フランツ・カフカの思い出

フランツ・カフカについて今まで何度か書いてきた。文学の世界においてフランツ・カフカは、20世紀最大の作家3人のうちの1人として名を馳せている。20世紀において世界の潮流としてフランツ・カフカブーム、カフカ以前・以後、があったと言われているほど、世界に多大なる影響を与えたそうだ。

そんなカフカの作品は、その多くが死後に、彼の友人の手よって公開された。
フランツ・カフカはオーストリア・ハンガリー帝国のプラハで生まれ、第二次世界大戦が始まる前に結核で死んでいる。カフカがその名を歴史に残すほど評価されるのは死後となる。文学的な評価とかは僕にはよくわからないので、とりあえず死んでから爆発的に評価されたゴッホみたいな芸術家ということでした。

カフカの生涯 (白水Uブックス)

カフカの生涯 (白水Uブックス)

  • 作者:池内 紀
  • 発売日: 2010/06/29
  • メディア: 単行本
 

読んだきっかけは特になかった。教科書に載っていたのは知っていたが、その時は読んでおらず、その後高校を卒業する前に偶然古本屋で変身を買って読み、そのまま城、審判、アメリカ、カフカ短篇集、カフカ寓話集、訴訟など読みあさった。全集や書簡集などは読んでいないものの、訳者が変わっては読み、短篇集が編集されては読み、大学生の時は経済学部にもかかわらず、カフカを題材にしているというだけでドイツ文学の講義を取り、レポートで優をもらった。
3年前、旅行をしだした時は、行き先をチェコに決め、生家、カフカ博物館、ユダヤ人地区にある銅像、プラハの街を訪ねた。

 僕にとって、フランツ・カフカの著作における魅力というのは何よりも、その救いの無さにある。カフカの作品ではどの物語においても悲惨な結末を迎えている。以下内容を知らない人にとってはネタバレのような形になってしまう。

朝起きたら人間サイズのゴキブリになっていたという"変身"では、家族にりんごを投げつけられ、それが致命傷になり部屋の中で死んでいった。"城"においては、測量士として城に来たにもかかわらず、城に入れてもらえないまま終わる。無実の罪を着せられ、ある日突然被告になる"審判"では、何の罪かもわからないまま役人に殺される。家を追い出された少年がアメリカに送られた"アメリカ"では、裏切られ続けた挙句サーカス団についていってしまう。

結末だけをピックアップしたけれど、この悲惨さ、救いの無さは何も結末に限ったことではない。初めから終わりまでずっと続く。それは、表面的には伝わりにくい。何も、地獄絵図が描かれているわけではない。

カフカは不条理の文学だとか言われる。初めから終わりまで、世の中に振り回される様子がまるでピエロのように描かれている。理不尽以外の何物でもない怒りと責めの対象になる。それは喜劇的でさえあると言われているが、僕はピエロの本質が残酷であることと同様の理由で、とても笑えない。

この姿というのはやはり、現実においても見慣れた光景であり、自分の身にも起こっている。内容はファンタジーそのものなのに、そこで起こっている扱いは、態度は、とても身近な姿だった。世の中や、制度や、人に翻弄されるヨーゼフ・Kなり、グレゴール・ザムザ、カール・ロスマンの姿が描かれている。

フランツ・カフカとは一体どういう人なのだろうか。本を読んだ後に、フランツカフカの人物像を調べると、その意外さにまず驚く。
長身で痩せ型、水泳などのスポーツが得意で、女性にモテる。恐ろしく優しい。大学卒業後は保険会社に勤務しており、部長職ぐらいまで昇進する。仕事が終わった後、自宅や書斎で朝まで小説を書くという両立生活を送る。

性格について「この人ほど良い人は見たことがない」みたいな評判があった。良い人、優しい人という面については、人形のエピソードが有名。
出張先で見かけた、人形をなくして泣いていた少女に対して、「君の人形は旅に出たんだよ」と慰める。その後「人形が旅先から手紙を送っている」という体で少女宛に手紙を書いたりしている。何度も。そして、最後には新しい人形を送り、「自分は旅で姿が変わった」という体で、少女にプレゼントしている。まるで絵にかいたような好青年。そんな人実在するのかというぐらいの理想的な人物像を見て取れる。

そして、作品イメージとの解離。これが、あれほどまでに暗い作品を書いた人物のプロフィールです、なんて言われてもにわかに信じがたい。しかし、本人の手紙や日記、書簡に目を通すと、思い直す。やはりこういう人だ、と。

何年か前に、フランツ・カフカの残した名言があまりにも暗いということで話題になった。それが本になったりもした。暗い発言をひたすら繰り返しtweetするbotもある。僕が好きな言葉はこれ。婚約者へのラブレターの中の一文。

ずいぶん遠くまで歩きました。五時間ほど、ひとりで。それでも孤独さが足りない。まったく人通りのない谷間なのですが、それでもさびしさが足りない。(フェリーツェへの手紙より)

作品同様の強烈な暗さ。婚約者へのラブレターにこれを書く心理というのはなんだろう。意味が分からない。世界中でカフカの影響を受けた作家が多くいるというけれど、この底なしの暗さが??と違和感を覚える。暗さに影響を受けたわけではないと思うが。

絶望名人カフカの人生論

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なんか、どっかで見たようなプロフィールだと思う人もいるかもしれない。日本では太宰治が、長身で痩せ型で、モテて、暗くて、結核で死んでいる。似てると思えば似てるし、違うと言えば全然違う。太宰は生前から売れていた、運動音痴、専業作家、女性をテーマにした著作が多いなど、違う点を探したほうが多い。それは別人だから当然。著作も作風もあまり似ていない。唯一似ている点があるとすれば、自分を主人公にしたような、私小説が多いという点ぐらいか。文章も似ていない。イメージが先行すると誤解が生じるかもしれない。そこは読んで判断してみてください。

カフカの文章はとても読みにくい。登場人物のセリフひとつが1ページにわたって延々と書かれたりする。文章がとても多いのに、話は全然進まない。描写があまりにも綿密で、情景の細部まで事細かに説明されている。

参考:カフカ紹介 / wikipedia / アンサイクロペディア / カフカの逸話まとめると繊細なイケメンオーラが凄い - Togetter

変身・断食芸人 (岩波文庫)

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