引越しシーズンも間近に迫ってきましたね。ここでは学生や新入社員などが住む、単身向けのワンルームマンションについて、以前に賃貸マンションの管理会社で働いていた人間から「部屋探しのポイント」をつらつらと述べてみたいと思います。ここで書くようなことは、いわば業界の常識みたいなもんですから、知っている人が見れば当たり前の内容ばかりです。引越しをするにあたって「何を基準にすればわからない」「数が多すぎて選べない」という人なら参考になるかもしれません。
- ①家賃:何よりも安ければいい
- ②場所:物件の価値は立地で決まる
- ③間取り:住みやすい形とは
- ④構造:騒音を気にするならば…
- ⑤日当たり:なぜ南向きなのか
- ⑥設備:最近のマンション事情
- おまけ:敷金、礼金、その他費用
- 好みに合ったお部屋を
①家賃:何よりも安ければいい
当たり前だ、と思うかもしれません。しかし実際は予算を考えて部屋を探すものの、いろいろ欲張っているうちに高い家賃の部屋を決めてしまい、予算オーバーになって毎月の家賃に苦しむことが珍しくありません。自分にとって適性な家賃を判断する基準は、実は月収ではないんです。「部屋にどこまで求めるか」です。たとえ高額な収入を得ていても、求める以上の高い家賃を払うのは無駄でしかありません。
たとえば会社員だとします。朝8時に出勤して、夜8時に帰宅するとします。そうすると1日の内12時間は自宅にいないことになります。さらに8時間寝るとすれば、部屋を使う時間は実質4時間しかありません。24時間中のたった4時間です。言い換えれば残り20時間は、部屋を使っていないわけです。家賃の大半はそこにつぎ込まれています。無駄じゃないですか?
物を保管している?倉庫スペースを借りれば十分じゃないですか。睡眠環境を整えている?だったらベッドにお金をかけましょう。休日はずっと家にいる?休日は一週間にどれだけありますか。そのうち外出する時間を考えたら、どれだけの時間を部屋で過ごさないでしょう。毎月どれだけの家賃を、使わない部屋に払うか考えてみてください。僕はそういうの全部無駄だと思います。逆に、自宅で仕事をしていたり部屋にいる時間が長ければ長いほど、家賃に払うお金は有益になってきます。
でも実際そんなふうに割り切るのはなかなか難しいことでしょう。「いい部屋に住みたい」と誰もが考えます。インテリアを買い揃えたり、好きなグッズを並べたり、彼氏彼女や友だちを呼んで楽しく過ごしたり、唯一なんでも自由にできるのが自分の部屋です。家賃をコストと考えるか、それとも「快適な環境」を資産と考えるか、そのバランスが「部屋にどこまで求めるか」を決めます。部屋を決める際にはそのバランスを考えて、家賃が高い、安いを判断してください。
ではなぜ家賃が安くなったり高くなったりするのか、それは以下の条件で決まってきます。
②場所:物件の価値は立地で決まる
家賃の次に大切なのは場所ですが、そもそも家賃のほとんどは場所によって決まってきます。いい場所は家賃が高い。これも当たり前のこととして理解してもらえるでしょう。では、いい場所とはどんな場所なのか。土地代が高い場所、つまり都会であればあるほど家賃が高くなります。理由は便利だから。例えば新宿や丸の内に住んでいれば、会社まで徒歩で行けるかもしれません。満員電車に乗らなくていいどころか、通勤定期さえ持たなくていいんです。近所にスーパーはないかもしれませんが、自転車で行ける範囲になんでもあります。休日に遊ぶところだっていくらでもあります。
僕は大阪で働いていたときに天満橋や難波に住んでいました。天満橋からは会社まで自転車で5分でした(本町に勤めてた)。難波からは電車と徒歩で15分ほどでしたが、自宅から徒歩圏になんでもありました。部屋は狭かったですが、家賃はそこそこしました。物件を決める上で、場所の優位性は何よりも優ります。場所を決める要素としては
- 最寄り駅(駅からの距離、路線も大切です。通勤時間、休日のことも考えて)
- 周辺環境(治安、にぎやかさ、静けさ、住民の層など地域性があります)
- 周辺施設(スーパー、コンビニ、ファストフード、ジム、公園など)
