夢や希望について。
夢や希望と言えば大袈裟だろうか。それは所詮、何をやっていれば楽しいか、程度のものに思える。夢や希望。何がしたいのか。人は、何を求めるのか。自分の人生に。刺激か、安定か。
ヘロインについて調べたことがある。ヘロインの快楽というのは、使わずに生きていれば一生味わうことのできない規模だそうだ。快楽のために生きているとしたら、その後どんな苦しみが待っていようと、ヘロインが正解なのではないか?
健全ではないが、果たして健全さを求めているのか。
僕は生まれてから、それほど大きな痛みや苦しみ、餓えや辛さを味わったことがない。それは、幸運と言えるだろうか。
幸運とはなんだろう。
「なあ、」
「ん?なに」
「自分の人生をどう思う?」
「どうって?」
「だから、そうだな。自分の生活に満足はしているか?」
「んー満足?満足.....は、してないかな。」
「なぜ」
「.....いろいろ失敗してきたから、かな。」
「失敗しなかったら満足だったのか?」
「わからない。わからないけど、もっと違う人生が歩めたんじゃないかな、とは思う。今は今でいいんだけど。」
「今はいいのか。」
「そう。今はもういい。失敗はもう取り戻せないから。今はもう違う人生を歩んでいて、それはそれでいいんだ。しょうがないかなって思う。しょうがないなりに、なんとかやってるよ。」
「満足はしてないんだな。」
「一応ね。望んだ結果じゃないから。」
「何を望んでいたんだ?」
「えっと、....なんだろ、いっぱいあって。」
「例えば?」
「たとえば...じゃあ、例えば、私は、会計士になりたいって思っていた時期があったの。」
「はあ」
「私ね、商業高校だったんだけど、高校の時にけっこう簿記ができたの。2級ぐらいまでは普通に受かっちゃって、すごい簿記が好きなんてわけじゃなかったけど、そこそこ結果が出て楽しかったのね。それで、当時付き合っていた彼氏が株とか投資とやってる人で、彼が喜んでファンダメンタルズの分析についてアドバイスをくれとか言ってたの。なんかそういうのも嬉しくて、私は財務諸表が少し読めただけだから、アナリストみたいな事はできなかったけど、でもそんな意見交換できるのも楽しかった。経済のトレンドとか為替の動きとか見ながら、財務の健全性と合わせて会社の将来性を判断して株の購入の手助けをしてたりしていたの。だから、いっそだったらこのまま大学は4年生の大学で会計の勉強をして会計士になろうとか思っちゃったの。当時ね。」
「ほう」
「でも彼氏とは在学中に別れたし、会計士なんか難しすぎてなれなかった。そのうち大学も中退した。それだけの話。」
「なるほど」
「聞いておいて全然興味なさそう。」
「ああ、ごめん。簿記?の話自体は興味なくて。そういうことか。そうしたら、会計士になっていたら、人生は違ったってことかな?」
「そうだね」
「それだけじゃなくて、会計士になっていなくても、その彼氏と別れていなかったら違ったし、別れても、会計士になるだけで違ったと思う。なれなかったとは思うけど。そのまま大学をちゃんと卒業していただけでも違ったと思う。」
「なんで卒業しなかったの?」
「いろいろ、あったの。」
「いろいろ?さっきの彼氏のこと?」
「それもある。もっといろいろ。」
「え、なに、留年したとか?」
「......留年もしたけど、それだけじゃない」
「留年したんだー冗談で言ってみたのに」
「うるさい」