最近読んだ本の話

歴史とは何か

「歴史とは何か」をもうすぐ読み終える。最初の方の話は入りやすかったけれどだんだん難しくなってきて、歴史とは科学であるとか、進歩と歴史とか、歴史における偶然とは何か、テーマとしては面白いものの読み進めていてもなかなか頭に入らない。このエドワード・ハレット・カーという著者は膨大な人名とその人たちの主張、論文が頭に入っているようで、次々と名前が挙がってはその意見に賛同したり真っ向から反対したり話にならないというように辛辣な言葉で一蹴したりしている。学会ってそういう意見のバトルが繰り広げられる場なんだなーこえーなーという印象を覚えるだけで、どっちが正しいとか間違っているなんて判断もできない聴衆の気持ちで読んでいる。著者の知識量に圧倒される。

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ただその、歴史というものが主観で選び綴った客観であり、その選ぶ基準や視点、解釈が歴史を紡ぐ上で重要になり、そこに歴史家の間で力量の差がでるとかそういう話は面白かった。歴史はただ資料を解読するだけの作業ではなく、資料の中から必要かつ重要な項目を選び、それらの原因、因果関係を解釈を混じえながら探り、答えを別の事実という資料につなげ、一つの繋がった歴史としての筋道を立てるのが歴史家としての歴史を紡ぐ仕事なのだと書かれていた。完全な客観なんて存在しないって。あと歴史を考える上で何よりも重要なのが、未来にどう繋ぐか、という部分だと書かれていた。ただ過去を遡るだけではなく、より良い未来を選択するためのヒント、答えを歴史上の成功、失敗につながった選択、要因から学ぶ。それこそがまた、歴史を綴る意義であるとか。この人も前に読んだアイザック・ドイッチャーも歴史家を名乗っており、歴史家ってなんなの?というのがこの「歴史とは何か」にも通じる。歴史の本を書く人、特にこの二人は書いた伝記が有名みたいだけど、歴史家っていう職業は英語でヒストリアンって言うらしい。それはそのままWikipediaに書いてあった言葉で、日本語のWikipediaを見ても二人の項目に歴史家という言葉は出てこなかった。法律家と言えば弁護士になるけれど、歴史家という職業は日本語ではあまり使われないのかもしれない。 

E. H. Carr - Wikipedia, the free encyclopedia

歴史とは何か (岩波新書)

歴史とは何か (岩波新書)

 

ペスト

少し前にペストを読み終えた。ペストと言えばアルベール・カミュの代表作であり、実はこの人は異邦人よりもペストで有名になった人だそうだ。世界中で売れ、絶賛され後にノーベル賞まで取ってしまうアルベール・カミュだけど、40代で亡くなっており死因は自動車事故だがハンガリー動乱を批判したためKGBに暗殺されたなんてうわさがあるとWikipediaに載っていた。

アルベール・カミュ - Wikipedia

その作品である「ペスト」は、彼の出身国アルジェリアの地方都市を舞台にペストが蔓延するという架空の話で、そこで活動する医者を中心に、住人や神父、ジャーナリストなどの登場人物が町で生活する様子を描いている。病と奮闘はしているが、感情を揺り動かすような描写は少なく飽くまで記録のような体裁をとっており、その文章は淡々と事務的であり、日誌のようだった。登場人物はあまり特徴のない人物ばかりで、顔が浮かばず誰が誰だかわからなくなり名前を覚えるのが大変だった。タルー、グラン、コタール、ランベールあたりは見分けがつくようにしておいたほうがいい。