このあたりがメインでしょうか。学生が部屋を決める場合、学校の近くであっても、学校がへんぴな場所にあれば家賃は安いでしょう。通学よりもバイトや遊びといった学生生活を優先したければ、街なかに住んだほうが過ごしやすいかもしれません。自然が好きだったら、多少会社から遠くても郊外に住む人もいるでしょう。部屋を決める前に自分が何を優先して、どんな場所に住みたいか想像してみてください。そして優先順位を決め、それを予算に当てはめて自分に合う物件を選んでください。僕だったら図書館の近くに住みたい。
※場所で気をつけなければいけないのは、駅が近くても電車の音がうるさい場所などがあります。そういうところはその分家賃が安かったりもします。
③間取り:住みやすい形とは
間取りについては、住んでみなければ意外とわからないことが多いです。8帖の部屋よりも1帖せまい7帖の部屋が使いやすいこともあります。間取りは一般的に、正方形に近ければ近いほど、家具を配置しやすく使いやすいと言われています。逆に縦長の部屋は「うなぎの寝床」と言われ、使いづらい部屋として定番です。また、キッチンが部屋の中にある1R(ワンルーム)よりもキッチンが別になっている1Kのほうが住み心地がよく人気です。
他にもセパレートタイプと呼ばれるバス・トイレ別であったり(一緒になっているのがユニットバス)、独立洗面台であったり、風呂の前に脱衣所があったり、室内洗濯機置場であったり、スペースが増えれば増えるほど住みやすい間取りとされ、その分だけ家賃が上がってきます。「間取り」の項目で家賃を決める要素は「専有面積」です。これは6帖、8帖といった部屋の広さだけでなく、キッチンや風呂場など全てのスペースを含む、ドアの内側の面積を指します。
たとえば専有面積25㎡の部屋が2つあるとします。仮にAとBとしましょう。AとBは同じ家賃です。AとBは専有面積と家賃が同じでも、間取りが異なります。
A:1Rタイプ8.5帖、キッチンは室内、ユニットバス、脱衣所無し、ベランダに洗濯機置場あり
B:1Kタイプ7帖、キッチン別、バス・トイレ別、脱衣所に洗面台、室内に洗濯機置場
(※㎡数や帖数は飽くまで参考)
さて、あなたはどちらを選びますか。部屋は明らかにAのほうが広いですが、一般的に人気があるのは使い勝手のいいBです。現実には家賃もBのほうが高いことが多いです。このように同じ専有面積であっても、間取りの違いだけで使い方や住みやすさが異なります。部屋の広さを優先するか、それとも使いやすさを優先するかはあなた次第です。
僕の優先順位としては、バス・トイレ別、キッチン別ぐらいですね。それも安ければ別になくていい。脱衣所や洗面所、洗濯機置場はこだわりません。
④構造:騒音を気にするならば…
マンションのクレームナンバー1が騒音と言われています。中には騒音を苦にして引越していく人もいます。しかし、室内の騒音については住民の個人的な感覚の差が大きいため、隣や上の人がうるさいかどうかなんて、住んでみないとわかりません。場合によっては隣や下の人がすごく神経質で、自分がクレームの対象になることもあります。また、近くの人がいつ引越して、次に入ってくる新しい人がどんな人かも予想できません。
それでは対処のしようがないのかというと、必ずしもそうとは言い切れません。なぜならマンションの構造によって、音の伝わり方が違うからです。マンションの構造は一般的に4書類あります。
- 木造
一番音を伝えるのはなんといっても木造です。一軒家の中にある隣の部屋感覚で音は伝わります。 - 鉄骨造
S造と呼ばれる造りです。アパートや低層マンションはほとんどがこのS造です。水を流す音や壁、床の音、外からの音がよく伝わります。「そういうもんだ」と思っていたらある意味あきらめがつくかもしれません。 - RC造
少しましなのはRC造と呼ばれる鉄筋コンクリート造です。S造に比べればはるかにましですが、完全に音がなくなるわけではありません。特に隣室との壁に鉄筋が入っていない場合は、その壁から音が伝わります。壁に鉄筋が入っているかどうかは、だいたいは柱が通っているかどうかが基準になりますが、壁を叩いてみてもいいかもしれません。 - SRC造
もっとも音が伝わりにくいと言われるのが、SRCと呼ばれる鉄骨鉄筋コンクリート造です。ワンルームマンションではめったに見かけません。
