18日目、モスタルからドゥブロヴニクへ

前回の続き

ホステルのチェックアウトは11時までだと言われ、その前に僕はもう一度旧市街を見ておこうと思った。幸か不幸かモスタルを出る日になってやっと晴天に恵まれ、観光地を歩いていると女の子二人の韓国人観光客に写真を撮ってほしいと頼まれ撮ったりしていた。スタリ・モストも見納め、おそらくもう二度とこの地に足を踏み入れる機会もないだろう。思い出だけで生きている。

 

バスを待つ

ホステルで二人の旅行者と別れ、バスターミナルにてドゥブロヴニク行きのチケットを購入した。バスが出るまでまだ1時間以上あったものの、やることがなくバスターミナルの前のパン屋でパンを買って食べたり、ただ時間を潰していた。ホステルで会った旅行者の二人は、レストランへ行ったり買い食いしたりをせず二人共スーパーで買った食材を調理していた。ドイツ人はマカロニを茹でてトマトソースをかけて食べていた。クロアチア人はミンチを焼いて野菜を挟んだハンバーガーを作って食べていた。僕がカナダでやっていた生活みたいだ。ドゥブロヴニクでは僕もそうしようと思った。

バスを待っている間、ロマと思われる子供からひたすら金をねだられた。サラエボでもロマの物乞いは見かけたが、積極的に声をかけてくるようなことはなくただ座って叫んでいただけだった。このバスターミナルでは待っている間中しつこく話しかけられた。僕はどう対応していいかわからず、隣に座っていた同じく旅行者であろう若いヨーロピアン女性がどうするか見ていた。彼女らはひたすら追い払っていた。追い払うぐらいだったら僕は無視しようと思い、無視し続けた。

苦痛のバス移動

バスに乗り込む前に一騒動あった。バックパック等の荷物をバスに預けるのに2KM必要だと言われ、僕の前に並んでいたヨーロピアンの若い男性はその支払いを拒否した。「チケット代は払った」と言い通している。よく話を聞いていると、彼らはもうボスニア・ヘルツェゴビナを発つためマルカを所持していないということだった。しかしバスのドライバーも折れなかった。結局彼らはクロアチアの貨幣であるクーナにて支払い、バスに乗車することになった。僕はそれをひたすら後ろで待っていた。バスは既に満席だった。そしてドゥブロヴニクへ行くには国境を越えるため、入国手続もあり余計に時間がかかった。さらにいつものことながら、バスが極端に寒かった。

ドゥブロヴニクに到着

バスに乗っていると海が見えてきた。バスは海岸線を走った。海岸はビーチになっており、多くの人が水着で泳いでいる。ドゥブロヴニクが近いことを示唆していた。ちなみにバルカン半島にはドブロヴニク(Dobrovnik)とドゥブロヴニク(Dubrovnik)という地名があり、ドブロヴニクはスロベニアという国の街でクロアチアのドゥブロヴニクとは何の関係もないそうだ。バスチケットを間違って買うことはないと思うけれど、ここではドゥブロヴニクで統一して表記している。

海沿いではバスの乗客たちが写真を撮り始めた。そこからすぐ街に着くかと思ったけれどなかなか着かず、30分ぐらい経って橋を渡り、ようやくドゥブロヴニクのバスターミナルへとたどり着いた。僕はホステルを予約していたものの、地図を用意しておらず行き方がわからなかった。バスターミナルではWi-Fiも使えず途方に暮れた。バスにて市内へ向かうこともできただろうけれど、とにかく街がありそうな方へと歩き出した。

幸いなことに、歩いてすぐの場所にツーリストインフォメーションがあった。僕はそこで地図をもらい、ホステルの場所を尋ねたが知らないと言われ、住所を見せると

「それだったらここを真っ直ぐ歩くだけだよ」

と言われた。おお、そんな簡単なのかと思ったのが落とし穴だった。僕はそこからバックパックを担いだ状態で昇りの坂道を30分歩くことになった。ドゥブロヴニクはものすごく暑かった。苦行だ。住宅の番地表記を頼りにホステルへとたどり着いた。

ドゥブロヴニクのホステル

ドゥブロヴニクのホステルはとにかく高かった。バスターミナルからも旧市街からも歩いて30分ほどかかる一番安いところを選んだにも関わらず、サラエボやモスタルの1.5倍ぐらいした。しかしホステルは内装が新しくきれいで、サラエボのように金額が分からないなどと言われることもなく、ホステル共通のサービスとして提供されているのであろう予約管理システムを利用してるのが見えた。鍵をかけられるセーフティボックスも大きく、冷蔵庫やシャワーも管理が行き届いていた。何より宿泊客の人数が多かった。おそらく30人はいたと思う。

旧市街へ

ホステルにて荷物を置き、落ち着くと旧市街へ向かった。再び旧市街だ。どこへ行っても旧市街だ。サラエボで会ったフランス人の言葉を思い出す。

「私、ツーリスティックな観光って苦手で、どこ行っても教会とかモスクとかミュージアムとか、旧市街とかそういうのばかりじゃない?もう飽きちゃって。」

まあしかし、僕はこのドゥブロヴニクに5日も滞在することになり、ここでは旧市街を見なければ話にならない。ホステルの受付に道順を尋ね、30分の道のりを歩くとやがて観光客の山を目にした。ここでは離島へ向かうカヤックのツアーが流行っているらしく、声をかけられたが興味が無いため断った。でも僕は現在地が知りたかったため同じ人に尋ねると、ちょうど西側の入口前にいるということだった。旧市街はこの城門のすぐ向こう側だった。

