短編小説の集い「のべらっくす」第11回に参加

テーマは「祭り」

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ラインバッカー

インターネットのとある下火になった掲示板に、一つのスレッドが立った。それはただ一つのURLが貼られただけのものだった。その無味乾燥なスレッドは特に注目されることもなく、ログの下層へと流れていった。そのスレッドにはいつの間にかURLが増えていた。新しく書き込まれたURLは、最初に貼られたURLとは別のものだった。それはどうやら別のどこかへと転送されるタイプのものらしい。その転送URLは日を重ねるごとに増えていった。いつしかそのスレッドには数百の転送URLが貼られていた。

“このURL何コワイ、誰か踏んだ人いる?”
“トップのURLなら踏んだけど何も起こらなかった”
“誰かこの転送アド踏めよ”
“おい、これ誰かのログじゃね?”
“誰か踏んだヤツいる?”
“晒されてるw”
“本名出てるぞこれ”
“おいなんだよもっと詳しく教えろ”
“え、っこれヤバくね?”
“他のも踏んだけど全部別のアカウントみたいだぞ”
“自分で踏んでみろって”

転送URLにアクセスすると、あるメッセージアプリが起動した。国民の約50%が利用していると言われるメッセージアプリ、しかしその表示された画面はいつもと若干異なっていた。自分のものではない。自分ではない名前や友達リスト、そして会話の履歴が表示されている。送受信された写真なども全て。

“なんかさ、一個だけ自分のにそのままログインされたのあるんだけど、これってもしかして俺のアカウント丸見えってこと?”

“どれだよwww”
“さっきリロードしたら追加されてたwwwwマジ消してこれなんとか”
“自爆しやがったwwww”
“自分で晒したんじゃねーの?”
“いや、普通に考えて勝手にログインするURLとか生成できないだろ。どのURL貼ればいいんだ?”
“そもそもメリットねーしな。自分で晒すのはさすがにバカ過ぎる”

“えーっと…踏んで自分のIDに飛んだら自分の晒されてるってことなのか…?俺のあったんだが…”

“コエー!!このスレ要注意”
“マジどうなってんだ”
“消して!!消したいこれヤバい見られたらヤバい”
“誰もお前に興味ないよ”
“削除依頼出してこい”
“このスレ書き込んでたらヤバいんじゃねーのか?”
“運営は関係ないだろ。それこそ運営がやってたら大問題”
“このスレを見ているだけで災厄が訪れる”
“こえー呪いだよ”
“ちょっと待て、じゃあこれ全部ここ見てるやつのIDに飛ぶってことか?”
“俺のはないぞ。さっき全部チェックした”
“俺のもなかった。あるやつとないやつがいるらしい”
“全部チェックとかどんだけ時間かかるんだよ…でもコワイ”
“じゃあここ見るなよ”
“…俺のあった。マジこれどうすんの!!!!削除依頼出してくるわ”
“誰か通報しろよ。さすがにヤバいだろ”
“今何人ぐらい自分の見つけたやついるんだ?ちなみに俺のもなかった”
“ちょっ!!俺のも無いと思ったら増えてた!!”
“最新書き込みお前か”
“特定した。広瀬康一”
“ジョジョwwww”
“おい!wwwやめろwww”
“こーいちくんは姉と仲がいいんだなーうらやましい”
“マジやめてwwww”
“これどんどんURL増えてってるけど、今追加されたってことか?どのタイミングで?”
“わからん。でもこのスレ見てる奴が追加されてることは確か”
“ヤベー俺もうこのスレ見るのやめるわコエー”
“でもお前が閉じてる間に追加されてるかもしれないぞ?”
“言うなそれ!チェックせざるをえない”
“…俺のも追加されてた。どれかは言わん”
“花京院典明?イギーってやつはアダ名か?”
“またジョジョwww”
“言うな!!それ以上言うと特定される!!”
“ジョセフ降臨待ち”
“ジョセフあだ名のやついたらマジ笑う”
“お前ら全部URLチェックしてんのか?”
“してる。俺なかったぞ”
“してる。俺もない”
“全部見る前に俺あった…”
“どれwww”
“下から順番に見てる。俺もないなー”
“俺も下から見てるけど今のところない。上にあるのだろうか…”
“俺あった…。上から見てたけど一番下の方に貼られてた”
“お前どれwwww”
“俺もあったけど上から見てたわ。もしかして上からチェックしてるやつだけあるのか?”
“俺も上から全部踏んだけどなかったぞ?”
“というかお前らどんだけ暇なんだよ。全部踏むとかめんどくさすぎ”
“俺のあった…。これ前に流行った乗っ取りよりコエーよ…アカウント削除してくる。ちなみに上から順に踏んで後半に見つけた”
“上からとか下からとか意味なくね?”
“どうせ全部見るんだったら一緒だろ。上とか下とかこだわってる奴はバカ”
“ただ下から見てる奴が無いのは事実”
“今のところ全員上から見てるやつだな”
“じゃあ俺下からチェックしてみる!!”
“上からやれよwww”
“上からでも無いやついるじゃん?それはどう説明するわけ?”
“まあそもそもここにいる全員が晒されてるわけじゃないからな”
“だから上とか下とかかんけーねーって”

“俺さ、今下から全部チェックしてなかったんだよ。でも今更新したら一番下に追加されてた…下とか関係ないぞこれ…俺もアカウント削除だ”