S造は建築費が安いため、部屋が広く家賃が安いことが多いです。RC造のマンションはアパートなどより多少ゴージャスな分、せまくて高いことが多いです。しかし騒音を気にするならば、どう考えてもRCをおすすめします。RCなら音に悩まされないと断言はできませんが、S造に比べてその確率は減ります。もう一度言いますが、騒音はマンションのクレームナンバー1と言われています。自分がどれぐらい気にするか、よく考えてみてください。
他にも角部屋は人気が高いです。隣の部屋が一つ減ります。また、マンションは階数が上になるほど人気が高く、家賃も高いことが多いです。日当たりは当然上のほうがいいですが、エレベーターを待ったり外へ出かけるときに不便があったりします。1階2階は日当たりが悪い以外にも、外から見られたり入られやすいということで、防犯上避ける人もいます。個人的には日当たりも防犯も気にしないため、外出しやすい一階が便利だと思っています。何より安いほうがいい。
⑤日当たり:なぜ南向きなのか
そういうわけで僕は日当たりを気にしないんですけど、世間一般では重視する人がかなり多くいます。日当たりでもっとも人気があるのは南向きです。バルコニーが南側にあり、日が昇っている間は部屋全体に日が差します。その次に東、西ですが、このあたりはあまり変わりません。もっとも人気がないのは北向きです。
日当たりで何が変わるかというと、まず室内の温度が変わります。特に冬場など、南向きは暖房をつけていなくても日当たりだけで室内の温度が上昇します。北向きはその逆です。次に部屋全体の明るさです。南向きであるというだけで、昼間は部屋の中が明るいです。北向きはそれの逆です。バルコニーに洗濯物を干すのであれば、わりと顕著にその差が現れます。そしてやっぱり、南向きのほうが家賃が高い傾向にあります。
ただ南向きと言っても、目の前に大きなビルが立っていれば関係ありません。また、1階の部屋などは南向きであろうとなかなか日が当たらないことが多いです。どうしても日当たりにこだわるなら高層階を選び、前の敷地に大きな建物が立たなそうかどうかを見極める必要があります。例えば古い建物があるなら、取り壊されて高層ビルが立つ可能性があります。駐車場や空き地になっていれば、売却されてビルが立つ可能性もあります。そして、それらの予想は外れることも大いにあります。日当たりにはそういった不確定要素が多いため、ある程度は妥協が必要かと思います。
そもそも日当たりが重要になってくるのは、昼間家にいる時間が長い人です。主婦のいる3LDKなどのファミリーマンションでは、日当たりが絶対重要というのもわかります。しかしワンルームマンションに住む人にとって、日当たりがどれだけ大事かどうかは、自宅にいる時間帯などよくよく考えてみてください。
⑥設備:最近のマンション事情
マンションの設備は室内設備と共用部分設備にわかれます。室内設備の代表的なものは、間取りにも出てきたガスコンロ、バス・トイレ、クローゼット、バルコニー、洗面台、浴室乾燥機、Wi-Fiなどです。モニター付きインターフォンやウォシュレットを重視する人もいますね。自動お湯はりがある風呂もときどき見かけます。
共用部分の設備はオートロック、宅配ボックス、エレベーター、駐車場、駐輪場などです。ときどき部屋数が大きいマンションでエレベーターが1機しかなく、めちゃくちゃ待たされるようなこともあります。オートロックは防犯上の効果で言えばほとんどありませんが、見た目のゴージャス感となんとなくの安心感があります。車や自転車を日常的に利用する人は、使えるかどうかあらかじめ確認しておきましょう。スペースがいっぱいだったり、駐輪場でも有料なことはよくあります。特に原付きやバイクは置けないことがほとんどです。
宅配ボックスを設置しているマンションは多いですが、宅配ボックスのメーカーによって対応が異なります。宅配ボックスは満杯になっていることがよくあり、管理会社が管理するタイプとメーカーが管理するタイプとあります。メーカーが管理してくれるタイプの方が圧倒的に融通がきくため、宅配ボックスを頻繁に利用したい人はメーカーの連絡先が載っているかどうか、部屋を見に行ったときについでにチェックしておきましょう。メーカーによっては誤動作があった場合に、遠隔で開けてくれるようなシステムも備わっています。
