やる気を出すには

僕は大学2年生の時に中型自動二輪の免許を取った。きっかけというのは本当に些細な事で、隣人がハーレーに乗っていたから。隣の人はバイクのチームを作っていた。僕は頼まれてチームのサイトを作った。そして「お前も免許取れよ」と誘われた。それだけ。今からもう10年以上前の話。僕は自分から何かを始めるということがほとんどなく、パソコンを買ったのもその隣の人が当時iMacボンダイブルーを買ったから。

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どうせ車の免許は必要だからついでに取ればいいやと思い、中型自動二輪と普通免許をセットで申し込んだ。本当にその程度のことだった。教習はバイクが先で、その後車が始まる。バイクの免許を取っていれば、車の学科は免除になった。しかし、教習が始まると、全然うまくいかない。僕はバランスが悪く、超不器用でめげた。

バイクの実技教習というのは、早い人だとだいたい2週間ぐらいで終わる。でも僕は不器用で全然先に進めず、結局2ヶ月かかった。想像してみてもらったらわかると思うけれど、バイク免許の教習に来ている人というのは僕と正反対の人ばかりだ。つまり、ヤンチャっぽい人が多い。みんなバランスが良かったり度胸があって次々にクリアしていく。そして教習所の教官というのも、実はバイク担当に関しては元ヤンだったり体育会系だったりで、とにかく僕とは正反対の人に囲まれていた。

何が言いたいかというと、僕はそのたった2ヶ月のバイク教習がめちゃくちゃ苦痛だった。バイクの教官というのは30代前後のイカツイ人たちばかりで、バイク教習はヘルメットを被りエンジンをかけ鳴らしている中で練習するもんだから彼らが大声で怒鳴る。運動部の合宿に来ている気分だった。そして僕が通っていた教習所というのが厳しくて有名だった。何故そんなところにしたのかというと近くて安いから。失敗だった。

僕は元々バイクに肩入れしていたわけでもなく、どうしても欲しいわけではないから本当にやめようかと思った。教習所に行くのが本当に嫌で。でも大金払っているし早ければ2週間で終わるようなものだから、なんとか通わなくてはいけない。もったいない。でも行くのは嫌だ。向いてない、先に進めない、一体何のために我慢しているのだろうと思っていた。とにかくサボったり辞めたりせず早く終わらせるためには、やる気を出す必要があった。さて、どうすれば?

その数年前に、頭文字Dというマンガが流行っていた。ヤングマガジンで連載していたマンガで路上の走り屋を題材にしており、アニメ化したりゲームになったりしていた。実はかなり長期連載していた。つい去年か一昨年ぐらいに連載終了した。それはいいんだけど、その作者であるしげの秀一という人はもっと前に少年マガジンでバリバリ伝説というマンガを描いていた。僕はそのマンガの名前と、同じ作者であるということ以外は知らなかったが、どうやらバイクを取り扱っているマンガだということがわかった。僕はバイクについてまだ全然知らなかったからなんとか知識ややる気につながればと思い、全巻買って読んでみた。カタナが欲しくなった。

バリバリ伝説というマンガは非行を助長するかなんかで当時社会問題になったらしく、マンガの展開も路上の走り屋から徐々にサーキットを走るレーサーへと方向転換していった。この展開というのは初めから予定されていたのかもしれないが、とにかく主人公の巨摩郡はマンガの中で、GPレーサーとして世界中のレースで活躍するようになった。マンガの中にはエディ・ローソンやワイン・ガードナー、ケニー・ロバーツといった実物のレーサーたちが登場していた。当時日本人のGPレーサーというのがいたのかは知らないが、そういう中で活躍する日本人というのは、マンガのキャラとはいえ爽快だった。ついでにヨシムラ管で有名なポップ吉村も登場する。

僕はそこからMotoGPを見るようになった。MotoGPとは簡単に言ってしまえばF1のバイク版。民放でテレビ中継はされていなかったから当時まだVHSが主流でビデオをレンタルしていた。F1はよく深夜にテレビでやっていたけれど、僕はちゃんと通して見たことがない。僕にとってF1の中継というのはマラソンの中継と同じだった。バイクについては、例え教習でも、乗るようになってからその凄さが分かるようになった。

MotoGPの面白いところの一つとして、日本人が活躍しているという点がある。日本人がワールドチャンピオンになるなんてことは、F1の世界では有り得ない。佐藤琢磨が表彰台の3位に上がってニュースになるぐらいだ。MotoGPを少しでも見ていた人なら誰でも知っているレーサーで、加藤大治郎という人がいた。僕がバイクレースを見だした頃には彼は既に亡くなっており、NHKの追悼ドキュメンタリー番組を見たりしていた。イタリアのとあるサーキットへ続く道の一つには、加藤大治郎の死を偲び、彼の名前がつけられている。彼が死んだのはアイルトン・セナなどと同様、レース中の事故だった。プレイステーションのMotoGPのゲームを購入すると、そこにはまだ加藤大治郎がいた。そして隠しキャラにはバリバリ伝説の巨摩郡がいた。

そんな感じで僕は自分の意思で無理矢理興味を広げ、やる気を起こし、無事免許を取った。その後安い中型250cのバイクを購入し、日常的に乗るようになった。僕は本当にただ乗れるだけで、技術的には免許を取った当時が一番ましだった。ちなみに車の免許は1年かかり、全く乗っていないため今は完全にペーパーだ。

こういった、なんとか無理矢理やる気を起こす手法というのを、他に写真であったり旅行であったり、あらゆる場面にて用いてきた。これ以上例を挙げたところで中身は同じ、ただ文が長くなるだけだからバイクの免許の話だけでお開きとしよう。やる気は、実は自分でコントロールできる。それはもしかするとバリバリ伝説やMotoGPといった、やる気向上に用いた素材が良かったおかげかもしれない。

やる気を起こすにあたって重要な点は、別のことが目的になってはいけないという所。バイクであれば飽くまで「バイク乗りたい」と思うような素材を選ばないといけない。音楽であれば「上手く演奏したい」とかになるんだろうか。「モテたい」とか「有名になりたい」「金持ちになりたい」といった派生型の目的では僕はやる気が起きない。それは結果さえ伴えば手段はなんだっていいことになる。つまり、手段に対するこだわりや思い入れというのが無い。そこでやる気は生まれない。少なくとも僕はそうだ。

本当はやりたくない仕事や勉強でにおいても同様に、やる気向上につながる素材を見出すことができれば、前向きに取り組むことができるだろう。あまりにもユーゴスラヴィアが気になって本を読み漁るうちにセルビア語を覚えたくなるとか(僕はそうじゃない)。過程を楽しめるようになれば、結果はおまけとして後から付いてくる。本当は結果が最初にあったんだけど、手段を目的に変え、自分のやる気をコントロールする。

そういうわけで僕は今旅行の準備が超絶めんどくさすぎるんだけどなんとか前に進めないといけないから、何かやる気向上に繋がる素材を探しまわっているところでした。

バリバリ伝説(8)

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