日記

長くほったらかしていた日記。

最近読んだ本

草枕

智に働けば角が立つ。情に掉させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。

この冒頭は誰でも知っていると思う。夏目漱石だ。夏目漱石は今まで3冊しか読んだことないんだが、今回この本をもらい読むことになった。草枕、時代は日露戦争のあたり、画家の青年が東京の喧騒を離れ、田舎に逗留する話。都会の俗世間に嫌気が差し、山奥の自然に溶け込む中で芸術的な感性を養おうと試みるが、たとえ田舎の山奥でも人が交われば俗は生じる。とある屋敷に滞在し、そこの美人奥さんは出戻りで、いろいろと変な噂を聞く。画家は奥さんを題材に画を描きたいと思うが、何かが足りないと感じる。

田舎の山奥が舞台ということで、全体を通して長々と自然の描写が続く。自然を愛でる態度に割かれるページがかなりの割合を占めている。文体も古典的なもので、そのようないかにも芸術家らしい本が苦手であれば、この本を読むのは苦痛でしかない。この芸術家っぽさと山の住人との掛け合いなんかは、聖と俗を対比するような役割を果たしており、この作品全体のテーマに通じている。画家の青年は、山奥の自然を題材に、何度も俳句を詠む。手帳にスケッチもする。しかし画は一向に描かない。一枚も描かない。

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夜想曲集

「それに、おれ自身の音楽で開くドア以外、どんなドアにも開いてほしくねえ。」

カズオ・イシグロの、ミュージシャンばかりを題材にした短編集。ミュージシャンにまつわる悩みを題材にした、と言ったほうがいいかもしれない。売れ線と作家性の解離とか、一度売れたのに落ち目とか、作曲がうまくいかないとか、周りで成功した人の噂とか、ブレイクを目指すあの手この手とか。

今まで読んだカズオ・イシグロの本は、豪邸の執事が主人公だったり子供や母親が主人公だったりと、作者自身とは遠く離れた架空の舞台設定があった。しかしこの短編集の主人公は、年齢や立場はいろいろあるが、いずれもミュージシャンである。カズオ・イシグロ自身、作家になる前はミュージシャンを目指していたこともあり、心情や考え方など著者に身近な物語になっているんじゃないかと感じた。小説家と音楽家という違いはあれど、作り手という立場も似通っている。

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最近見た映画

秋刀魚の味

僕が見た小津安二郎2作目。少し前に東京物語を見て、表面的な良さはわかったが世界的に有名になったのがいまいちよくわからなかった。難しい映画なのかなーと思いつつ、今回は『秋刀魚の味』を見た。これはすごくわかりやすかった。なにより淡々と毒づくコメディ要素にめっちゃ笑った。

東京物語と同様に、役者にセリフの演技を一切させず、シーンとしての絵造りが中心の作風。感情の起伏なんかがセリフではほとんど描かれていない。役者の演技は表情が中心になるが、その中でも加東大介みたいに棒読みにならない役者はいて、このあたりの自然さ、不自然さの違いはなんだろうかと考えてしまう。

全体的な絵の流れとして、昭和の日常風景を鮮やかに描いているのが印象的だった。なんというか、まるでドキュメンタリーのようだ。昭和風俗史の絵巻とも言える。まあ、あんなきれいな娘は日常家庭にいないし、いかにも俳優めいた男が団地に住むサラリーマンだったりすることもないが。

昭和に残っていた戦後の空気も、この作品に限らずよく見受けられる。笠智衆演じる主人公の平田周平は、大日本帝国艦隊において戦艦の艦長を務めていたが、戦後は企業でサラリーマンの役職についている。彼は街で海軍時代の元部下と再会し、バーで飲むことになる。そこでの会話、

「なんで日本は戦争に負けたんでしょうね」

「けど、負けてよかったじゃないか」

実に軽い。バーのBGMには軍艦マーチがかかり、元部下の男性は当時やっていた行進をその場でやって見せる。この映画が公開されたのは1962年、終戦から少し時間が経ち、高度経済成長の真っ只中で、戦争の当事者たちも落ち着いて話せるようになってきた時期だったのかもしれない。このシーンはコミカルに描かれていたが、どう捉えていいのか複雑な気持ちになる。

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最近見たネット

底辺文化系トークラジオ「二九歳までの地図」

ネットと言うかPodcastなんだけど、ジョギング中に聞くものをいろいろ探していて、行き当たった。一般人(有名人ではない人)が主に映画について語っているトークラジオで、ただただ内容がおもしろい。僕が特に好きなのはこの回。

映画というよりはサイバーパンクというジャンルがアメリカにおいてどのように生まれ、日本でどのように馴染んでいったか4時間近くに渡って語られている。中心になるのはもちろん『ブレードランナー』なんだけど、そこからどのように派生してサイバーパンクが広まっていったか、日本のアニメやSDガンダムについても語られている。

僕はSDガンダム世代だからめっちゃおもしろかったんだけど、SDガンダムとサイバーパンクがどう関係しているかというと、サイバーパンクの定義として人間と機械の融合みたいなものがあり、レプリカントのような人工物が自我を持つという概念があった。SDガンダムはまさにそれで、本編のガンダムにおけるモビルスーツ(兵器)としてのガンダムではなく、自我を持った機械として描かれている。

