ゲイの人と話した

日本にいた時、「この人はゲイだ」とか「俺はゲイだ」という人には会ったことがなかった。「かもしれない」という噂が立つ程度で、「ゲイである」という人には会ったことがなかったのだ。一人も。今まで出会った人の中にはおそらくゲイも含まれていただろう。ただそれを僕が知ることは一度もなかった。

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トロントに来て二人、ゲイの人と会った。二人とも日本人なのだ。一人はたまたま飲みに誘われて行った場所に来ていた人で、僕の知り合いが「彼はゲイなんだよ」って僕に説明してくれた。そんな説明をされたのは初めてだったから「ん?」と最初驚いたものの、その情報はすぐにすんなりと飲み込めた。

しかしどうも、その最初の「ん?」がダメだったらしく、「日本人の人にゲイって言うと驚かれるんですよね」と彼はやや落ち込んだ様子をしていた。彼は当然ながら日本にいた時からゲイで、ナイアガラにパートナーがいるから引っ越すと言っていた。僕と同じようにワーキングホリデーで日本から1年間カナダに居るだけの人だ。

もう一人は同居人の職場の同僚だった。同居人と街を歩いていた時に声をかけられ、職場の人だという話だった。彼はさらっと挨拶程度の会話をして去っていった。その後同居人から「あいつゲイなんですよ。でも僕は職場であいつとだけ仲いいんです」と言われた。ゲイの人はぱっと見でわかる人もいるけれど、日本人はあまりわからない。この人も全くわからなかった。

トロントにいて、日本では会わなかったような人、違う地域、違う層で暮らしていたような人というのは数多くいる。中には変わった人もいる。でも、ここで会った二人のゲイの日本人は、もしかしたら違うのではないか。彼らはここで出会った特別な人達ではなく、単に日本では自分がゲイだということを公言していないだけのそこら辺にいる人なのではないだろうか。そして、このトロントの「公言してもいい空気」に解放されたのではないだろうか。

トロントにはゲイ・ストリートとかゲイパレードとかがある。僕はあれが何を意味しているのかはよく知らない。けれど日常においては、ゲイの人というのが日本ほどイロモノ扱いされていないように感じる。トロントに限ったことではないかもしれないが、こういう空気は一度経験してもいいんじゃないかと思う。