“下来た!!”
“ほら言っただろ。上とか下とかほざいてたやつはバカ”
“そこで勝ち誇られてもな”
“下からチェックしてたヤツも更新したら追加されてるかもしれないぞ。念のため。”
“それあり得る”
“上からでも一緒だろそれ”
“上からだと一応見てる間に更新されるじゃん?下からだと最新のチェックはできないわけ。意味わかる?”
“おまえがウザいのはわかった”
“そんなことよりここに晒されてるやつと晒されてないやつの違いはなんだ?”
“上下は関係なかったな”
“そもそも何人見てんの?”
“ていうかさ、URL多すぎるのに自分のあったっていう奴少なすぎね?それ以外はこのスレ見てるやつじゃないってことじゃね?”
“確かに”
“じゃあこのスレ関係ないのか”
“いやそれにしてもこのスレ見てるやつ率高過ぎだろ”
“単に報告してないだけだろ。見たヤツ全員が報告してるとかいう発想バカ過ぎる”
“最初の方とかそもそも日付だいぶ前だしな。今見てる奴だけじゃないってことだろ”
“なんなんだよこれーこえーよー”
“俺のまだ削除されない…”
“ID削除しろよ”
“運営のいつものクソ対応の遅さ”
“このスレ気になってしょうがない。拡散してくる!!”
“するなwww”

“お前らさ、トップのURLも踏んだ?今下から全部チェックしてトップに来たんだけど、若干URL違うから戸惑ってるんだが”

“トップ?覚えてないけど俺のはあったよ…”
“トップってスレ主のことか?そういや忘れてたかもしれん踏んでくる!!”
“トップとかURLの違いとか全然意識してなかったなーまあ俺のはあったんですけどね…アカウント削除ですよ…せっかく交換した友達が”
“とりあえず踏んでみては?”
“お前が踏めよwww”
“トップのURLってこれ? https://rigekvls
“貼るな!!www”
“確かに他と違うな”
“よく見ないと気づかんだろ普通”
“つーかトップとか別に意味ないだろ。何この流れ?”
“俺のなかったわ~安心した”
“お前トップ踏んだ?”
“トップは転送アドじゃないからアプリにログインされないだろ。チェックする意味なし”
“おい、じゃあやっぱトップ怪しいんじゃね?”
“どういう意味?”
“↑バカ”
“とりあえず、ついでにトップも踏んでみてよ!”

“あ、やっぱトップだわこれ。ログ確認して俺のなかったのにトップ踏んだら下に追加されたwアカウント削除してくるwww”

“おつかれ”
“おつかれ”
“人柱”
“彼の勇気ある行動を称える”
“また一人の犠牲者が…”
“あっぶね踏まなくてよかった!煽ってたやつ踏め!”
“おまえアホやろ”
“俺もトップ踏んだらリンク書き込みされたwwwwID消してくるwww”
“トライアンドエラーが重要です”
“おつかれ”
“追加報告希望”
“トップほぼ確定?”
“他に踏んだヤツいない?詳細が知りたい”
“ていうか踏んだらどうなるの?どういう仕組でURL生成されるんだ?”
“自分で確かめろ”
“お前が確かめろ”
“踏んでも何もならなかったぞ。ただスレ見たらURLが書き込まれていた。はい、アカウントは削除しました”
“今日削除何人目wwww”
“今までの流れをまとめると、トップのURL踏んだ奴のIDに飛ぶリンクがこのスレに自動的に書込されるっていうことだよな?つまりここにあるリンクはみんなトップのURL踏んでしまったやつってことでいいのか?”
“多分そう”
“それであってると思う”
“流れからすればそうだろうな。確定はできないけど”
“トップ踏んだのにリンク貼られてないってやついるか?”
“踏んだかどうか覚えてないってやつはいたな”
“まあ覚えてないだろ普通”
“トップとか意識してなかった”
“踏んだような踏んでないような…もちろん私もID削除しました”
“お前ら今日何人友達失ったんだよwwww”
“つまりさ、貼られたIDにこのスレの奴が多かったのは、このスレ見てる奴しかトップのURL踏めなかったってことなんじゃね?”
“当たり前だろ。このスレのトップなんだから”
“じゃあスレと全然関係ない知り合いにトップのURL踏ませてもスレにリンク書き込まれるってこと?”

この「URLにアクセスすると認証無しのログイン窓口が生成される」という仕組みは後に“ラインバッカー”と呼ばれることになった。アプリの普及率が高かったことや、URLにアクセスするだけという簡単な仕組み、そして他人のプライバシーを覗けるという悪戯心を煽る主旨が拍車をかけ、瞬く間に国中を駆け巡り社会問題となった。アプリ利用者の多くがそのアプリを介した交友関係、会話内容、送受信していた写真などを文字通り丸裸にされた。そしてアプリ利用者のアカウント削除、退会者が続出し、アプリを運営している会社はその対応が追いつかず事業縮小、上場廃止へと追いやられ、かつて国民の50%もの利用者を誇ったアプリも、その存在をいつしか忘れ去られてしまった。また、IDへの不正アクセスの温床となった掲示板は削除による対応が試みられるも、新たなスレッドが自動的に生成される仕組みに追いつけず、サービスの停止、果ては閉鎖となった。警察による捜査も当然行われたが、スレッドやURLの生成元をたどるとベラルーシに行き着き、それ以上捜査を続行することは不可能になった。