確かに、話自体は面白い。テーマも面白いが、これがベストセラーになったというのが僕にはちょっとわからなかった。この本は読者の心情に訴えるような、表現の激しい本ではない。お涙頂戴のわかりやすい喜びや希望、絶望は描かれていない。読んでいて波乱万丈ドキドキワクワク物語では決してなく、エンタテインメント要素は皆無に近い。だからここに書かれているようなことは、一般読者にとって汲み取りにくいんじゃないかと思った。医師リウーは一切の感情を失ったかのように黙々とペストに立ち向かう毎日で、終りが見えない。結局医者の毎日というのは、ペストの最中であれ平凡な日常であれ、忙しさが違うだけでやっていることや向き合うことは変わらないのではないかと思う。例えば、紛争地や難民キャンプで働く医師、従軍医などはこのペストが蔓延する町で毎日100人近い死者と向き合うリウーに近い環境、近い心境で働いているのではないか。それらの活動はよくよく考えれば無意味なようであり、しかしそれでもただ、彼らは自らの職務を真っ当すべく、医師として可能なことをこなすだけの日々を繰り返す。住人たちも、何かできることはないかと模索する。意味があるのか効果があるのかわからないまま、できることをやる。しかしそれは、 ほとんどの場合感染した患者に対して何の助けにもならない。いつ誰が感染するかもしれないこの町で、なんの効果も示さない。それは医師リウーとて同じことであり、無力と絶望の中で、それでも伝染病に対し、淡々と抵抗を続ける人たちの姿がここにある。この本で題材にされているペストは、自然災害や戦争などに置き換えて考えることもできる。

ペスト (新潮文庫)

ペスト (新潮文庫)

 

奇界遺産

奇界遺産は写真集であり、読む部分はそれぞれの写真の説明になっている。5年ぐらい前にヴィレッジヴァンガードで立ち読みしたことがあり、その時は文章を読まずにパラパラとめくっていた。アジアの地域が多いような気がした。買わなかった。後に、今年になってから奇界遺産を作ったフォトグラファーを知り、いろいろ見たり調べたり、文章を読む機会があった。この人の文章はまさにオカルトを語る人の文章であり、含みを持たせながら答えをはぐらかし、秘密と恐怖、もしくは狂気を煽りつつコミカルな笑いを挟む。結論についてはどこか投げやりな部分もあり、オカルト特有のうさんくささが残る。写真は確かに面白いんだけど、この人の場合は写真と合わせて文章を読むことが一つの完成形だと感じた。それを最初に感じたのはラジオ番組にゲストとして登場していた時であり、文章ではなく音声だったが、その時は写真の対象についての歴史や注釈をものすごく長く説明していた。その注釈、説明、中身と合わせて写真を見れば、対象を取り巻く世界が広がり面白く見れた。

TRANSIT 佐藤健寿 特別編集号 美しき不思議な世界 (講談社 Mook(J))

TRANSIT 佐藤健寿 特別編集号 美しき不思議な世界 (講談社 Mook(J))

 

その次に僕は、TRANSITの佐藤健寿編集号を読んだ。TRANSITはNEUTRALの頃からよく見て買っていたが、写真中心で文章は気になったところだけ読むことが多かった。それはTRANSITに限らず僕自身の雑誌の読み方がそういうものだった。しかし、この佐藤健寿号はもう端から端まで文章を読んだ。見たことのある写真が多かったからかもしれない。南米、カリフォルニア、ポリネシアなど、以前の号で使われていた写真だった。しかし文章は違った。全編書きおろしなのかどうかはわからないが、TRANSIT各号に書かれていたのとは違う、わけのわからない旅行記みたいな文章だった。この号は佐藤健寿の写真と文章でできていたが、他の号を見てみると、一冊一つの地域について、幾人もの写真家と取材陣がおり、いつもはこれだけの人数で分業しているということが意外だった。

奇界遺産に出てくる写真も、クレイジージャーニー含めこれだけいろいろ見た後では知っているものばかりだった。しかし、今回は文章を読んだ。文章が笑える。端から端まで全て読んだ。TRANSIT、奇界遺産で写真にばかり注目していた人は、今度は文章に注目して読んでみると新たな楽しみに触れることができるだろう。

奇界遺産

奇界遺産