてみた。

「大丈夫?」

「うん」

「昨日も忙しそうだったから、疲れているんじゃないか?」

「違うよ。この天気のせいだね。この天気は眠気を誘うから」

ただ眠いだけということだった。それ以外にもしかしたら、バスやトラムの中でべちゃくちゃ会話しないみたいなマナーがあるのかもしれないと僕は一人で思っていた。そして僕自身もかなり眠くなってきていた。

「ここで降りるよ」

僕は半分寝かかっていたところを呼ばれ、二人の後に続いてバスを降りた。

「ここがノバフタの中心地。あっちに建物があるから行こう」

僕らが歩いて行った方向には団地のようなビル群があった。全て同じ形、同じ高さ、少し老朽化しているがクラクフ旧市街のような中世の建物とは全然違う。

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「これがソビエトの建築スタイルさ。ほら、あれが戦車の通れるゲートだ」

そのゲートは車が通るには確かに大きかった。そして高さがあった。また「屋上を見てみなよ」と指を差されて見た場所には、スナイピング用の弾除けになる出っ張りがところどころにあった。それは彼らが冗談で言っているだけなのか、本当にその用途で作られているのか僕には判断できなかったけれど、そういうもんかと思いながら見て写真を撮っていた。

「あっちに教会があるよ。ちょっとデザインが変わってるから見に行かない?」

もちろん断るわけもなく、僕らはその教会に向かって歩いていった。歩きながら「あれだよ」と言われ近づいてく建物は、屋根に十字架があるから教会なのだろう。見た目は確かに教会っぽくはなかった。

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教会の中に入ると、人がまばらにいる程度で僕らはすぐに外に出た。僕らの中でクリスチャンは一人もいない。

「何か飲む?前ここに来たとき唯一あったレストランがすぐそこだよ」(オルガ)

「そうだな、ビールを飲もう」(パブロ)

「オーケイ」(僕)

僕らは教会からレストランを目指すことになった。レストランまでは数分で着いたが、今日は祝日のため閉まっていた。そして見えるところにアイスクリームを売っている売店があり、僕ら3人はアイスクリームを買って食べようってことになった。売られているのはスクープですくってコーンに乗っける丸いアイスとソフトクリーム。ソフトクリームのことを彼らは「イタリアンスタイル」と呼んでいた。ヨーロッパでイタリアンスタイルのアイスと言えばジェラートが思い浮かぶ。でもそれとは違う。僕はポーランド語のメニューが読めないため、彼らに注文をお願いした。渡されたのは、ストロベリーとバニラをミックスしたソフトクリームにラズベリーか何かのシロップをかけたもの。これがこっちで食べる初めてのアイスであり、味はカナダやアメリカのアイスと違ってあっさりしている。ジェラートにも負けていないんじゃないか。

「こっちのアイス美味しいよ。カナダのはもっと…」

僕はこってりとかあっさりとか言いたかったけれど英語でなんて言うのかわからず、too sweetとか言ってなんとか無理矢理説明していた。甘すぎるのとこってりはちょっと違う。

アイスを食べているとオルガに電話がかかってきた。僕らはアイスを食べながらも彼女の電話が終わるのをその場で待っていた。

「もう少ししたら友達が来るから、あっちの方へ行こう。戦車もあったりするらしいよ」

オルガの友達が来るという電話だった。僕はてっきり3人で行動すると思っていたから、ここでまた新キャラ投入があるとは思いもよらなかった。そしてこの時はわからなかったが、その友達はここノバフタに住んでいるそうだ。もしかするとオルガが事前に連絡を入れていたのか、もしくはレストランが開いていなかったため開いているところを聞いたら来てくれることになったのか、どちらにしてもちょっと気を利かせすぎじゃないかと僕は思った。そこまでしなくていいのに。「単に近くに来ているから声をかけたら来てくれた」それぐらいだったらいいんだけど、などと僕は後々一人で思っていた。そして同時に、戦車?と思っていた。

アイスも残り少なくなり、僕ら3人は食べながら待ち合わせ地点へと向かった。そこに現れたのは一組の男女だった。まずはオルガが二人と仲良さそうに挨拶をして、パブロと向こうの男性も初対面だったらしくお互いが名乗り握手していた。そして僕が紹介された。

