4日目 ジブラルタル海峡を越えて

前回の続き

コルドバを発つバスは朝8時半、7時に起きて7時半にはホステルをチェックアウトし、8時にはバスターミナルに着いていた。アルヘシラスまでのバスチケットは事前にネットで購入してある。スペイン内は前回と同様のALSAのバス。バスが出発するまでの残り30分で朝食をとってしまおうと考え、電車の駅に併設されているカフェでパンとコーヒーを頼んだ。チェコ好きさんはオレンジジュースを頼んでいた。それがとても気に入ったらしく、今まで飲んだ中でいちばんおいしいとすすめられた。確かにそれは自然のオレンジより甘く、酸っぱさと鮮度の全てが濃縮されたような高品質なオレンジジュースだった。オレンジが有名なのはバレンシア地方だったと思うけれど、グラナダもコルドバも街路樹として自然にオレンジがなっているような土地柄で、モノがいいのかもしれない。

 

結局パンは食べきれず、バスに持ち込みバスで食べる。このバスはめちゃくちゃ長い。目的地アルヘシラスへ着くのは15時半、7時間もある。京都ー東京間の高速バス並だ。今回は座席指定で€32もした。前回のグラナダ、コルドバ間のバスでさえ軽く乗り物酔いしていたため、パンはさっと食べ終わり景色を眺めたり寝たりしながら過ごす。再びオリーブ畑、ひたすらオリーブ畑、それ以外は荒れ地。見るほどのものはない。バスや電車、飛行機での移動にしても、景色を眺めるのが好きという人がいる。僕はあれがあまり理解できない。窓から過ぎ去っていく景色を見ても特に何も思わず、それほど特別な景色というのに巡りあうことも少なく(それは例え外国の初めての土地だとしても7時間も見ていれば飽きてしまう)あったらあったでじっくり見たいだろうし、車窓からの景色はどうしても物足りなく感じてしまう。

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何故アルヘシラスという土地に向かっているかのというと、そこには港がある。スペインの南端にあたり、そこから船に乗ってジブラルタル海峡を横断する。今日は海の向こう側であるモロッコが到着地となる。15時半、アルヘシラスに着くとバスターミナルから東へと歩き、港を目指す。

港の位置はここを参考にした

小雨が降っている。海の方へ歩き、おそらく港へ行くであろう人の後ろをついていきながらチケット売り場まで来た。

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入ってすぐ声をかけられる。

「ジャパン?コニチワ!」

日本人がよく来るのだろう。そして船便の説明をしてくれる。「モロッコへ渡りタンジェに向かうのであれば、アルヘシラスからタリファまでバスに乗り、直接タンジェシティへ向かったほうが楽だよ」と言われた。ここからタリファまではバスで20分、バス代は船代に含まれて€37。アルヘシラスからタンジェMED(新港)に向かう船は€29だけどタンジェMEDからタンジェシティまでは1時間ぐらいかかる。これ、後から考えてみてもタリファから乗る便を選んだほうがいいと思った。詳しくは後述する。しかし僕らは結局乗れなかった。何故かというと、その日タリファからの船は天候不良で欠便となった。風が強いということだ。しかたなくアルヘシラスからタンジェMED行きを買う。

「17時半の船になる」

まだ16時にもなっていなかった。他のカウンターへ行って「16時台の船はないか」と尋ねたら「どのカウンターも同じチケットしか扱ってないよ」と言われた。カウンターにはそれぞれ船の運航会社名が書かれてはいるものの、全て同じカウンターだそうだ。仕方なく17時半そのままチケットを買い、チェックインゲートのようなところまでバックパックを運んで座っていた。ここから1時間半の待機。ただバスに乗って港まで来ただけなのにこの時点でもうかなり疲れていた。昼食をとっておらず、港の二階にある食堂のようなところでハンバーガーを食べる。港でwi-fiが入るのはこの食堂のみ。このあたりはもう既にヨーロピアンが少なく、アラブ人が多い。みなモロッコへ帰るのだろうか。雨脚は強くなってくる。タリファの船は欠航し、アルヘシラスの船も本当は16時や17時にあったはずが遅延し、17時半のみになっているようだから、このまま船に乗れないとここで泊まりになる。

