「20センチュリーウーマン」感想・評価

「20センチュリーウーマン」というタイトル

どうでもいいことなんだけど、このタイトル「20センチュリーウーマン」はなんて発音されるのだろう。原題"20th century women"はトウェニィス・センチュリー・ウィミンとでも発音されるのだろうが、やっぱりこの邦題は「トゥエンティー・センチュリー・ウーマン」なのだろうか。まさかニジュウではないよな。原題をそのまま訳せば「20世紀の女性たち」で、「映像の世紀」みたいだから邦題としては野暮ったく堅苦しい感じがあるけれど、間違っていないから違和感はない。マンガ「20世紀少年」のタイトル元にもなったT.REXの「20TH CENTURY BOY」はトゥエンティーセンチュリーボーイと呼ばれていたような気がするから変ではないのか。日本語だと複数形の扱いもあいまいだし、女性⇒ウーマンをやってしまうのも日本語的にはアリか。でもGirlsはガールズだよな。もっといい邦題はないものかと考える。日本の映画だったら「昭和の女」みたいになるのかもしれない。しかしこの映画のイメージとは全く異なる。何かいい邦題が思いついたらおしえてください。

ある家庭の物語

そしてこのタイトルの通り、舞台は1979年アメリカ、カリフォルニア州サンタバーバラ。物語は20世紀という時代に沿って進んでいく。「女たち」というのは55歳の母親と、部屋を間借りしている24歳の女性のアビー、そして17歳の隣人ジュリーの3人。この映画を見た大抵の人はアビーかっこいいと思うだろうし、お母さん大変だなーと思い、ジュリーだるいなーと思うんじゃないだろうか。いや、それは僕個人の感想かもしれない。監督マイク・ミルズは51歳の男性、まさにこの時代を生きた人であり、この映画にはジェイミーという15歳の少年が母親の息子として登場する。母親は監督の母親がモデルであり、アビーは姉をモデルとしているそうだ。

そういうある家庭の物語。母子、間借りの若いフォトグラファー、毎日遊びに来て寝泊まりする隣人の女の子、何でも修理できるヒッピー崩れのおっさんまで同居している。日本ではあまり見かけない家庭だけど、こういうよくわからない家に住むのはとても憧れる。家族っていう定義があいまいで、血の繋がりは母子だけ、でも血が繋がっているとはいえ、お互いの考えていることはわからない。思春期だし、時代的な感性も違う。同居人たちもすごく親密というよりは、それぞれ独立した上の信頼関係で結ばれている。愛憎満ち溢れるドロドロした人間関係ではなく、共に食事をし、話し合い、相談し合い、それでも過干渉にはならずお互いを尊重し合うような関係。血の繋がりがある家族だけよりも、僕はこういうフラットな家が理想だ。

時代の流れを感じる

20世紀、60年代から80年代をテーマにしているように、時代を象徴する景色、ルール、音楽が充満している。母親はひっきりなしにタバコを吸い、ヒッピー崩れのおっさんは性にゆるく瞑想したり陶芸やったりしている。フォトグラファーのアビーはパンクロックに夢中、それでもジェイミー少年が乗り回すスケート文化は今でも生きている。ジュリーも現代の女の子とそう変わらないように見える。

この映画の中ではそれぞれの世代、文化、価値観に応じた「かっこいいと思うもの」が対比されており、それぞれ混ざり合わず、相互理解が進むこともない。アビーはすごくかっこいいんだけど、アビーがかっこいいと思っているものは現代を生きる僕にとって、かっこいいと思えない。文化はそうやって移り変わっていくんだろうな。流行とかもそう。それぞれ確かにいいんだろう、でもやっぱり今じゃないなって思う。90年代に流行ったカルチャーなんかも今見ると古臭くてかっこわるく思ったりするし、バブルでも何でも懐古しているおっさんキモいって感情は普遍的にある。かと言ってゼロ年代に10代後半から20代前半を過ごした僕らはもう今の文化についていけない。時代の流れを感じる。

結局何の映画?

コメディと書かれていたからアダム・サンドラーみたいなコメディ映画なのかと思ったけれど、笑うところは全然なかった。ジャンルで言うなら「リトル・ミス・サンシャイン」とかああいう感じの喜劇。でもあんなにわかりやすいコメディードラマではない。もっと抽象的で、答えが曖昧で、建物から小道具から映像の魅せ方からつなぎ方までアート色が強い。母が顔をしかめながらタバコを吸うシーン、アビーが音楽にのって踊るシーン、ジェイミーがスケートに乗るシーンは何度も出てきて、つい見入ってしまう。ジュリーは決して美人じゃないのに、止まった一瞬の表情に引き込まれたり。そしてこの映画が気になった最初のきっかけは、パッケージデザインが良かったから。公式ページも良かったんで気になったら覗いてみてください。

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映画『20センチュリー・ウーマン』公式サイト

いわゆるアート系のよくわからない映画かっていうとそうでもない。話の筋ははっきりしており、現実にあった時代とリンクしている。テーマは家庭と年代、人間関係みたいなそういう日常の平凡な話。それがおもしろかったかというと、おもしろくなかったわけではない。でもおもしろかったというよりは、見ていて落ち着く映画だった。実は結構いろんなことが起こっているんだけど、終始やわらかく映し出されている。激しい映像や音響の映画が好きな人には退屈だと思うが、アート系のよくわからない映画苦手な人が、自然にそういう要素に触れられる映画だと思う。

パンフレットが評判高くて、買っていないからパンフレットだけ買いに行こうか迷っている。それはなかなか恥ずかしい。

i-dの記事

同じ監督の前作。こちらもアート色がただよっているそうだ。

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