読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

「怪しいシンドバッド」を読んではいけない

長いこと旅行から遠ざかっている。最後に旅行したのは去年の夏、あと4ヶ月ほどで日本に帰ってきて1年になる。どこかへ行きたい、どこか遠いところへ、そんな気持ちを常に胸の片隅に置きながらも、しばらくは眠っていた。「怪しいシンドバッド」を読んではいけない。力強く呼び起こされる。著者はこの本の中でインド、コンゴ、タイや中国、コロンビア、と世界各地を飛び回っている。全て仕事であったり取材であったりするが、中には伝統あるインディオのみが儀式で使用する「幻の幻覚剤ヤヘイ」を試しに行くという突拍子もないものも含まれている。旅行したい。目的を持たない放浪の旅みたいなのが苦手で、そういうことをやってる本を読んで憧れることはあるが、いざ行ってみると何もやることがなくて、途方に暮れてしまうのが常だった。この本のように、何かを探し求める旅行がしたい。ただ今のところ、その目当てにするものが見つからない。

美人大国コロンビア

著者は90年代のコロンビアを訪れている。今もそうだが当時も麻薬戦争の真っ最中で、父ブッシュは軍までけしかけようとしたが中止になり、代わりにパナマを侵攻した。街には死体が転がり爆弾テロが相次ぎ、著者が渡航チケットを買うにあたってもみんなから止められる。現地でも知り合いの知り合いである日本人の駐在員と会えば「今すぐ帰ったほうがいい」と念押しされる。これは真似できない。この人の旅行は基本真似できないようなものばかりで、だからこそ本にもなるんだが。

そんなコロンビアも悪いことばかりではない。なにやら美人が多いそうだ。これは僕も他の国で実感したことだが、美人が多い国では美人が当たり前で、美人だという理由でもてはやされたりしないから、美人も偉そうにしていない。日本だったら即スカウトされてモデルやらなんやらその美人っぷりを売りにした職業につきそうな人たちが、ちまたにあふれて一般的な仕事に従事していたりする。美人なんてありふれていて、美人であるだけでは得をしない。でも美人であることには変わりない。だったら日本は一体なんなんだと、その美人格差になかなかつらい気持ちになる。

2014ブラジルワールドカップのコロンビアサポーターたち

それだけでなく、90年代コロンビアは男も女も恋愛に積極的だそうだ。著者はことあるごとに、女性の方から口説かれている。それが前述の通り美人だったりするから、なんだそれはと言いたくなる。コロンビア人はカナダで会ったことがあるが、すごくおとなしかったぞ。それはカナダという寒い土地柄に合わせてか、もしくは彼女が会計士かなんかの堅い職業だったことと関係があるのかもしれない。とりあえずそんなコロンビアの空気を味わいたければ、コロンビアまで行くしかない。これは90年代の話だから、今もそうなのかはわからないが。ただ僕はスペイン語が全くできない。スペイン語しか通じない国はキューバで懲りている。勉強したいとも思わない。南米を訪れる予定は今のところない。

コカイン

コロンビアの麻薬戦争はコカインの売買・密輸を中心としたマフィアと政府の対立によって起こっている。著者は「幻の幻覚剤ヤヘイ」を求めて訪れたが、コカインの現場に遭遇する。これはダメだ。強運の著者ならともかく、一般の旅行者は絶対に足を踏み入れてはならない領域だ。命がいくつあっても足りないとはこのことだろう。著者はまんまと騙され、金を巻き上げられた上にコカインの入った袋を持った手で顔面を殴られ、全身コカインまみれになる。それだけで済んだのは強運としか言えない。その後しっかりコカインを吸引し、金を巻き上げ殴ってきた張本人に飯を食わせてもらったりしている(無一文になっているから)。こんな旅行はしたくない。

幻の幻覚剤「ヤヘイ」

その後も著者は「ヤヘイ」のあるインディオの集落を目指して、アマゾン川に入る。「ヤヘイ」とは一体何なのか。なにやら成人の儀式などで使われる薬で、LSDなんかとは比較にならない幻覚を見るらしい。著者が知ったのはアレン・ギンズバーグ、ウィリアム・バロウズの本だそうだ。本文には書かれていなかったが、どうやら「麻薬書簡」という本みたいだ。なんちゅう本を読んでいるんだ高野さん。

麻薬書簡 再現版 (河出文庫)

麻薬書簡 再現版 (河出文庫)

  • 作者: ウィリアムバロウズ,アレンギンズバーグ,William S. Burroughs,Allen Ginsberg,山形浩生
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2007/09/04
  • メディア: 文庫
  • クリック: 54回
  • この商品を含むブログ (31件) を見る
文明を捨て、アマゾン少数民族の「シャーマン」になった米国人がその驚きの半生を語る | クーリエ・ジャポン

こういう記事もあった

著者はアマゾンの奥地にある村にたどり着くが、そこは既にキリスト教の手が入っており、伝統文化は薄れている。ヤヘイは「もう作っていない」と言われる。ここでレヴィ・ストロースの「悲しき熱帯」や均一化する世界といった言葉が出てくる。なんとなくはわかるが、文化人類学を学んでいない者にとってはピンとこない。

グローバリゼーション-文化と社会 世界は均質化するのか、それとも・・・ - ジェトロ・アジア経済研究所

317夜『悲しき熱帯』レヴィ=ストロース|松岡正剛の千夜千冊

最終的には運良く「ヤヘイ」にありつけることになる。その顛末は読んでのお楽しみだが、その後「ヤヘイ」は「アヤウアスカ」という名前で日本にも入ってきたそうだ。合法ドラッグとして売られていたという。それがここに出てきたヤヘイと全く同じものなのかどうなのか、裏のマーケットで出回っているものだからよくわからない。

アヤワスカ!―地上最強のドラッグを求めて

アヤワスカ!―地上最強のドラッグを求めて

その他にも中国の土楼を訪れたり、野人を探したり、それぞれ短くはあるがバラエティに絶えない。何処かへ行きたい。遠い何処かへ。そんな欲求を刺激する「怪しいシンドバッド」は読んではいけない。
怪しいシンドバッド (集英社文庫)

怪しいシンドバッド (集英社文庫)

お題「読書感想文」