「ロスト・イン・トランスレーション」感想・評価

タイトルのlost in translationは、lost in が「〜の中で道に迷う」、translationは翻訳とか言い換えとかそういう意味の言葉であり、日本に来たアメリカ人が言葉の通じない中で四苦八苦する様子を描いている。これは監督であるソフィア・コッポラの実体験を元にした映画のようで、言葉の壁、分かり合えなさ、行き違い、それによる不満と苛立ち、失望が随所に現れている。

ただ実際のところ、この映画における日本という舞台は演出でしかなく、引き立て役であってストーリーにはあまり関係ない。BGMのようなものだ。では、主題は何かというと結局、言葉が通じる者同士であっても行き違いが生じる、わかりあえないという部分にある。この映画では言葉が通じない者同士、つまり日本人とアメリカ人の関係というのはシーンでしか描かれていない。日本という言葉の通じない国で孤独に過ごすアメリカ人同士が、お互い慰め合いながらもなんとか心を通じ合わせようとする中で、日頃身の回りの、言葉が通じる者同士にもある行き違いを見直そうとするのがこの映画の主題と言える。

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14年前のスカーレット・ヨハンソン

見どころのひとつとして、スカーレット・ヨハンソンがある。僕はこの人が出ている映画をあまり見たことがないんだけど、グラマラスでセクシーで女女した面を売りにしている派手な女優というイメージを持っていた。この映画に出てくる彼女にはそういう印象がない。化粧っけがなく、服装も素朴で野暮ったい。それもそのはず、この映画を撮影していた2002年、スカーレット・ヨハンソンはまだ18歳であり、今の印象と全く違うのもうなずける。見かけは確かに子供っぽいが、そんなに若い頃の役だとは思わなかった。終始気だるく落ち着いており、不安と物足りなさを醸しだしている。エロさみたいなものは全く感じられない。この映画の演技が評価されたと言われているが、その点についてはよくわからないけれど、スカーレット・ヨハンソンに対して僕と同じような印象を持っていた人がいたとしたら、この映画を見て変わるんじゃないだろうか。

日本の醜悪な部分

この映画で見せられる日本の醜悪さはあまりに露骨で、演出のための誇張も入っていると思うがどうしても日本蔑視的に感じる。日本人からすれば見ていていちいち気に障るけれど、その内容が嘘かというとそうでもなく、身に覚えがないとも言えない。アメリカ人から見た日本のリアルな印象を集約すればこうなってしまう。残念だけどしかたがない。日本人の僕でさえ醜悪に感じるのだから。また、日本人だって外国や外国人に対する悪印象では人のことを言える立場ではなく、外国に行けば他国の文化や習慣に対して同じように否定的な印象を持ち、行動している部分もある。つまり、この映画で現してるようなアメリカ人の感情は日本に来た外国人だけでなく、外国へ行った多くの日本人も感じたことがあるものだと思う。

この映画を日本側からの視点で見るだけでなく、外国へ行った渡航者の側の視点で見ても多くの部分で共感できるんじゃないだろうか。外国を訪れて良い印象を持つか悪い印象を持つかの違いなんていうのは、言葉や文化の問題もあるけれど関わり方や接し方、お互いが分かり合う姿勢を持つだけで大きく変わってくる。お互いの感情が理解できずとも、お互いの視点というのをある程度理解し、歩み寄ることで自国にいても他国にいても、日本人とも外国人とも、良い関係を築きやすくなるだろう。

余談

劇中スカーレット・ヨハンソンの夫役をしているフォトグラファーの役は、当時ソフィア・コッポラの夫だったスパイク・ジョーンズがモデルだと言われている。この映画が公開された2003年にソフィア・コッポラとスパイク・ジョーンズは離婚している。スパイク・ジョーンズと言えばおととし見たherという映画が僕の中で印象的だったが、それに出ていたのもスカーレット・ヨハンソンだったなあ。このあたりどうでもいい話でした。

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