「損をして覚える株式投資」感想・書評

個人投資家の人と話す機会があり、投資関連の本を何冊か読んでいる。今回読んだのは2012年に亡くなられた邱永漢の『損をして覚える株式投資』。これを読むに至ったきっかけは、知り合いの個人投資家が邱永漢の本を勧めており、ブックオフで100円で売っているのを見かけたから。

邱永漢という人は台湾生まれ、日本人の母親を持つハーフで、後に帰化している。東大経済学部を出ているが本業は作家。帰化前には当時外国人として初の直木賞受賞だったそうだ。でもどうやら株で成功したことのほうが有名らしい。株に関連する本もいっぱい書かれている。

中国株で有名

割と最近の話では、2005年頃に連日下がりまくっていた中国株を推薦していた人として有名だったようだ。当時の中国経済と言えば「2008年の北京オリンピック後に崩壊する」とか、反日デモも各地で盛んだったため「チャイナリスク」とか、散々危険視されていた。そんな中で邱永漢は中国株を推しまくっていた。この本もちょうど2005年に出版されたもので、ページは少ないが中国株を勧める記述がある。他にも中国株の入門書が売れていたみたいだ。

中国株が結果どうなったかは、12年後の今を見ると明らかだ。世界中の企業の時価総額ランキングでは、中国のアリババが7位、テンセントが8位にランクインしている。時価総額は共に30兆円以上。日本の企業は44位にトヨタがやっとランクインしているが、その上に中国企業は6社もある。

世界時価総額ランキング2017 ― World Stock Market Capitalization Ranking 2017

邱永漢は当時、中国で企業を見学する株ツアーなんかも主催しており、知り合いの個人投資家は参加したことがあるそうだ。

同じことが書かれている

邱永漢の本は『株の原則』という本を電子書籍ですでに読んでいる。以前読んだバフェットの本とは違い、数字の計算などは出てこない。考え方や法則といった観念的なことばかり書かれているから、銘柄の見分け方や買い方を具体的に参考にするタイプの本ではなかった。今回『損をして覚える株式投資』を買ったという旨を個人投資家の人に伝えると、

「ああ、邱永漢の本ね。だいたい同じようなことしか書いてないよ」

と言われた。株に関する本を何冊も出している邱永漢だが、どれを買っても同じだと言う。なんじゃそりゃ、読む前から失敗したと思った。2冊目買う必要なかったじゃないか。でも、

「同じことばかり書いているのは言っていることが一貫して正しいからで、繰り返し読んでいたら正しいやり方が身につく」

と言われた。なんというポジティブ思考。まあとにかく100円だし損はない。読み終えたので中身を紹介します。

損をするパターン

この本はタイトルの通り「損して当たり前」というような前提で書かれている。株を買っても損する人の方が多い現状を踏まえ、自らが損して覚えた体験談を中心に話が展開されている。損をする事例としてもっとも基本的なのが、値上がりしているときに買って高値掴みをし、そこから値下がりして損をするパターン。そして、値下がりしてしまった株価が元に戻った所で売ってしまい、そのまま上がり続けて損をするパターン。

目をつけている銘柄が値上がりしていると、このままもっと上がると思ってつい買ってしまう。買った途端に値上がりは止まり、そこから値下がりが始まって痛い目見る事例は多いらしい。そこで、値上がりしているときに手を出すのではなく、値下がりするまで我慢するのが重要とこの本にはある。

また、購入した銘柄が値下がりしてしまったら、買値に戻るまでずっと持ち続けて、戻った瞬間にすぐ売ってしまう人が多いそうだ。買値に戻るほど上がっているときはそのまま上がり続けることが多いため、売ってしまうと損をするから売らずに我慢して持ち続けよとある。本全体を通してだいたいこういうことが書かれている。

株の儲けは知恵のはたす役割は10%ていどで、あとはすべてガマン料です p17

株で儲ける人が少ないのは、こういう時に辛抱のできる人が少ないからです。したがって株式投資は金儲けの場というよりは「精神修行の場」と考えた方が正しいように思います。 p42

グロース投資の草分け

邱永漢のスタイルは成長株を狙うもので、50年前当時の日本では一般的ではなかったそうだ。今ではグロース投資という言葉が用語集でも基礎知識のようになっている(前回読んだバフェット流は、グロース投資と対をなすバリュー投資というスタイル)。この本でも過去に成長株を見出したときの体験談や、そのときのコツ、同時に失敗談も記されている。

思惑がはずれることもありますから、危険分散のために一銘柄だけでなく複数持つこと、また無名かつ資本金の小さな会社は、買い占めの対象になったり、相場師のおもちゃにされたり、出来高が細って思うように換金できないこともありますから、忍耐力のない人には向きません。それを承知の上でやるのが成長株買いだということになります。 p77

そして「日本に成長株がなくなったら中国へ行け」という言葉の後にはこんな記述が。

日本経済はいままでと違う方向に大きく流れを変えたのです。ふえ続ける需要の後を供給が追い続けてきたのが頭打ちになって、今度は需要の低迷が供給を抑えつける形の経済構造に変わったのです。物を作れば売れたのが、値を下げても売れない時代になったので、生産と消費が逆転してしまったというよりほかありません。 p122

12年前の中国は逆で、まさに高度成長期序盤の日本みたいだったということなのだろう。

これからの中国株は

いまさら中国銘柄に手を出すのは遅すぎるのか?昨今では電気自動車が話題になった。ヨーロッパで電気自動車化が進む中、中国も化石燃料で動く自動車の販売を終了する動きがあり、bydやgeelyといった電気自動車メーカーが注目されている。

フランスに続いてイギリスも2040年までにディーゼル車とガソリン車の販売禁止 加速する電気自動車化(木村正人) - 個人 - Yahoo!ニュース

中国政府、化石燃料車販売終了の期限設定へ-工業情報省次官 - Bloomberg

一方日本では、経産相の「いきなり電気自動車にいけるわけでもない」という言葉がニュースで話題になった。

bydの車なんかは中国でも田舎の人が乗っている印象で、あまり人気ないそうだ。金持ちが外車に乗るのはどこの国でも同じなのだろう(金持ちの中国人はスマートフォンもiPhoneを使っている)。果たしてbydやgeelyは今後、今のトヨタみたいな位置になるのだろうか。

話がそれてしまったけれど、邱永漢はwebサイトで長いこと人生相談やQ&Aなんかもやっていたから、本を買わずとも気になった人は見てみるといいかもしれない。

ハイハイQさんQさんデス-過去記事