「高い城の男」書評・感想

初フィリップ・K・ディック。フィリップ・K・ディックの著書としては、映画「ブレードランナー」の原作である「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」が有名だが、読んだことない。原作と映画の内容は全然別で、監督のリドリー・スコットは原作を全く読んでいなかったとか。「ブレードランナー」は見た。続編の「ブレードランナー2049」に至っては映画館に見に行った。他にも「トータル・リコール」「マイノリティ・レポート」など、有名な著作が映画化されている。

今回読んだ「高い城の男」は映画化こそされていないものの、Amazonプライムビデオにてドラマシリーズが配信され、現在シーズン3まで続いている。シーズン4で完結のうわさ。僕自身はドラマ化されたことでこの原作小説を知った。ドラマ自体は1話しか見ていないが、長く続いているということはわりかし評判なのだろう。

  • 世界観
  • たくさんの主人公
  • 易経
  • 「イナゴ身重く横たわる」
  • 感想
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「しょぼい起業で生きていく」は実現できるのか?書評・感想

「しょぼい起業」提唱者のえらいてんちょう(えらてん:@eraitencho ‏)さん著、「しょぼい起業で生きていく」を読んだ。まず、おもしろかった。phaさんの「ニートの歩き方」、伊藤洋志さんの「ナリワイをつくる」や大原扁理さんの「年収90万円で東京ハッピーライフ」「20代で隠居」、鶴見済さんの「0円で生きる」の派生型、延長上と言える。この手のジャンルは何ていうのだろう?Bライフ系とでも言えばいいのか。特徴としては競争社会に疲れた人たちが、世間の主流である資本主義に完全に寄り添う形ではなく、少し距離をおいて、経済的な成功以外の喜びを第一に楽しく生きていく道を探そう、みたいなそういう本にあたる。

僕はこの手の夢が広がる本が好きで「自分にもできるんじゃないか!?」なんて期待を胸にいだき、ついつい買って読んでしまう。「ニートの歩き方」は疲れ切った現代に向けた、新しい価値観の提示を主としていた。そして特にネットを主戦場とされているだけあって、ネットを介した流通や他者との関わりのヒントを示している。「ナリワイをつくる」は逆に、ネットではなく地域コミュニティを介した人との関わりと、具体的な手作業に根ざした仕事を通した、競争・効率主義的ではない生活様式を提唱していた。大原扁理さんの著書はまだ読めていない。鶴見済さんの「0円で生きる」は東京においてお金をかけずやりくりするための具体的なマニュアル本だったように思う。

「しょぼい起業で生きていく」が提示する生き方は、これまでともまた少し違う。「しょぼい起業」と言いながらも軌道に乗った著者は、全国チェーン展開のようなことまでしている。これまでの「飽くまで貧しく楽しく暮らす」系からは一歩抜き出た感じもある。「しょぼい起業」とは簡単に言えば自営業だ。それもお店を開くというわかりやすい自営業。

  • 「しょぼい起業」= 自営業?
  • 「しょぼい起業」の読みたくなる副題
    • 第1章 もう、嫌な仕事をするのはやめよう
    • 第2章「しょぼい起業」をはじめてみよう
    • 第3章「しょぼい店舗」を開いてみよう
    • 第4章「協力者」を集めよう
    • 第5章 しょぼい店舗を流行らせよう
    • 第6章「しょぼい起業」実例集
  • 「しょぼい起業」は実現可能か?
  • 僕の「しょぼい起業」案
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村上春樹の文章はなぜこんなに読みやすいのか

今、新潮文庫の村上春樹「雑文集」を読んでいる。つねづね思ってきたことだけど、村上春樹の文章は読みやすい。非常に読みやすい。なぜこんなにも読みやすいのだろう?村上春樹の文章は、食べ物で例えるとうどんだろうか。味が濃すぎるわけでも飲み込みづらいわけでもない。体調が悪いときだってツルッと完食できる。ダシがきいていて体に優しい。いつなんどき食べても喉を通る。村上春樹のエッセイは、小説よりもさらにその傾向が強い。精神的に余裕がないとき、難しい本とか映画とか摂取する気力がないときでも、村上春樹のエッセイなら気軽に手を出せる。咀嚼して、抵抗なく飲み込むことができる。これが他の本だとなかなかそうはいかない。ドストエフスキーなんて1ページももたず投げ出してしまう。ヘヘッ!!(フョードル・カラマーゾフ風)

