最強のクレイジージャーニーは誰か?

TBSで放送されているクレイジージャーニーの話題に触発され、一気に見た。この番組はジャーニー(journey)と謳っている通り世界中であらゆるクレイジーな旅をする日本人を番組に呼んで話を聞き、時には旅に同行してそのクレイジーっぷりを紹介している。また、journeyという英語には旅行以外にもう一つ「人生の遍歴」という意味があり、旅人だけでなく様々な経歴を持った人を追いかけ、紹介している。紹介されるジャーニー(番組でゲストをそう呼ぶ)が具体的にどういう人かというと、世界中のスラムを取材する人、奇妙な建築物・風景・人を撮るフォトグラファー、ブラジルのファベーラに住むフォトグラファー、アヘン製造の村やソマリアに長期滞在するノンフィクション作家など分野も様々であり、実はその筋で有名な人が多い。番組は旅先と人の両方に焦点を当て、世界のぶっ飛んだ場所、物に見せられた人たち、面白い人生遍歴を持った人たちをクレイジージャーニーと呼び、取り扱っている。

 

一気に見たと言っても見た回は限られているが、その中で「一体誰が最強にクレイジーなのか?」ということを思い巡らせていた。個人的に一番興味を持ったのは先日ネットで調べまくりインタビュー等を読み漁った佐藤健寿だけど、本人も言うように彼はあの中で特別抜き出ているわけではない。番組で紹介されるジャーニーたちはそれぞれが本当に様々な分野で突出した人たちばかりであり、彼らを比べるというのは非常に難しく、個人的な好みに大きく左右されることになる。しかしその中でもやはり、万人から見て最強にクレイジーだという人がいた。同じ番組に出ているクレイジージャーニーの中でもちょっとレベルが違う、そんな雲の上の人たちをピックアップしたい。

高野秀行

第32・33回2016年1月21・28日放送分

冒頭の具体例に挙げた「アヘン製造の村・ソマリアに長期滞在するノンフィクション作家」だ。この番組では間違いなくレジェンド級だろう。紹介されたのはゴールデン・トライアングルにあるケシを栽培する村に7ヶ月間滞在していた時の話や、今まで知られていなかったソマリアの実情など、現地での滞在を踏まえた実体験の話になる。ゴールデン・トライアングルについては世界情勢に詳しい人ならよく知っている通り、東南アジアにおいて麻薬栽培の中心地だ。今はどちらかと言うとアフガニスタンを中心とした黄金の三日月地帯の方が有名だが、今ほど麻薬の取り締まりが厳しくなかった10数年前はこのアジアの一帯も特に有名だった。

黄金の三角地帯 - Wikipedia

高野さんはミャンマーにあるその村に滞在するため2年かけてコネクションを作り、実際村に入ると現地の人たちと一緒に労働しながら取材し、それを本にまとめたりした。生活する中でアヘン中毒に陥り、やめられなくなりそうだから村を出たというような話を、笑顔を浮かべながら平然とテレビで語る。

【カラー版】アヘン王国潜入記 (集英社文庫)

【カラー版】アヘン王国潜入記 (集英社文庫)

 

ソマリアについてはこの高野さんが日本人での第一人者であり、高野さんの書いた本を読んだ多くの旅行者がソマリランドを目指した。それまでソマリアと言えば映画「ブラックホーク・ダウン」や海賊のイメージしかなく、旅行なんてとてもできない国だと思われていたがそういう場所に先だって足を踏み入れた日本人がこの高野さんであり、その著書によって今まで謎だったソマリアの実態を日本に知らしめ、ソマリアの中にあるソマリランドという地域に限り、ジャーナリストや戦場カメラマンでなくても慣れた旅行者なら行ける場所だということを多くの日本人バックパッカーに示してくれた。高野さん自身は当然ながらバックパッカーが踏み込めないソマリランド以外のソマリアにも足を運んでおり、そこでの壮絶な実態を番組内で話している。またここでもカートという葉っぱにハマったエピソードが気さくに語られており面白い。

カート (植物) - Wikipedia

高野さんが何故そんな危険な場所へ向かうのかというと、「現地の生活の実態、そこにいる人たちがどんな生活をしているのか知りたいから」という一点に尽きている。高野さんが行く場所は危険のあまり、本を読んでもネットで調べても情報が出てこず、自分で行って確かめてみるしかないため踏み込むということだ。生活の実態を知りたいという視点からあらゆる文化や習慣について敏感に注目しており、それを面白そうに喜々として語る高野さんの姿が一番活き活きとしている。余談だけど、クレイジージャーニーで多くのロケ取材を敢行する準レギュラー的な扱いの丸山ゴンザレスが高野さんの収録を傍聴したいと言ったら、番組側に断られたそうだ。

謎の独立国家ソマリランド

謎の独立国家ソマリランド

 