他にも今敏回や『君の名は。』回などを聞いた。アニメばっかりなのは僕自身が見たものについて語られている回を聞いたからであって、基本は映画の回が多い。

底辺文化系トークラジオ「二九歳までの地図」

底辺文化系トークラジオ「二九歳までの地図」

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VICE動画

この回は名越啓介という写真家が、愛知県豊田市にあるブラジル移民の団地に住み、写真の撮影を行ったことについて。写真集も最近出た。

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ブラジル移民の実態もおもしろければ、ブラジル移民の日本との関わりもおもしろい。移民は日本においてまだマイノリティだから、日本のルールに従わされている感じが窮屈でもある。これがマジョリティになっていくと、移民の受け入れ方も大きく変わってくるだろう。同時に高野秀行の『移民の宴』も読むと、より理解が進む。

クウェートの富豪が富の象徴として保護動物を飼うことに、暗に批判を示す動画。Instagramで見せびらかすために大型肉食獣を飼う事自体、確かに褒められた行為ではないのかもしれないが、アラブ諸国の伝統にチーターを用いた狩りがあることも紹介されていたり、西洋的価値観を押し付けて一方的に批判するものでもない、っていう見方も提示されている。

その他

香港旅行記完結

たった3泊4日なのに思いの外分量が多くなった。

クリスチャンと話した

先日、機会があってアメリカから来ている若いクリスチャンと話すことになった。というか、初めはクリスチャンって知らずただの文化交流生という話だったが、よくよく聞いてみれば文化交流をやっている団体がキリスト教系だった。

どんな流れか忘れたが、結局延々と聖書やキリスト教について話すことになった。彼らはプロテスタントで、聖書を信仰の中心としていた。聖書を持ち歩いてもいた。アメリカにおいてもキリスト教は信仰というより文化基盤、習慣となりつつあるから、こんなに熱心なクリスチャンと会って話したのは初めてだった。

いろいろ疑問を投げかけてくれと言われ、一神教に関するなんやらの話をしているときに僕が「キリスト教のゴッドとイスラム教のアッラーは同一人物だよね」と言ったら以下のように返ってきた。

「そう言う人もいるが、違うという言説が一般的だ。なぜなら我々の神=ジーザス・クライストは、神であると同時に人間であり、聖霊でもある(三位一体説)。しかしイスラム教においてのジーザス・クライストは単なる救世主の一人としてしか認識されていない。ユダヤ教においては救世主であることも認めていない(認めた人がキリスト教徒になった)。だから我々の神=ジーザス・クライストと、イスラム教やユダヤ教の神とは別物という解釈になるんだよ」

まあ、クリスチャンからすればそうだし、ムスリムやジューイッシュからすればそうなんだろうな。主観と客観の違いか。

ドイツ人と話した

彼女は今年から日本に住んでおり、ときどき話すことがある。職業はデザイナーで、受注先はヨーロッパ諸国。相手先とはスカイプでやりとりしている。菜食主義者だから日本で外食するときに困っていると言っていた。日本語はitalkiで数ヶ月勉強した程度だからあまり上手くない。だから具体的な会話になると英語を使っている。

ドイツ人はみんな英語に卓越していると思っていたが、どうやらそうでもないらしい。学校では読み書きを中心に習うと言っていた。彼女自身は仕事で使うため、別に英会話を習っていたそうだ。もっとも、言語のベースが同じだからか上達はめちゃくちゃ早い。オーストラリアで会ったドイツ人も、オーストラリアに来て2ヶ月で英語をマスターしていた。彼らは日本語の上達も早い。あの辺りでは多言語を使うことが日常的だから、他言語習得に慣れているのかもしれない。

つい最近話すことがあり、相手は僕が無職であることを知っているから「もし仕事を探しているなら、これどう?」と勧められた。彼女の友人が働いていて、今マネジャーを募集しているとか。Remote Yearというアメリカの企業だった。

Remote Yearとは、リモートワークの環境を世界12カ国で整えるという事業だ。1年間のツアープログラムのようになっており、参加者は1ヶ月毎に別の国へ移動する。1年で合計12ヶ月、12カ国になり、その中に日本の京都が含まれている。いやいや、俺なんかに無理でしょ。

もっと具体的に説明すると、リモートワークという言葉を聞いたことがある人は多いと思う。毎日会社などに出勤するわけではなく、遠隔地で主にネットを介して納品したりする形態を指す。まさにドイツ人のデザイナーがやっているような就業形態だ。そういったリモートワークの環境を世界中に用意し、世界旅行ツアーを一緒にしたのがRemote Yearの事業となる。Remote Yearは働く環境だけでなく1ヶ月ごとに泊まる施設や滞在中の観光ツアー、アクティビティなど何から何まで用意する(食事は含まれていなかったかな)。料金は参加費5,000ドルと月々2,000ドルで合計29,000ドル(約320万円)、1年間かけて世界中を旅行する金額を考えると安いから、大当たりしてるそうだ。70人の枠に2万人以上応募があったとか。よくこんな事業思いつくなあ。

ウェブサイトを見ていて思ったのは、僕なんかにはとても務まりそうもないってこともあるんだけど、それ以外に肌に合わない感じが強かった。僕の旅行のしかたとあまりにも違って、こういうのはちょっと合わない。団体行動とか、与えられたプログラムとか、それに喜んで参加する人とか、もう価値観が真逆と言ってもいい。フルタイムじゃないけれど求人しているみたいなので、興味がある方は応募されてみては。リンクトインのアカウントからもエントリーできますよ。