その違いはなんだろうか。ドストエフスキーは翻訳だから、元の言語から変換されている分不自然な言葉遣いになっているということはあるだろう。時代背景も違う。文化的差異もある。そいうのを差し引いても、村上春樹の文章は読みやすい。同じ年代の日本語作家と比べたって読みやすいはずだ。おそらく。言葉遣いなのだろうか?村上春樹はときどき全然知らない言葉を使うから、簡単な言葉ばかり使っているということでもない。文章量だろうか?村上春樹は決して文章が短く簡潔というわけではない。長編に至っては上下巻あることも珍しくない。しかし、それでも物語がするすると前に進んでいく。長さを感じさせない。1Q84はさすがに長かったが。村上春樹の文章は軽快である。軽いのだ。粘着性がない。重みを感じない。大変なことを語っていても、下手すれば素通りする。しかしその軽さが、さくさく読み進めることができる理由だろう。

村上春樹は難しい言葉を使うこともあるけれど、文章そのものは平坦で引っかかりが少ない。飲み込みやすいとは、引っかかりが少なくすんなり飲み込んで消化できることを意味する。それが栄養分として吸収できるかどうかはともかく。村上春樹の文章に引っかかりが少ないのは、悪い言い方をすればまわりくどいからだろうか。いい言い方をすれば丁寧なのかもしれない。あたりを広く見渡して、情景をしっかりと描写する。それが回りくどいと感じる人だっているんじゃないか。しかしそんなものはサラッと読み進めることができ、わかりやすい情景だけが頭に残る。だから文章量が多くとも長くは感じない。読むことに体力を使わないのだ。

今読んでいる村上春樹の「雑文集」は、死んだ作家であれば書簡集になるような、人の本のあとがきだったりそういうものを集めた本だ。こんな本をわざわざ買うのは村上春樹ファンぐらいだろうか。そうでもない。どんなときだってお腹に優しい文章としてすんなり飲み込める村上春樹の本は、さながら病院食、おかゆのようである。旅行が好きでなくても旅物エッセイを読めばおもしろいだろう。「雨天炎天」とか。小説は好き嫌いがあると思う。「ノルウェイの森」とか。ファンだったらやっぱり「村上さんのところ」あたりも押さえているのか。僕が感想を書いている小説以外の村上春樹は、対談集は「翻訳夜話2 サリンジャー戦記」ぐらい。

本題の、「村上春樹の文章はなぜこんなに読みやすいのか」答えがある人は教えてください。

村上春樹 雑文集 (新潮文庫)

村上春樹 雑文集 (新潮文庫)

「行商人に憧れて、ロバとモロッコを1000km歩いた男の冒険」感想・書評

まとめサイトから出版された本。旅行の気分を盛り上げるために買った旅モノで、一人の男性が冒険旅行に目覚める経緯と、その冒険譚を書き記したもの。少し前に話題になった。冒険とは言うが、体験に近い。何か具体的な目的があるわけでなく、この本でメインとなるのはモロッコを1000km移動することそのものを目的としている。何かものすごい場所に行くわけではなく、ものすごい物事を発見するわけでもなく、ただロバにリアカーを引かせて長距離歩くことがやりたかったらしい。こういうのを冒険と言うのか。自分の旅行者カテゴリでも冒険者に該当する。

  • そのやる気はどっから湧いてくるのだろう?
  • 生活の一部なのか
  • 「ペット好き」+「旅好き」には天国
  • web版は無料で読める
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今年読んだ本(2018)

端的に言って、本を読まない年だった。たった21冊。去年が45冊、一昨年が35冊であることを考えると極端に減っている。月一冊以上の計算にはなるが、序盤に集中しており後半はほとんど読んでいない。感想は6冊のみ。なぜこんなに本が読めなくなったのかというと、忙しくなって余裕がなくなったから。時間の余裕というよりは気持ちの余裕が。4月頃から著しくペースダウンした。そんな数少ない読んだ本の中から、一応今年も読んだ本をまとめよう。

  • 特に印象的だった本
    • ディアスポラ
  • 今年読んだ本
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冒険物語が好きだ

今に始まったことではないが、マンガ『スプリガン』を読み返していて「そうだよこれだよ俺が好きなやつは…」と改めて実感した。中でも御神苗優の父親である御神苗隆が冒険家として登場し、アメリカインディアンに混ざって儀式を守ったりしているのは理想的な姿だ。スプリガンを初めて読んだのは、確か映画化された頃だった。映画版は微妙だったが、パレンケの仮面、ノアの箱舟、水晶のドクロ、賢者の石、アンブロディアの種などオーパーツであったり考古学の話がたくさん出てくる本作は冒険心を燃えたぎらせる。