しかし船は17時半にちゃんと来た。雨降しきるなか、バックパックを担いで連絡路を渡り、船に乗り込む。船は大きめであり、中に売店があったり席が余っていたりする。船に入るとすぐに「右にあるポリスの列にならんでくれ」と言われた。入出国の手続きをする。一人の警官(ポリスって言ってたから警官なんだろう)がこの船に乗る人全員の手続きをするから並ぶ、めちゃくちゃ並ぶ。1時間は余裕で待たないといけない。そうこうしていると船は動き出す。船の中は寒い。雨が強い天候のせいだろう。スペインに限らずヨーロッパ、それ以外の乾燥した地域では気温が日照量に比例する。

朝からバスの移動7時間で疲れ果てていたため少し寝た。寝てばかりいる。起きて窓の外を見ると雨も波も大荒れだ。船は遊園地のバイキングみたいにものすごく揺れている。チェコ好きさんは「めげそう」と言いながら死にかかっている。この船は通常2時間ぐらいでタンジェMEDに着くらしいが、港近くに来ても波が高くて港に入れず待機している。結局タンジェMEDに着いたのは夜8時頃。そして寒い。ATMにてモロッコディルハムを引き落とし、バスに乗ろうとするが乗り場がわからない。インフォメーションで聞くと

「雨だしこの時間だから、タクシーに乗ることをおすすめします。バスは40分に一本しか来ないから」

天候、船酔い、寒さ、夜20時の中いつ来るともわからないバスを最大40分待つのはさすがに酷であり、タクシーに乗ることにした。ちなみにバスなら30dh(約350円)、タクシーなら300dh(約3,500円)が相場であり、タンジェMEDからタンジェシティまでは1時間かかる。そういう意味でもやはりタリファからタンジェシティへ直接船で向かったほうが楽だったようだ。特に暑かったり寒かったり、夜だったり疲れている状態でタンジェMEDからシティへ向かうバスを待つのは厳しい。それでもバスを待つなら、港から出て少し離れたところにバス停がある。タクシーは港まで来ている。タクシーの値段は交渉となり、旅行者が近くにいれば乗り合いで分割も交渉できる。僕らは現地の人と乗り合いになり、払ったのは各自150dhだった。

タクシーは山道を走る。道路照明灯はなく、ドライバーは車のヘッドライトのみで爆走する。文字通り爆走する、というのは平気で反対車線にはみ出て走るのだ。まるで峠レーサー。交通量はめちゃくちゃ多くないものの、対向車のライトが見えると通常の車線に戻り、対向車がいなくなるとまた平気でセンターラインを越える。爆走のおかげもあってか、車は45分程でタンジェシティに到着する。タクシーは宿泊予定のホステル近くで止まり、僕らは宿へ向かった。この時既に夜9時台、港でATMを探したりバスに乗るかタクシーに乗るかもたもたしていたため遅くなった。それにしても寒い。僕らのモロッコ初日はそうやって何もしないまま、ただ雨と寒い中を移動移動にくたくたに疲れて終わった。タンジェの滞在というのはこれだけ、明日もまた移動だ。

ホステルではロビーにミントティーが置かれていた。受付の兄ちゃんが「それ勝手に飲んでいいから」と言っていたため、一緒に置かれていたカップに注いで飲んだ。暖かい。そして甘い。ミントティーはハマム以来2度目となる。この味にもようやく慣れた。ミントティーはこのモロッコにいる間中ずっと、思いついたように何度となく飲み続けることになる。チェコ好きさんはミントティーを「はみがき粉ティー」と呼んでいたから、僕はミントティーを勧めてくれた受付の兄ちゃんを「歯磨き粉」と呼んでいた。写真はないが、弱いモハメド・アリみたいな顔をしていた。

次回、5日目 シャウエンへ