ケベックの夜

前々回前回の続き

ケベックの気温は-3℃程度で暖かかったものの、モントリオールと同じく雪が降り続いていた。バスティーポからホステルへの道がわからず、あちこちと歩きながら探した。と言っても僕は何もしていない。もう一人の人が全てを調べている。僕はついていっただけだ。ケベックの街はモントリオールよりもさらに坂が多く、雪も積もっているため歩くのに苦労する。階段を登ったり坂を登ったり勾配を行き来しながらようやく城壁が見えた。屋外のスケートリンクを通り過ぎ、旧市街へ来た。

ケベックの旧市街は街自体が世界遺産に登録されており、古い景観がそのまま残されている。モントリオールにも石造りの建物は多かったが、ケベック旧市街となるとさすがにすべてが石造り、レンガ造りで、さらに旧市街全体が城壁で囲まれた城塞になっていた。一つの城の中に街があるというような感じだ。

ホステルは目立たない場所にあった。中に入ってチェックインを済ませ、部屋に入ると臭かった。足の臭いにおいだ。部屋には僕ら以外全てのベッドが埋まっており、まだ10時半頃だというのにみんな寝ていた。とりあえず荷物を置いたら早々に部屋を出て、飯を食いに行くことにした。ご飯が安く食べられるところを探すのは難しい。今回はホステルの従業員に店を聞いてみることにした。「おすすめのレストランはないか?」「どんな店に行きたい?」「安いところ」「遠くてもいいか?歩いて15分ぐらいかかるけれど、全てのメニューが$5の店があるんだ」「どこ?」というような会話を一緒に旅行している人にしてもらい、ホステルの従業員には地図に店の場所と名前を書いてもらった。その場所というのはちょうどバス停からホステルに来るまでに通ったようなところにあった。来た道を戻ることになるけれど道に迷う心配はない。

坂を下って、言われたとおり15分ほどで店に辿り着いた。バーカウンターとテーブル10か20ほどがある大きい店で、テレビが何台もありスノーボードのスーパープレーみたいなビデオを流している。レストランバーみたいなのを想像してもらえれば的確かもしれない。中は客でいっぱいだった。座るところが無いんじゃないかと思ったら、店員が出てきた。店員はブロンドで布切れみたいなシャツを着ており、他の店員も同じような感じだった。カウンターは空いておらず、テーブルの相席になるがいいか?みたいなことを言われ、全然構わないのでテーブル席に座った。トロントもそうだけど、こういう接客業は顔で採用するそうだ。レストランに限らずスターバックス等のカフェも同じで、どこへ行ってもだいたい顔採用の人がいるということだった。

テーブルには女の子が2人座ってフランス語で会話していた。6人がけぐらいのテーブルで、手前が開いていたので僕と一緒に旅行している人は向かい合わせに座った。店員がメニューを持ってきた。ショートカットでブロンドで、背が僕と同じぐらいのやたらと愛想の良い店員だ。そしてフランス語で話してきたので「英語しかわからん」という旨を伝えて、とりあえず飲み物としてカールスバーグを頼んだ。食事が$5なだけでドリンクの値段は様々だった。その後メニューを見て、プーティンとかまたハンバーガーとかを頼んだ。スノーボードのビデオが気になって見ていた。ケベックの映像なのかわからないけれど、街中のただ雪が積もったところでスノーボードの回転をしたりジャンプをしたりしている。相席の女の子は後から一人増えて3人になっていた。

カールスバーグは高かったので次はバドワイザーを頼んで、腹いっぱいだったので僕はもう食べ物を頼まなかったけれど、一緒に旅行している人はチキンウイングを頼んでいた。僕はタバコを吸いに外へ出た。ケベックではタバコを吸っている人をあまり見かけなかったけれど、たまたまかもしれない。通りすがりの人に「タバコ持っているか?」と話しかけられ、「店の中にあるから取ってこようか?」と言ったら「そこまではいい」みたいな合図をされて拳を突き出してきた。一瞬なんなのかと思ったけれど、拳と拳を合わせるあの挨拶みたいなやつだった。拳を合わせたら彼は雪の中を去っていった。他に、冬で雪が積もっているのに半袖半ズボンで走っている人たちも見かけた。

飯も食って、ビールも飲んで落ち着いてきた頃、向かいに座っている一緒に旅行している人が、「Are you from Japan?」みたいなことを聞かれた。相席の女の子からだ。

続き:ケベック→トロント