コンテンツ産業の行く末はどうなるのか

先日マンガ家の人が「今の消費者はコンテンツにお金を払う感覚がない」と言っていて、コンテンツ産業のビジネスモデルについて思いを馳せていた。僕自身はただの消費者だから作り手のことはわからないけれど、とあるWeb媒体のマンガで「続きは有料」という形式にしたら「続きが無料で読めないから★一つ」といった評価が付くそうだ。怒りの気持ちもわからんではないが、これら本来予期していない形の評価はコンテンツの生産者と消費者の間にある意識の齟齬と、システムのアンマッチから来ているのだろう。

作り手は苦労して生み出したコンテンツにお金を払うのが当たり前だと考えている。一方、消費者はコンテンツをタダで消費できて当たり前だと考えている。そして作り手側の評価システムは純粋に作品の評価を望んでいるにもかかわらず、供給の仕組みそのものが評価に反映されている。これら作り手と受け手の間にある意識の齟齬はどのようにして生まれ、またどういう形で溝を埋めるのが適切なのだろうか。

デジタルからネットワークへ

映画『ソーシャル・ネットワーク』で描かれていたショーン・パーカーは実物と全然違うらしいが、映画のショーン・パーカーが語っていた「ナップスターが音楽業界を壊した」という話は興味深かった。ショーン・パーカーが10代の頃に作ったナップスターというファイル共有ソフトは、音楽データの違法流通を促し従来の音楽業界を衰退させたと言われている。本当にそれが原因で業界が傾いたのかどうかは微妙だが、2000年代当時インターネットが一般家庭にも普及しだしてから、音楽はCDからデータで聞くものに変わってきていた。(初代iPodの発売が2001年。)

それから15年、iPodは姿を消し、音楽をデータで聞く時代も終わった。今はアプリからストリーミングで聞くのが主流になっている。映像コンテンツについては音楽と違いデータ量が大きいからか、ダウンロード型という過程を経ることなく、DVDからそのままビデオオンデマンドへ移行した。ゲームは全然詳しくないけれど、据え置きが主流だった時代が終わり、ポータブルの流れをくんで今はスマートフォンアプリが主流となった。コンテンツはと言うと、基本無料の課金式が一般的だ。今まで販売一辺倒だったコンテンツも、技術の進化に伴う流通の仕組みの変化により、収益化にいたる構造が変わってきた。(テレビは広告収入という形でちょっと特殊な経路を辿った。)

音楽・映像コンテンツの出した答え

音楽、映像については月額定額制、一部コンテンツ課金制がマーケットを握るようになった。これらの定額制サービスにおいては、消費者が生産者に直接お金を支払うことがない。お金とコンテンツの流れを川上から追っていくと、まず生産者がコンテンツを生産する。生産されたコンテンツは、コンテンツ配信業者が一定期間の配信権利を買う。配信されることになったコンテンツは消費者の元へ届き、消費者は配信業者へ月額料金を支払う。消費者に受けが良かったコンテンツは配信契約が延長され、また、続編や他作品などの契約にも繋がり、人気のある生産者が潤うという仕組みになる。Netflixは巨額を投じた独自コンテンツをヒットさせることにより、生産者と配信業者の両方を兼ねて莫大な利益を得た。

Netflixは世界を制するか? 独自コンテンツへの巨額投資がもたらした19年目の春|WIRED.jp

音楽配信サービスのSpotifyは、コンテンツの配信権限を買い取るという仕組みではなく、再生回数に応じて生産者に報酬を支払っている。

Spotifyのビジネスモデルを説明したミュージシャン、レコード会社、権利関係者向けサイト「Spotify Artists」翻訳を公開します | All Digital Music

定額配信サービスも一様ではない。コンテンツと一口に言っても容量、1つあたりの時間、消費形態が様々で、種類によってビジネスモデルの適当、不適当があるのだろう。また、ソーシャルゲームのように基本は無料でプレミアムに課金するというモデルも成功している。

海賊版への勝利

映像のNetflixや、音楽のSpotifyは、ナップスターを皮切りに流通した海賊版との戦いから生まれたビジネスモデルと言える。消費者はお金を払ってコンテンツを消費しながらも、無料で海賊版を利用するより満足を得るサービスに流れた。NetflixやSpotifyが作った配信プラットフォームはそういうビジネスモデルだ。iPod時代のiTunesもその流れを組んで海賊版ファイルと悪戦苦闘していたが、ストリーミング定額サービスがその答えだったように思う。それはもちろん現在の通信インフラや技術だからこそ成り立つモデルではあるんだけど。

ゲームに関してはオンライン仕様が主流になり、海賊版で遊ぶことが困難になったため、一歩先んじることになった。マンガ・アニメにおいて海賊版対策が必要なのであれば、音楽や映画にて既に実施されているビジネスモデルの切り替えを早急に行うべきだろう。

KindleUnlimitedは答えになるか

さて、冒頭のマンガに戻る。マンガは映画や音楽とは違い、日本独自のコンテンツだと言ってもいい。マンガを適性な形で市場に流通させ、利益を得ようと思うと日本で独自のビジネスモデルを構築するのが理想的だ。マンガの消費者もコンテンツに直接お金を払う意識を失っているのであれば、配信者の役割が必要なのかもしれない。AmazonのKindleUnlimitedはそのような試みであったが、まだ読める本が少なく、マンガのためだけに月額を支払うのは割に合わない。せめて雑誌だけでもUnlimitedに加わればマンガのためだけでも魅力的なサービスとなる。

こういうのは業界の話だから、作家がやれることはなんだろうか。生産者が従来コンテンツを売ることで上げていた利益を、違う形で得ようと思うとどういったモデルがあるか。その代表的なものがAKB商法と呼ばれた付随サービスになる。他にもファーストクラスやEDMフェスにおける100万円台のVIP席など、お金を出すことに抵抗のない人へ、高価で特別なプランを供給することは双方の利益に繋がる。古くからあるものならディナーショーといったビジネスモデルも、生産者が消費者に直接届けることのできる高額コンテンツの一例かもしれない。

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メールマガジンやnoteのようなものであれば小規模からも始められる。『なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?』という本があったけれど、ピカソの商売上手は生産者にとってなんらかの参考になるかもしれない。

経済的にも大成功したピカソに倣う「お金」の本質 | ピカソの秘密 | ダイヤモンド・オンライン