無為な毎日を送っている。ここでは人が入れ代わり立ち代わりしている。その、只の一人として誰であったかわかるわけでもなく、目の前の外側を通り過ぎていく。それはまるで、地図上を移動する記号のように、影形もはっきりとしない、そこにあるのかどうかもわからない、あったとして、何を示すこともない、温度のある点でしかない。ただ表示されているだけ。そんなものは忘れるまでもなく、記憶として定着するまでもなく、記録される前に姿形を消してしまうだろう。確かにそこにあったもの。それぞれの個体、それぞれが体感する宇宙は並行しており、私にとって彼は、彼にとっての私とまた別物である。物を運ぶだけの形、上から見下ろす真っ直ぐな線、そこを移動するだけの光、ここは他とは隔絶された真っ暗闇のとある場所だ。こんなところからは早く抜け出したい。素早く。しかしそこに時間の概念はない。スピードは点と点が結ばれており、その過程もない。おそらく、あるのはその先の一つの鍵だけなのだろう。ひとつではないかもしれない。鍵を開けて前に進むまで時間はいつまでも進まない。気がついたら開いているかもしれない。ただ待つしかない。どうやって待つのだろう。すっ飛ばして抜け落ちた過程は自覚することもできない。あれは、なんだったっけ、あの日のことは、なかったことに、はじめから何もなかった。腰を据えてじっとしている。いつかその存在は薄れ、霧散していくだろう。この箱も、実体を失うのだろう。だからそれを無為と言うのだ。明日あさってには飛んでいる。もしかすると、その時にはまた別の実体を掴めているかもしれない。そう思って、信じて、それさえも思い出せずに、また生まれて、そういうことはもうやめにしたい。誰が決めている。誰が。はじめから何もなかった。