「初めまして、よろしく」

「彼女もオルガっていうの」

ポーランドでよくある名前なんだろうか。彼女は茶色い髪をまとめあげ、サングラスをして大きな金色の輪っかのピアスを両耳につけ、ワインレッドの薄手の上着を羽織り、胸元にはクエスチョンマークを逆さにしたような変わった形のアクセサリーが首から提がっていた。そのいでたちは、ちょっとしたモデルみたいだなと思った。男性の方はシモンと言った。正確にはシではなくサイモンとシモンの間ぐらいの発音になる。彼はTシャツにハーフパンツというパブロと同じ格好だったが、髪型が変わっていた。前の方は刈り上げた短髪で、後ろにいくに連れて少し伸びた髪にパーマがかかっている。そしてもみあげから繋がったあごひげを生やしていた。

「その髪型かっこいいね。流行なの?」

「これは前に、彼に対する罰で私が刈ってやったの。でも彼は気に入ったみたいでずっとそのままにしてるだけ」

派手な方のオルガがそう答えると、シモンも笑っていた。一体何の罰だろう。僕には聞き取れなかった。僕らはそのまま歩いて戦車へと向かった。戦車は少し歩いて曲がったすぐのところに一台だけぽつんとあった。

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プレートには何やら書かれていたがポーランド語で読めない。数字だけ見ると第二次大戦の物だろう。そしてソ連製に違いない。戦車もただ見て写真を撮っただけ、別に大した何かというわけではなくまたすぐその場をあとにした。

「あっちは映画館ね。古くからあって、でも私達はあそこで見ない。上映されているのが限られているからクラクフの中心まで行くことがほとんどかな」

「じゃあこのあたりに住んでいるの?」

「そう、さっき通ったところ、あそこが私達のアパート」

ここで僕は初めて彼女らがここに住んでいることを知った。よくよく考えると、そうでもなければわざわざ来ないだろう。僕らが映画館の脇を歩いていると、テラスで営業しているらしきレストランがあった。

「あそこでいいんじゃない?」

「映画館にレストランがついてるなんて今まで知らなかったよ」

僕らはテラスでビールや各々のドリンクを頼んだ。

「それで、旅行しているの?クラクフはどう?今まではどこに行ったの?これからどこに行くの?仕事は何をしていたの?」

東方の異人に興味を持ってくれているのか、それとも単にマナー意識なのか社交辞令なのか、オルガは僕にいろいろな質問を浴びせてきた。彼女は大学でペルシャ語を学んでいたらしく「イランのイスファハンは良かったよ。行ってみたら?」とイラン行きをすすめられた。イランも正直行きたかったんだけど、戻りの飛行機をストックホルムから購入しているためイランへ行って戻ってくるというのは少し予算的に難しかった。その他にも4人であったり、各自であったりいろいろな話をした。テーブルの上に置いてあった本をシモンが読んでおり「なにそれ?」って聞いたら

「ゲームブックだよ。これはドラマ化されて今流行っているんだ」

「どんな内容?」

「ヒストリカルファンタジーになるのかな」

「ポーランドの話?」

「いや、多分イギリスだ」

表紙には確かに円卓の騎士とかに出てきそうな、手に剣と盾を持ち西洋の鎧を着たヒゲの男の絵が描かれていた。そしてシモンは最初のページにある地図をずっと眺めていた。

「何でずっと地図見てるんだ?」

「ゲームブックは地図が一番面白いんだよ」

「へえ、それって戦略シミュレーションゲームみたいなもんかな」

「そうだね、同じだ」

ビールを飲みながらそんな他愛のない話をダラダラとしていた。そのテーブルは、2組のポーランド人カップルの向かいに日本人の僕が一人いるという非常に変わった光景だった。僕はそのテーブルの様子を写真に撮らせてもらった。オルガとシモンに関しては、写真をネットに載せていいかどうか聞き忘れた。僕が泊めてもらっているオルガとパブロの部分だけを切り取ってここに載せたいと思う。

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その後オルガとシモンとはノバフタで別れ、僕ら3人はクラクフ市内へと戻った。長くなったためここで一旦切ろう。

次回、6日目後編クラクフ市内観光ツアーへ