この本も含め特に旅行者の間で有名

高野秀行 (ノンフィクション作家) - Wikipedia

関野吉晴

第14回2015年7月30日放送分

クレイジージャーニーでは人や文化のある場所を訪れる人たちだけでなく、大自然や大海原を舞台とした探検家も多く登場する。そういう旅人というよりは冒険家の中でも最上級がこの関野吉晴だろう。僕はこの分野について全然詳しくないが探検家の間では紛うことなきレジェンドらしく、植村直己冒険賞というのを受賞されている。1993年から10年かけて、南米からアフリカへ5万キロ(地球一周以上)のルートを科学技術の動力を用いないで走破したグレートジャーニーが有名であり、フジテレビでドキュメンタリーとしてシリーズ放送され、また書籍にもなっている。これはアフリカで発生した人類が地球に散らばったルートを逆走するというコンセプトのようで、自転車や動物といった人力や自然の動力は用いても、車や飛行機、モーターの付いた船など科学技術は用いないのが関野さんのこだわりだった。それは「古代の人類に思いを馳せる」というところからスタートしており、当時の人類たちになるべく近い形で旅したいという思いからだった。

グレートジャーニー ――地球を這う〈1〉南米アラスカ篇 (ちくま新書)

グレートジャーニー ――地球を這う〈1〉南米アラスカ篇 (ちくま新書)

 

クレイジージャーニーの番組内では2011年に敢行された新グレートジャーニー、日本人のルーツを辿るインドネシアから沖縄までの海の旅を一部紹介している。大学教授である関野さん、学生たちと海を渡る船を作るところからスタートし、インドネシアで巨木を切り倒して削り、ヨットのようなイカダのような、ボートのような船を手作業で作る。その古代人と同じアナログな手法を徹底するこだわりは、周りの学生や手伝うインドネシア人から終始バカと呼ばれていた。学生や協力者たちとのそういう関係、状況が成り立っていることも微笑ましく、人徳の成せる技だろう。海の旅の話以外にも、旅行先でお世話になる時役立てるようにと自身の副業として医者になった話なども紹介されている。

関野さんについては既に有名ということもあってか番組での紹介が少なめだったものの、今まで番組に登場した多くのジャーニーにとっても憧れの存在ということで、一つ上のジャーニーと呼べるだろう。

関野吉晴 - Wikipedia

KEI

第2回2015年4月24日放送分

クレイジージャーニーではスラム、ドラッグ、ピストル、ギャングといった世界の闇の部分に切り込んでいくジャーニーが多く出演している。その中でもKEIさんは、現地を取材したり密着した人ではなく、モロあっち側の人であり今まで出演したジャーニーの中でも一際怖かった。まずその見た目と雰囲気、ヤクザ映画の役者の醸し出す怖さと違った本物の印象が伺える。

番組では自身の生い立ちから、逮捕されるにあたってFBIのおとり捜査に引っかかった話、そしてアメリカの刑務所に収監された話、日本とは違うアメリカの刑務所内での実態、出来事について紹介されている。刑務所内で不正や殺人が頻繁に繰り返されるそのエピソード一つ一つが思いっきりマフィア映画の世界であり、映される刑務所の写真、写っている人たち、KEIさん自身も怖すぎて犯罪ドキュメンタリーよりも生々しい。女性の刑務官が囚人に対して売春している話なんて今まで聞いたことがなく驚いた。出てくる話全てのあまりのアウトローっぷり、それを日常茶飯事として語るKEIさんは住む世界が違いすぎて、番組の進行そのものも終始戸惑いが伺える。実際はもっと多くのエピソードが語られていたみたいだがだいぶカットされているようだ。KEIさんは現在、問題を抱える少年少女を救済するためのボランティア団体を運営されているとか。アウトローな領域において今後もこの人を越えるジャーニーはそうそう現れないだろう(いてもテレビに出られないだろう)。また余談だが、別の放送回に出演した写真家の名越啓介は、マフィアの生活に密着取材するにあたりチカーノというマフィアをKEIさんに紹介してもらったとか。

アメリカ極悪刑務所を生き抜いた日本人

アメリカ極悪刑務所を生き抜いた日本人

 

KEIさんの刑務所エピソードは映画化・書籍化されている

テレビの一般視聴者向けというよりその域を一歩飛び越えた、各分野のジャーニーたちさえ憧れるレジェンド級、最強のクレイジージャーニーたちを番組からピックアップしてみました。今回ピックアップした人たちは今のところDVDに収録されていないけれど、DVDに収録されているジャーニーたちのほうがむしろ我々一般人向けにわかりやすいと思うので、気になった人はDVDをチェックしてみてください。

クレイジージャーニー [DVD]

クレイジージャーニー [DVD]

 
クレイジージャーニー vol.2 [DVD]

クレイジージャーニー vol.2 [DVD]

 

番組の進行は松本人志、バナナマン設楽、小池栄子でこの人選も番組の人気のポイントとなっている。松本人志自身がクレイジーな側面を持つため、ジャーニーたちのあまりにクレイジーなところに驚きながらも的確なポイントを掴み、気づき、そこにさらにボケや被せを放り込むという荒業を毎回こなしている。設楽はそこにフォローやサポートを入れたり、小池栄子は常識人としての驚きやツッコミを挟んで突飛なジャーニーを含む場が上手く回っているのはいつもながら芸術の域だと言える。

クレイジージャーニー - Wikipedia