「ルポ 貧困大国アメリカ」はえげつなかった

歴史上の昔と比べたら、世の中は少しずつ確実に良くなっていると言われる。飢餓や疫病は減り、奴隷制はなくなり、パンとサーカスに例えられるコロシアムの殺人ショーはルールに基づいたスポーツに取って代わり、ギロチンのような公開処刑も先進国ではなくなり、人権の概念が生まれ、社会福祉の概念が生まれ、あたかも世の中は良くなっているように見える。本当だろうか?『暴力の人類史』という本があり、僕は読んでいないけれどスゴ本の人は「本書の嘘を暴く」とレビューしている。

おめでたいアメリカ人『暴力の人類史』: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる

奴隷大国アメリカ

さて、『ルポ 貧困大国アメリカ』の話に入ろう。この本に書かれていることは、現代の奴隷制と言っていい。奴隷主は誰か、アメリカの大企業である。過去の奴隷制、もしくは近代における資本家労働者関係と何が違うのか。何も変わらないですね。規模と構造が違うだけ。むしろ悪くなっている。そんな風に思わせられる本だった。アメリカの貧困層は地獄だ。

時給200円の不法移民

アメリカに滞在している不法移民は、ビザがないため正規の仕事につくことができない。仮に正規の入国を済ませていたとしても、アメリカで就労ビザを得るのはものすごく大変だ。だから彼らはアンダーテーブルと呼ばれる不法就労の形で働く。その時給はなんと2〜5ドル(約220〜550円)。もちろん最低賃金以下だが、不法就労だから関係ない。足元見られている。

このあたり日本人の感覚だとわからないのが「だったら国へ帰ればいい」と思ってしまう。帰る場所がないか、もしくは自国がもっとひどいのか。こんなアメリカでもまだマシなのだろうか?もしそうだとすれば、文句言えないような気もする。ただそれでもアメリカに住む以上は、生活コストがアメリカの水準であり、時給200円とかで生きていけるわけがない。彼らは長時間労働、3つ4つ掛け持ちがあたりまえ。生きるために必死で、日本のブラック企業も目じゃない。

アルバイト生活の大卒

こんな状況は、不法移民だけに限ったことではない。仕事がないアメリカ人だって国中に山のようにあふれている。大学を出てもアルバイト。こんな仕事をやるために勉強したのではないと嘆く。しかしのしかかる教育ローンを払わないといけない。アメリカの学費はとんでもなく高い。自前で用意できるのは元々の金持ちだけだ。教育ローンはまともな仕事につくことを前提に借りているため、当然支払いは困難になる。しかも恐ろしいことに、教育ローンは自己破産しても消えないそうだ。

ビジネスと化した医療

病気やケガでもすれば一発アウトだ。医療費が他国と比べても尋常じゃなく高いことで有名なアメリカ。盲腸で1日入院すれば130万かかる。妊婦の日帰り出産も日常で、病気になっても市販薬で誤魔化し、悪化するまで蝕まれる。病院は営利企業と化し、保険屋と製薬会社の意のままに操られている。

ビジネスと化したアメリカ軍

そして、軍隊の魔の手が忍び寄る。国家に管理される個人情報から、軍隊のセールスマンが勧誘に来る。軍隊に入れば教育ローンを一部負担してくれたり、法外な給料を約束したり、甘い言葉でささやく。そして戦場で死ぬか、PTSDを患いまともに働くことのできない体で帰ってくる。中には民間人として戦地に派遣される例もあり、聞いていた内容とは全然違う危険な職場で放射能に汚染されて帰ってきたり、民間人だから軍事医療も受けられない状態でゴミクズのように使い捨てにされる。

民営化が産んだ奴隷制

この本によると、現代の奴隷制が広まった原因は国家が国民を守る役割を果たさなくなったことにある。つまり、民営化だ。国家が放棄した役割は3つあり、医療(保険)、教育、戦争、これらが国営から民間に移ることで、市場原理に則った形で運営されるようになった。そこで何が起こったか。国民を守り、育て、幸福に導くためのはずだった国家の事業は、大企業の手に渡ることによって、国民を金儲けの道具にするだけの営利事業に変わってしまった。国民は企業の利益を生み出すための道具、奴隷、使い捨て電池になった。

軽く紹介したが、このような内容がシリアスに、詳細に、当事者のインタビューを混じえてレポートされている。とにかくえげつない。まだまだこんなものでは語り尽くせない。そして日本のこれからにも触れている。一部憲法9条のことや志位和夫の話が出てきたり疑問視する部分もあったが、アメリカ式を強いられ様々な法律ができるこの国の、明日の姿と見ることができるだろう。