最近よく、自作の宅配ボックスをマンションの廊下に設置している写真をTwitterで見かけますが、あれは消防法上問題があるため、たとえ大家さんの許可が出てもやらないほうがいいでしょう。戸建住宅ならワイヤーなどで持ち去れないよう箱を固定したり、勝手に鍵を変えられたりいたずらされないような施錠の仕組みがしっかりしていればいいんじゃないでしょうか。
僕の個人的な意見としては、設備にこだわる部分はないですね。それより何より安いほうがいい。
おまけ:敷金、礼金、その他費用
敷金
最近では敷金がほとんど返ってくるケースも珍しくありません。よほど部屋を雑に扱っていない限り、敷金は退去時に返還されます。中身について詳しくは、国土交通省のガイドラインを参照してください。ガイドラインに沿わない形で敷金が返ってこなかったり、改装費用などを要求された場合は国民生活センターなどで相談に乗ってもらえます。
礼金
礼金については今のところ、払いきりのお金となっています。礼金は一般的に、大家さんにとっての家賃以外の一時収入になりますが、現実は空いた部屋へ次に入る人のための改装費として使われます。一度人が住んだ部屋を元通りきれいに直そうとすると十万単位のお金がかかり、損傷が激しい場合下手すれば100万単位のお金が飛びます。個人的には礼金なしで汚い部屋に引越すというのもありだと思ってますが、日本の賃貸住宅では前の住人の痕跡を消すためにかなり徹底して改装を行うのが通例となっています。礼金なしで家賃が高い部屋も最近は増えています。
更新料
更新料とはその名の通り、契約更新に伴う料金です。通常は手続きを行わずに、次の家賃と一緒に支払うだけになります。1年契約か2年契約が一般的ですが、最近は更新料無しの物件も多いです。定期借家契約の場合は更新ではなく再締結を行ったり、引越さないといけない場合もあります。更新料を払うのが嫌で引越しする人も多いです。引越し費用や礼金よりも更新料が高くつくようであれば、この機会に引越しするのもいいと思います。大家さん側からすれば更新料が入らなくても、更新のタイミングである程度の退去が予測できるため、次の募集に向けて準備がしやすくなります。
保証人代行会社
今では当たり前になっていますが、連帯保証人をつける代わりに、保証人代行会社がつくケースが多いです(保証会社と呼ばれることが多い)。保証会社とは、家賃を滞納したときに大家さんの代わりに取り立てを行う会社です。さらに夜逃げがあった場合には司法手続きを代行しくれたり、大家さんにとって大変便利なサービスです。部屋を借りる人にとっても便利なことがあります。それは連帯保証人を探さなくていいというところです。連帯保証人は誰でもなれませんし、印鑑証明を集めたりといった手間もかかります。保証会社は費用がかかりますが、月々の支払いではなく払いきりであることがほとんどです。
好みに合ったお部屋を
部屋を選び、決める要素はたくさんあって余計に迷うと思った人も多いかもしれません。大事なのは優先順位をつけることです。自分にとって重要なことと、そうでないことを振り分けていけば、自分に合う部屋を選ぶのは簡単です。最後にもう一度項目をまとめておきましょう。
- 家賃(予算、その根拠)
- 場所(通勤時間、最寄り駅、環境、施設)
- 間取り(どの部分にこだわるか)
- 構造(鉄骨造、RC造、階数など)
- 日当たり(南向き、階数、重要度)
- 設備(室内設備、共用設備)
あとは雰囲気や印象、直感で選んでください。どんな物件にも必ず良いところと悪いところがあります。粗探しばかりしていても消耗するだけです、何かを選ぶときは気に入ることが一番大事です。住んでみて思ってたのと違っても、最初に気に入った部分を大切にしてください。ここに書いたことはあくまで参考程度にとどめておき、本当に知りたい確かな情報を自分で調べ、自分合った物件を自分なりに、自分の判断で選びましょう。
※個別に質問があればコメント欄やヒトコト投稿へどうぞ。 1年前に書いたこの記事の書き直しです。他に前の仕事に関する記事。