スティーヴ・ジョブズの生き方と黒澤明の「生きる」


スティーブ・ジョブス スタンフォード大学卒業式辞 日本語字幕版 - YouTube

スティーヴ・ジョブズ追悼も今は昔となってしまったところで、スピーチ動画を見て思い出したことを一つ。
スティーヴ・ジョブズがスタンフォード大学で行ったスピーチは当時から「伝説のスピーチ」として語り継がれていた。

その中に出てきた一節で「明日死ぬとしたら自分はどうするか考えて毎日行動する」というのがあった。これは、スティーヴが17歳の時に出会った言葉で、また、彼が癌になって半年しかもたないだろうと言われたときの、洒落にならない本当に切羽詰った時にもう一度考えた言葉らしい。彼の癌自体はいったん治療が進んでその後7年生きることができたんだけど。

「明日死ぬとしたら、今日自分はどう生きるか。それを毎日考える」
これは、今やろうとしていることが明日死ぬとしても本当に大切な事だろうか、ということを真剣に考えることらしい。本当に必要なことなのか。本当にやるべき事なのか。本当にやる価値があることなのか。本当にやりたいことなのか。明日死ぬとしても。自分は何をすればいいのだろう。
スティーヴの言葉としてもう一つ、こういうのがあった。
「墓場で一番の金持ちになることに何の意味がある。毎晩寝る前に「今日は素晴らしいことをした」と思えること、それにこそ価値がある。」
これは、前述の「明日死ぬとしたら」と繋がるものがある。明日になったら死んでしまうとしても、今日がその最後の日だとしても、「今日素晴らしいことをした」と思える今日を過ごさなければならない。

一生に悔いの残さない今日を過ごす。そのための今日の過ごし方というのは、果たしてどういうものだろうか。明日死んでも後悔のない、今日の過ごし方。どうすごせばいいのか。本当は自分が知っているはずだ。

「もし今日が最後の日だとしても、今からやろうとしていることをするだろうか」と。「違う」という答えが何日も続くようなら、何かを変えなければならない時期にきているということです。自分はまもなく死ぬという認識が、重大な決断を下すときに一番役立つのです。なぜなら、永遠の希望やプライド、失敗する不安…これらはほとんどすべて、死の前には何の意味もなさなくなるからです。本当に大切なことしか残らない。自分は死ぬのだと思い出すことが、敗北する不安にとらわれない最良の方法です。
あなた方の時間は限られています。だから、本意でない人生を生きて時間を無駄にしないでください。ドグマにとらわれてはいけない。それは他人の考えに従って生きることと同じです。他人の考えに溺れるあまり、あなた方の内なる声がかき消されないように。そして何より大事なのは、自分の心と直感に従う勇気を持つことです。あなた方の心や直感は、自分が本当は何をしたいのかもう知っているはず。ほかのことは二の次で構わないのです。

これを聞いていたときに思い出したのが「命短し」だった。


Ikiru (1952) - YouTube

これは黒澤明の「生きる」という映画で、役所の課長として毎日をミイラのように過ごすワタナベさんが、ある日胃ガンで余命半年であることが分かり、その日以降の過ごし方を描いている。

死ぬとわかった次の日から、自分の生きた証を、生きた実感を探し求め、息子の元や夜の街を彷徨うが、「違う」という答えが続く。そしてワタナベさんはついに、自分の「生きる」を見つけ、素晴らしい最後の日を迎えることとなる。
ワタナベさんは死を目前にすることによって、自分が本当に生きる道を見定め、死ぬその日まで生きた毎日を手にすることができた。死の目前で生きるワタナベさんには迷いがなく、力強く、活き活きとしていた。
スティーヴ・ジョブズのスピーチと、黒澤明の「生きる」は同じことを言っている。今日の自分に納得がいかなかったり、毎日なんでこんな過ごし方をしているのかと疑問に思ったら、一度、明日死ぬとしても同じことをやるかどうか考えてみよう。

明日死ぬとしたら、自分は本当は何がしたいか。何をすれば誇らしい眠りにつけるか。今日自分のやっていることが、自分にとって正しいか間違っているか考えるには、とてもいい方法だと思う。