前回の続き
購入したドローンを抱えて(コンパクトなものだが)深センから香港へ戻る。深センにいたのは実質3時間程度、電子機器好き(家電マニアなどではなく工作の方)だったらもっと楽しめたと思うが、僕が見てもわからないため短い滞在となった。
今日は夜に約束があり、一度泊まっている家へ戻って休むことにした。炎天下をうろうろしていたため疲れた。
飯を食う約束
約束している人とは香港人のおっさん「チェン」。40代だったと思う。カウチサーフィンで「この期間に香港を旅行します」という旅程をオープンにしていたらメッセージが来て「飯でも食わないか」と誘われた。香港の人はフランクで、今泊まっている家も同じような形でメッセージが来て泊めてもらうことになった。他にも20代の女性からメッセージが来て「食事でもしよう」と声をかけてもらっている。この気軽さはなんなのか、我々日本人のメンタリティからするとよくわからない。
旅行中はあまりお金を使わない性分だから「ローカルで安い店にしよう」と頼んだら「奢るから気にすんな」と返ってきた。さすがにそれは悪いと断ったが「俺も日本を旅行したときに親切にしてもらったし、奢ってもらったから本当に気にすんな」と返ってきた。奢ったのは僕じゃないのに、なんか申し訳ないなと思いつつも「じゃあ俺も引き継いで、誰か日本に来たときに奢るよ」と受けてしまった。
広東料理のレストラン
さて、約束の時間近くになった。場所は旺角(モンコック)という繁華街。指定されたのは駅から歩いてすぐにある商業施設で、日本で言うところのなんだろ、伊勢丹みたいなところ?チェンに「着いた」とメッセージを送ったら「もう中にいるよ。25番のテーブルだから」と返信が来て、ビルに入りエスカレーターに乗って八月軒というレストランに入った。
リンクの写真を見てもらえればわかるが、フロアにテーブルが並びクロスがかかり、中華料理のコースが出てくるようなレストランだった。俺タンクトップだよ?若干気になったが、周りを見れば半袖短パンの客もいて安心した。予約されているテーブルへ向かう。
「やあ、俺です」
「おお、プロフィールの写真じゃわからなかったよ」
チェンの友人も来ており、お互い挨拶を交わした。2人は日本語サークルの仲間で、共に日本語を学んでいるとか。何度か日本に来たこともあるらしい。だからこの席に僕が呼ばれたのか。やっと合点がいった。ここから日本語と英語を交えた会話が始まった。2人はときどき広東語でも話していたが、その内容も英語に通訳してくれた。
香港人との会話
友人の方は、京都に3度も来たことがあると言っていた。「なんでまた?」と聞けば「文化に興味があり、食べ物が美味しい」みたいな当たり障りのないことを言っていたが、チェンはにやにやしながら「ほんとかー?」と答えた。あ、女か。
おきまりの「香港に来てどこいった?」という質問に対して九龍寨城公園と答えると、お決まりの返事として「え?あそこもう何もないでしょ?」と返ってきた。やっぱり香港人にとって九龍城跡は「もう何もない場所」であり、外国から観光で来るような人も少ないんだろうな。
もうひとつ深センって答えると、やはり「深センって中国だよ?ビザあるの?」と返ってきた。香港ー深セン間をビザなしで行き来できる感覚はすごく珍しいようだ。
料理はメニューに写真があり、食材は英語の説明書きがあって選びやすかった。広東料理がどんなものか知らなかったが、今まで食べたことの無いような珍しい料理ばかりで、クセのないマイルドな味が食べやすく、朝から肉まんしか食べていなかったため食が進んだ。
広東語の「ありがとう」
ジャスミンティーを飲むたびに友人の方が注いでくれるから、ありがとうと言いながら「ありがとうって広東語で何ていうの?」と聞いてみた。
「唔該 (ムゴイ)」
