「異国トーキョー漂流記」感想・書評

外国人と一緒にいると、目に映る風景も外国人のものになる。東京がトーキョーになる。

日本にいて外国人と関わることはそうそうない。外国人好きであったり仕事で関わる人は別として、それ以外は歩いているときに観光客に道を聞かれるのが年に1回もないだろう。ノンフィクション作家の高野秀行さんは東京にいるときも、あらゆる外国人と関わってきた。外国人が好きだから、という理由ではない。辺境を旅する作家としての仕事のため、と言えばそうなるが、仕事上の繋がりがあるわけではない。知り合いをあたって探しまわったり、偶然出会ったりしてきた。この本に出てくる外国人は、フランス人、スペイン人、コンゴ人、ペルー人、アラブ人、スーダン人、中国人と地域も国籍も様々だが、みな東京で知り合い、関わってきた人たちだ。高野さんは、時には相手の言語を習い、時には宿無しを家に泊め、結婚式のスピーチを頼まれたり身元保証人になったり、世話になったり世話をしたりしている。

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外国人と関わるためには、相手と共通の言語を持たなければいけない。相手の言語を習うにしても、会話を始めるにあたっての下準備が必要だ。テキストを読んだり音声を聞いたり学校に通ったり。高野さんが操る言語は10を越えており、語学の天才だと吹聴されているが、その全てが地道な努力の元に成り立っている。努力の源は辺境へ旅するにあたっての必要性であったり、言語オタクを自称するだけの好奇心であったりする。片道2時間ほどかけてフランス人の家に通いつめ(ちゃんと授業料を払う)、そこでの会話をテープで録音して自宅でも学習する。日本で中国語の学校へ3ヶ月通ったあとに、大連の中国人日本語教師の元で4ヶ月学んだり。決して才能だけでやりくりしてきた人ではない。

そういう下地を元に、東京にいるどこの国の人であろうと共通の言語を持ち、共通の話題を持ち、誰とでも友達になれる。ただ、その過程も決して順風満帆ではない。とっつきにくい相手や時々しか連絡が取れない相手と年単位の時間をかけ、粘り強く関係を築いていく。もっとも高野さん自身にはそのような気負いがなく、好奇心と必要性と人柄の良さで人間関係は自然に出来上がってくる。

高野さんの卓越したところは、言語能力ではなくその人格にあるように思う。言語能力も一般的な日本人と比べたら高いけれど、スイス人やオランダ人のように元々数カ国語を話すことが前提になっている人に比べたら、新たな言語を習得する早さで太刀打ち出来ない。では高野さんの人格における優れた点とはどのようなところか。本人は決して社交的ではないと言う。本やブログを見ればわかるように劣等感の強い人で、そのへんの日本人と同様に偏見も持ちやすい。自分でも至って常識的な日本人だったと言っている。

よくあるように、日本の画一的な社会に個性的な自分が合わないというわけではない。逆だ。私の体質が日本社会に合いすぎるのだ。私は子どもの頃から「まじめだ」「おとなしい」「協調性がある」などと言われて、優等生路線を歩み、名門と呼ばれる大学までたどりついたが、自分としてはもううんざりだった。p23

このような普通過ぎるというコンプレックスを抱え、脱出するために探検部へ入部してから高野さんは独自路線を歩むようになった。世界を見聞きし、様々な人々と触れ合い、壮絶な体験を繰り返しながら唯一無二の辺境作家になった。そんな中でも高野さんの生来の普通さが役立ち、発揮される。偏見を持ちながらも相手と話していると打ち解け、仲良くなる。外国の文化から、人からもたらされた新しい発想に驚嘆し、世界が作り変えられる。些細な間違いや同じ失敗を繰り返す。それがまた、面白おかしい話の元になる。高野さんほど飛び抜けた内容ではないにしても、このようなことは日常において誰もが経験していることではないだろうか。

「外国人と歩いていると、東京がトーキョーに見える」というのも他人の影響を受けやすい高野さんの普通さを物語っている。特別な高野さんを根本で支えているのは、人に対してまっすぐ向き合えるという、誰もが持っているありきたりの部分であるように思う。そこに高野さんの経験で広がった視野と、修練の末の言語能力が組み合わされば、世界のどこでも誰とでも仲良くなれるスーパーマンができあがるのではないか。

高野さんのような辺境の旅をしたり、著作を書くことは他の人には真似できない。しかし、東京にも、日本にも外国人はたくさんいる。日本人との友達付き合いと同じように彼らと付き合うことは、高野さんじゃなくてもできる。日本という国に縛られた常識、意識を取っ払い、相手の言語、文化を素直に受け止め、宗教や国の垣根を越えた人間同士の関係を築くことは誰にだってできるはずだ。

この本を読んでいると、日本に来た外国人の孤独さ、肩身の狭さ、偏見からもたらされる居心地の悪さが伝わってくる。それでも日本で快適に過ごし、日本が好きだと言って残る人もいれば、残りたいけれどやむを得ず出ていかなければならなくなる人もいたり、日本に疲れて出て行く人たちもいる。今となっては日本人でさえ、日本に疲れて脱出する人は多い。移民に賛成だとか外国人と仲良くしろとかは思わない。ただ日本人を相手にするのと同様に、お互い一人の人間同士として関わっていければ、日本が嫌いになって出て行く人は減るんじゃないかなと感じた。別に相手を理解しなくていい。共感できなくてもいい。人と人として向き合い、お互いを発見し、言いたいことが言えればそれだけで人間関係は変わるんじゃないかなあ。

異国トーキョー漂流記 (集英社文庫)

異国トーキョー漂流記 (集英社文庫)

 

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