内容は世界中に散らばる超古代文明の遺跡やオーパーツを発掘し管理するアーカムという会社の物語。そこでスプリガンとして働く高校生の御神苗優が主人公。少年サンデーで連載していたから、オリハルコンを練り込んだ人工筋肉のアーマードマッスルスーツや獣人化するライカンスロープといった少年マンガ要素を交えつつ、軍事や歴史の話が繰り広げられ、少年がちょっと背伸びできる構成になっている。

冒険物語と言えば、みんな大好き『マスターキートン』が外せない。大人向けのスプリガンと言えるんじゃないだろうか。主人公、平賀キートン太一は考古学者として身を立てるべく大学の非常勤講師をやりながら、副業のロイズ保険組合調査員として世界各地を飛び回る。考古学の話ばかりではなく、探偵のような話や現代史の内容もたくさん出てくる。まさに歴史ヲタのためのマンガと言えるんじゃないだろうか。こんなふうに世界を飛び回りたいと誰もが思ったことだろう。

MASTERキートン 1 完全版 (ビッグコミックススペシャル)

MASTERキートン 1 完全版 (ビッグコミックススペシャル)

他に冒険物語として思いつくのが、リアル辺境作家の高野秀行、共通しているのは未知や神秘を追い求めているところだろう。こちらはノンフィクション。

映画はインディージョーンズなどが典型的だが、ちょっとファンタジー要素が強すぎるようにも思うし、いつもオチがあまり好きじゃない。他に未知や神秘を探求する冒険物語があったら教えてください。僕が旅行に惹かれたり、RPGを楽しく感じるのは同じ理由からだと思う。

読書初心者むけの、異世界へいざなってくれる本3冊

異世界転生の話ではありません。今回は、我々を平凡な日常から、異世界へいざなってくれる本を挙げてみようと思う。この「いざなってくれる」という部分を大事にしており、今回挙げる3冊はどれもこの世界と異世界が地続きになっている本だ。スターウォーズやロード・オブ・ザ・リングのように、今我々が暮らす世界からかけ離れた異世界はいくらでもある。肝心なのは、この世界からいつの間にか、どこからともなく気がつけばそこは異世界と化している点であり、二つの世界が地続きであるからこそ身近に感じ、自分の先にある出来事として認識でき、感情移入しやすくなっている。今回選んだ本は全くそういう意図で書かれた本ではないんだけど、それぞれの違った異世界へ我々をいざなってくれる。

  • 嘘つきアーニャの真っ赤な真実
  • ワセダ三畳青春記
  • ねじまき鳥クロニクル
  • 他にあったら教えてください
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「夫のちんぽが入らない」は全然響かなかった

短くまとめると、

「ありきたりな普通の価値観に染まった人が、普通のことをできなくて思い悩みつつ、そんな自分を徐々に受け入れていく。世間もそんな自分たちみたいな人を受け入れてくれたらいいのに」というようなことが長々と書かれていた。要するに啓発が希望なのだろう。

本としてはおもしろかったが、内容としては正直なところ全然乗っかれなかった。僕の感想は悪意に満ちているとさえ言える。だからこの本を好意的に読んだ人は以下の感想を読まないほうがいい。

  • 世界狭っ!
  • たくさんの疑問が湧き起こる
  • 最終的に、幸福自慢ですよね?
  • 他人には救いのない話
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再読「キャッチャー・イン・ザ・ライ」感想・書評

「翻訳夜話2 サリンジャー戦記」を読み終えて、再び村上訳「キャッチャー・イン・ザ・ライ」を読みたくなった。普通は順序が逆で、キャッチャーに含まれるはずだった解説を一冊の本にしたのがサリンジャー戦記だから、これから読む人は先にキャッチャーを読んだほうがいい。村上訳キャッチャーは大学生の頃に一度読んでいた。当時の印象としては「ぬるい」というものだった。野崎訳ライ麦畑のトゲトゲしい文体が好きだったから、それに比べて村上訳キャッチャーは印象が薄かった。

  • 現代語のキャッチャー
  • ホールデンの地獄めぐり
  • インチキとはなんなのか
    • インチキなもの
    • そうでないもの
  • 果たせなかった折り合い
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グレッグ・イーガン著「ディアスポラ」が難しすぎた