発音としては「むごい」より「ンゴーイ」に近い。いわゆる中国語である北京語の「謝謝(シェイシェイ)」とは似ても似つかない。しかしそれより驚くことがあった。
「でも実は広東語のありがとうは二つあるんだ。もう一つは多謝(ドーチェ)。ムゴーイはサービスを受けた返礼として使うんだけど、ドーチェはギフトを頂いたときに返すありがとうなんだ」
なんだそれ、どう違うんだ。つまるところ、ムゴーイは当然の挨拶のようなありがとうで、ドーチェは予期していなかった喜びに対して感謝の気持ちを表すような言葉らしい。
「あと、失礼しますっていう意味でもムゴーイを使う」
これは日本人が「すみません」で感謝を表すときと全く逆の発想だ。
「もうひとつ、テーブルの上で人差し指と中指を揃えてトントンと叩くジェスチャー、これもムゴーイと同じ意味」
なんだそれ、手を合わせて「ゴメン」みたいなもんか。使ったことないが。
香港の英語事情
英語について気になっていたことがあった。香港のスーパーでクレジットカード払いしようとしているときに、若い女性の店員に広東語であれこれ言わた。僕が英語で「カード使えないの?」みたいなことを返していたら、英語わからないという顔をされた。そこで別のおっさん店員が「PINを入力して」と英語で答えてくれた。女性店員は「英語わかるんじゃん」みたいな顔でおっさん店員に話していた。
他にもたびたび英語が通じないことがあった。
「香港って誰でも英語話せると思ってた」とチェンに言うと、
「あー、若い人はあまり話せないよ」
と返ってきた。若い人は??
「香港はイギリス領だったから、年配の人の方が話せる。僕は仕事で使うから話すけれど、僕の年代でも話せない人は多い」
なるほど。言われてみれば当然だ。香港はたかだか20年前までイギリス領だったんだ。その名残りで、若い人よりも中年以上の人のほうが英語に通じている。こういった現象は他の国にもあるのかもしれないが、いわゆるグローバル化が進むと同時に英語教育が発達している新興国とは、全く逆の方向を歩んでいる。
学生の自殺が多い理由
チェンはMBAを経て会計士をしている。友人の方はソーシャルワーカーとして学校で働いているそうだ。それを聞いて思い出したのが、最近香港では受験戦争が激しく、学生の自殺が多いというニュースだった。
その話をすると、
「自殺と言えば日本の方が問題だよ」
と言われた。まあ確かにそうだ。数の面でも。しかし日本の自殺は労働者が中心で、香港は学生の自殺だからまた質が違う。
「確かに、学生の自殺は増えているね。そもそも受験が激しくなったのは(中国)本土からの流入が増えたからだよ。彼らは人数も多いしすごくお金をかけて勉強するから、良い学校の倍率が跳ね上がったんだ。それに教育カリキュラムの変更もある。10年ほど前から勉強以外の面でも評価しようという方針に変わり、今の学生はみんなピアノ弾けるんだよ?もはや必須になってるんだ」
「君らも弾ける?」と訊ねた。
「まったく。僕らの頃は勉強だけしていればよかったからね。それも今ほど大変じゃない。ここ10年、本土からの流入でいろいろ大変なことになってるんだ。例えばさ、僕は5年前に家を買ったんだけど、今じゃ値段が3倍近くになってるよ。中国人が不動産を買い占めて値段を釣り上げているんだ」
香港人は自らのことを英語で、ホンコニーズと呼ぶ。台湾人がタイワニーズと呼ぶように、中国人と区別している。
「そう言えば、今習近平が来ているよね。香港では前にデモとかやっていたよね、なんでも独立したいとか」
そんな話を思い出した。チェンと友人は答える。
「独立っていうのは、ちょっと現実的じゃないね。このまま中国に飲まれていくんじゃないかな。いずれにせよ、僕らより若い世代のほうが大変だよ」
次回、香港旅行2日目③「夜の街を歩く」
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