先輩の旅行の話

先日、会社の先輩に飲みに連れて行ってもらった。同期の人間の結婚祝いと僕の退職祝いということで、3人で行った。先輩は旅行が好きで、大学生の頃からよく行っていたらしく、奥さんともよく2人で一緒に行っていた。今は子供もいて行けなくなったそうだ。

先輩大学の卒業旅行に一人でロンドン→パリ→ヴェネツィア→バルセロナと回った話と(卒業旅行なのに一人?と驚いていたら一人の方が楽だからと言われた)、ダブリンに住んでいた友達の家泊めてもらい、その後チェコへ寄った話や、ロンドンに住んでいる女友だち2人と3人でイギリス中を回った話、他にも香港、タイ、上海など、いろいろ聞いた。本当にたくさん行っていてうらやましい。 

僕が初めて一人で旅行するときも、この人にいろいろ教えてもらった。飛行機のチケットの取り方から、宿の予約の仕方まで、行く前の準備に関しては全部聞いたとおりにやったと言ってもいい。あとは現地で自分で何とかした。

その飲みに行った時に聞いた話の中で一部、覚えている内容を残しておこう。

寝台列車

パリからヴェネツィアまでの寝台列車を予約していた。寝台列車は安くて、寝ている間に移動してくれるから楽で、乗ること自体が初めてだったから楽しみだった。車両内ではでは何人かが同じ部屋で寝ることになり、2段ベッド。一人旅だから当然誰か知らない人たちと同じ部屋で寝ることになる。

列車に乗り自分の部屋を探していると、通りがかりに他の部屋の様子がうかがえた。知らない旅行者同士が和気あいあいと話している部屋や、フランスの若い女の子と楽しそうに話している部屋があり、「可愛い女の子と一緒の部屋だったらいいなあ」とかちょっとドキドキしていた。

そして部屋番号を確認して、自分の部屋に入るとそこには誰もいなかった。ちょっと残念だったけど「誰も居ないのもそれはそれで気楽だからいいか」とまあ、前向きに考えながら、2段ベッドの上が自分の座席だったので、上がって寝る支度をしていた。

列車は途中何駅か止まりながらも走り続けていた。その間この部屋に乗ってくる人はおらず、他に誰もいない部屋のまま二段ベッドの上で寝ていた。

そして、どこかの駅で止まり、ついに部屋に誰かが入ってきた。「お、どんな人かな?」と期待しながら起きて電気をつけ、入ってきた人を確認すると、その人は浅黒い肌で、長い黒髪でヒゲも髪と同じぐらい長く、まったくナニジンなのかわからない男だった。びっくりした。

それでも旅行者同士、同じ部屋になったんだから話しかけてみるが、英語がまったく通じない。何言ってるのか理解できない。言葉が通じないので、会話も諦めて寝ようとしたら、何か言ってくる。向こうも言葉が通じない事がわかっているので、身振り手振りで何か言おうとしている。どうやら「2段ベッドの上と替われ」と言っているようだ。いや、ここ俺の席だから!!ここ俺の席だからということを、こっちもチケットを見せたり身振り手振りで伝えようとした。向こうも分かったの諦めたのか、下の席に座った。

下は普段イス状になっており、背もたれを倒せばベッドになる。また、夜間は冷えるため、乗車時に各自にブランケットが配られたが、これが袋に入っており、開けて広げて使うものだった。

夜中に目が覚め、トイレへ行こうとして下へ降りると、そのナニジンかさえわからないヒゲの人の姿が目に入った。その人は席の背もたれも倒さずイス状ままの上に横になり、袋に入ったままのブランケットを抱きしめながら寒そうに丸まって寝ていた。「上と代われ」と言ってきたのは下は背もたれを倒せばベッドになることがわからなかったからだろう。ブランケットは袋の中に入っていることがわからなかったのだろう。