僕が訪れた時期というのはアメリカで制作されているドラマ、ゲーム・オブ・スローンズの撮影場所としてこのドゥブロヴニクが使われていることで有名だった。その話はモスタルのホステルでも話題に出ていた。ドイツ人とクロアチア人の旅行者たちはシーズン1だけ見たと言っていた。僕はもちろん見ていない。この城壁で囲まれた街は、確かにドラマの撮影に使われることだけあった。

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観光客も物凄いが、それだけの場所を維持していることにこの地の人々の意地のようなものを感じた。僕が以前に訪れたチェコのチェスキー・クルムロフなんかは少し商業化が過ぎており、その無闇やたらと金を使わそうとする雰囲気に興ざめした部分があったけれど、このドゥブロヴニクに関してははっきり言ってディズニーランドだった。どう言えばいいかわからないが、商業化しながらもエンタテインメントとして成り立たせている。

山と海

しかしそれでも、僕が一番惹かれたのは自然の方だった。モスタルには劣るものの、ここドゥブロヴニクにもそびえ立つ山が存在した。そして海、アドリア海だ。海水浴で賑わいビーチもたくさんある。人がたくさんいるビーチに行きたいとは思わないけれど、海際に佇んでただひたすら波を眺める時間が好きだったりする。次の日記で紹介するが、ここにはうってつけの場所がたくさんあった。

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城壁の外側を歩き、海沿いを一周しようとしていたら道がなくなっていた。

「道に迷った?それ以上先は行けないよ」

黒髪で水着を着た女性に声をかけられた。その場所は泳げるようになっている。

「地図だと一周できるようになっているみたいだけど」

「ああ、それ、それは城壁の上のこと。ツアーで上を歩けるんだよ」

「なんだ、勘違いしていた」

「あなた、日本人?」

「なんでわかったの?」

「なんとなく。正直日本人と韓国人の見分けはつかないけれど」

「簡単だよ」

「私には無理かな。あなた、今日バスで来たでしょ?でっかいバックパックを背負って。私も今日あのバスターミナルにいて、あなたを見かけたから」

「そうだね、今日ここに着いたんだ」

彼女はスペイン人の旅行者だということだった。宿はどこに泊まっているのかと聞かれ、30分ほど歩いたところだと話した。彼女はこの旧市街のすぐ近くに泊まっていた。金額の話になったら僕の倍ぐらいだということだった。「場所がよくて一人部屋だからそんなもんじゃないの」と話していたら「日本人は節約がうまいね。私も日本人の友達がいて、彼女は福岡に住んでいるんだけど節約が上手かった」などと話していた。

彼女は僕に安くて美味しいレストランを知らないかと聞いてきたが、僕は当然知っているはずもなく「そういうの調べているかと思って」と言っていた。「残念ながら僕はレストランで食事したりしないんだ」と答え、僕はまだ街を見ている途中だったからその場で彼女と別れた。あと3日滞在するということだったから「またすぐに会うかもね」と話しながら。

ホステルにて

あたりも暗くなり、僕はスーパーで食材を買ってホステルへ戻った。モスタルで出会った旅行者のようにサンドウィッチを作り、食べた後はロビーのソファに座ってビールを飲んでいた。

「この街はどう?」

ソファの少し離れたところに座っていた女性が声をかけてきた。金髪を頭のてっぺんでまとめており、鼻にリングのピアスをしている。

「いいね。今までたくさんの旧市街を見てきたけれど、ここが一番すごかったよ」

「でしょ?私も同じ意見、ここにはどれぐらい滞在するの?」

「5日だよ」

「それぐらいあったほうがいいと思う。ここを訪れる人ってみんな1日2日でまた次のところへ行ってしまうから、それはちょっと不十分だと思う」

「ここにはどれぐらいいるの?」

「3週間」

僕は彼女もてっきり旅行者だと思っていたが、話を聞くとこのホステルで従業員のボランティアをしているということだった。トータルで5週間いるらしい。helpxというサイトで応募して、ニュージランドからここに来ているそうだ。ボランティアだからビザもいらず、給料は出ないけれどその代わり宿泊はタダで仕事もそんな大変じゃないとか。このホステルにはそういうボランティアスタッフが5人ぐらい滞在していた。

彼女はタバコを巻いていた。

「自分で巻いているの?」

「売っているタバコの味があまり好きじゃなくて。それに、これだとかなり安いから。吸う?」

「もらっていいの?」

「もちろん」

僕らはホステルの外へ出て、階段に腰掛け二人で手巻きのタバコを吸った。

「その、ボランティアのこともっと聞いてもいいかな?」

「helpxのこと?世界中のホステルで募集していて、応募して行くだけ。あなたぐらいの英語なら大丈夫じゃないかな?旅費はかかるけど滞在費はタダだし、そのかわり部屋はドミトリーになってしまうけど、そういうのが平気ならまた違った旅行を楽しめるよ。あ、ライター借りていい?」

彼女はそのボランティアのこと以外にもたくさん話してくれた。「ごめん、私話しすぎてすぐ火が消えてしまうね。またライター借りていい?」と言われ、僕は何度もライターを貸していた。

次回、19日目雨のち海・山