グレッグ・イーガン、SF界では他の追随を許さない人気のような噂を耳にして、昨年のハヤカワセール時に購入した。古いSFばかり読んでいて現代のSF小説を全く読んでいなかったから、SF小説は時代を経てどのような変容を遂げているのか気になり「ディアスポラ」に手を出した。

  • ハードSF
  • どういう話か
  • 現代SFとしての形
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「充たされざる者」感想・書評

カズオ・イシグロの「充たされざる者」を読み終えた。やっと読み終えた。1000ページ近くある本で、中盤あたりを読んでいるときは正直なところ苦痛でしょうがなかった。一体何の話をしているのだろう、いつになったら話が進むのだろう、そんな疑問を抱えたまま物語はあちこちへふらふらと漂っていた。先に読んでいた人はこの小説の感想を「悪夢のようだった」と語った。その気持ちはわかる。少なくとも単純な小手先のエンタメではない。その長さも相まって、多くの人が途中で投げだしたことだろう。しかし、中盤を越えたあたりからなんとなく本全体の様相が掴め「そうか、これはカフカの城だ」と思うと妙におもしろく感じてきて途端に読むペースが上がった。最初から中盤までの半分ほどの時間で、中盤から最後までは読み終えることができた。

  • 掴みどころのない物語
  • 他の作品は忘れよう
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「翻訳夜話2 サリンジャー戦記」感想・書評

サリンジャーは10代の頃に初めて読んだんだ。どっぷりハマってしまってね、何度も読み返したし、何人もの友人に「これ読む?」とかなんとかさり気なく渡して、今に至るまでに結局同じ本を5冊ぐらい買うことになったんだ。実は今手元にあるのは「ナイン・ストーリーズ」と「大工よ、〜」だけで肝心の「ライ麦畑」や「フラニーとゾーイー」はないんだ。全部人にあげてしまってね。それはもちろん、僕がそれらを好きじゃないからではなく、むしろ好きだからこそ読んでほしいと思って人にあげたんだ。「読んだよ」とは誰からも返ってこなかったけどね。

ナイン・ストーリーズ (新潮文庫)

ナイン・ストーリーズ (新潮文庫)

大工よ、屋根の梁を高く上げよ/シーモア-序章 (新潮文庫)

大工よ、屋根の梁を高く上げよ/シーモア-序章 (新潮文庫)

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今年読んだ本(2017)

去年読んだ本は、年間を通して35冊だった。6月まで日本にいなかったから、最初の半年はほとんど読めなかった。今年はと言うと、年間を通して45冊。ペースで考えれば去年より明らかに少なく、月3〜4冊、週1冊読めるか読めないかのペース。読んだ感想も去年ほど書いていない。

本当はもっと減らしたい。脳の容量が少ないから次々読んでも消化しきれず、詰め込んだ分だけ追い出されてしまう。年間30冊も読めば十分だろう。その分厳選して読めたらいいなーと思う。数撃って当てるみたいな非効率で体力を使うやり方は苦手だ。あれこれ考えながら真面目に読む本と、何も考えず息抜きに読む本を分けられたら一番いい。

  • 特に印象的だった本
    • 日の名残り
    • ハイファに戻って/太陽の男たち
  • 今年読んだ本
    • 小説
    • 新書
    • 旅行
    • 経済
    • その他
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「なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?」感想・書評

2013年に出た本で、時代を体現していた。タイトルにある「ゴッホとピカソ」の話はほとんど出てこない。この本は、コンサルや事業の立ち上げを経験してきた若い著者の、お金とそれ以降にまつわる未来志向の本だ。こういう未来志向が2013年当時流行っていたことを思い出させる。そして2017年も終わりに差し掛かると、やや現実味が帯びてきている(例えばビットコインとか)。

世の中は少しずつ変わっている。体感している変化を頭で理解したいときに、この本が向いているかもしれない。いろいろなテーマについて書かれているため、個別のトピックを取り上げるとやや普遍性に欠けるが、その先は自分で調べればいい。具体例の指標となるような項目は提示してくれている。世の中はこの本に書かれているようになるかもしれないし、ならないかもしれない、一部既になっているかもしれない。

  • 1時間でわかる、お金の移り変わり
  • 使命がお金につながる
  • お金主体から信用主体へ
  • SNSは個人のIR
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