思い出のヴィレッジヴァンガード

僕らの10代はヴィレッジヴァンガードと共にあった(僕は20代後半まで続いた)。ドンキホーテよりも文化的意識が高く、ブックオフよりもオタク臭控え目の、規格化されたサブカル憧れが集う場所だった「遊べる本屋」ことヴィレッジヴァンガード。しかしもはや失墜してしまって久しい。

ヴィレッジヴァンガード、大赤字脱却なるか | 東洋経済オンライン

僕にとって決定的だったのは、2014年にヴィレッジヴァンガード京都北山店が閉店したことだった。僕にとってのヴィレッジヴァンガード=京都北山店だったと言ってもいいぐらい、付き合いが長かった。店員と面識があったりするわけではないが、実家から自転車で10分ぐらいの距離にあって一時期は毎週ぐらいの勢いで通っていた。

京都北山店

もともとはBEAMSが入ってたビルで、高校の頃にBEAMSが新風館へ移転して(その後フジイダイマルへ移転)次に入ってきたのがヴィレッジヴァンガードだった。もう15年ぐらい前の話だ。まだBEAMSがあると思って行ってみたら、入口近くには駄菓子や文房具が置かれており、左奥には小説や雑誌、2Fはマンガやフィギュア、建築やアート系の本、地下には帽子やサングラス、バイク関連の本やタバコ用品など、よくわからないアメカジの雑貨屋みたいな店に変わっていた。

結局何屋なのかわからない。しかしラインナップやディスプレイの雰囲気が購買欲をそそる。まだサブカルなんて言葉も知らなかった高校生の僕は魅了された。そこから僕とヴィレッジヴァンガード京都北山店の、会話のない付き合いが始まった。「身の回りのものは大抵ヴィレヴァンで揃えましたよ」という、なかなか恥ずかしい高校から大学生活を送った。

出会ったもの

ジャケ買い

本やCDのジャケ買いを覚えたのもヴィレッジヴァンガードである。立ち読みなんかもせずジャケ買いした急先鋒はこれ「星を継ぐもの」。

星を継ぐもの (創元SF文庫)

当時SFと言えばスターウォーズと安部公房ぐらいしか知らなかった僕が、初めて買った洋モノ王道SF小説。とにかくジャケットとタイトルがかっこいい。中身は地味な会議や研究の話だったが、驚きの内容で続編の「ガニメデの優しい巨人」も読んだ。「巨人たちの星」も読みたいと思いながらいまだに読んでいない。

ジャケ買いと言えば中身の確認できないCDである。capsuleはヴィレッジヴァンガードで知った。Perfumeもまだそんなに有名ではなく、中田ヤスタカの名前も一部にしか届いていなかった頃、店頭に置いてあった「FLASH BACK」をジャケ買い。

FLASH BACK

capsuleは同時に、僕にとっての初エレクトロでもあった。今はあまり聞かなくなったが、テクノとかハウスとかシンセ音楽の入り口になり、クラブへ行くきっかけにもなった。これもヴィレッジヴァンガードでの出会いがあってのことですねー。

海外旅行への入り口

僕がまだ旅行をするようになる前、雑誌「NEUTRAL」も表紙が気になって立ち読みしていた。その中でも第2号「美女のルーツ」だけは買ってしまった。今でも実家にある。

ニュートラル(2) NEUTRAL 美女のル-ツ

この号では各国を旅して美女をみつけ、ひたすらスナップ写真を撮って載せている。地域や民族の特徴、美女の基準の違いなどが比較されており、「男性でも女性でも全員買うでしょこれ」と僕は一人で思っていた。

危ない旅行の本と出会ったのもヴィレッジヴァンガードだった。僕が買ったのは「海外ブラックロード」。当時はハワイぐらいしか行ったことがなかったから、危ない海外について漠然とした夢を描いており、その一部を垣間見れる喜びがあった。

海外ブラックロード 危険度倍増版

同系統の本としては、今やテレビでも見かけるようになった丸山ゴンザレスの「アジア罰当たり旅行」が必ず置いてあった。

アジア罰当たり旅行

同じくクレイジージャーニーで有名な佐藤健寿の「奇界遺産」も初めて見かけたのはヴィレッジヴァンガードだった。一通り立ち読みした後日に結局購入している。

奇界遺産

海外文学・お香・雑貨

野崎孝訳「ライ麦畑でつかまえて」や「絶望名人カフカ」もヴィレッジヴァンガードで購入している。レイモンド・カーヴァーを買ったのもヴィレッジヴァンガードだった。馴染みのない海外作家の本と出会う場所でもあった。

本やCD以外で最大の「ヴィレヴァンあるある」はお香だ。北山店はそうでもなかったが、アメ村店など入り口から漂っていたGonesh No.8は誰もが一度は購入しただろう。ナグチャンパもボックス買いしていた。

GONESH リキッドエアフレッシュナー No.8(スプリングミスト)

帽子やリュック、サングラスなんかも安くてよく買っていた。大阪へ引っ越してすぐのとき、アメ村店で綿のマットレスも買ったことがある。北山店ではバイクのヘルメットとシールドを買った。美容師が使うシザーケースがポーチとして流行っていた時はそれも買った。今もあるが使わない。チェリーコークはヴィレッジヴァンガード以外近くに売っているところがなくて、行くたびに買って飲んでいた。

シザーケース。ボタンに麻のマーク

カメラケース。麻のカメラストラップも流行った

本当にマニアックなものは置いていない、コアジャンルの入り口だったヴィレッジヴァンガード。入り口だからこそ一見マニアックそうでもとっつきやすかった。

買わなかったもの

気になっても買わなかったのは「世界の下半身経済が儲かる理由」とかそういう性知識の本や、マリファナ関連の本だった。マリファナ関連グッズや本はやたらと充実していた。JOJOフィギュアとかも結局は買わなかった。

さよならヴィレッジヴァンガード

大学を卒業して、大人になってからも結局は足繁く通っていた。大阪に住んでいたときはフレッシュネスバーガーの向かいのアメ村店。近くにあるスタンダードブックストアとハシゴしていた。スタンダードブックストアはやや大人向けで専門的だから、ヴィレッジヴァンガードで入門してからそっちで高める感じ。名古屋に住んでいたときは矢場町店。ナディアパーク周辺とハシゴしていた。遠い本店も一度行ったことがあるけれど、普通だった。名駅前ビックカメラの店舗もよく行った。

長きに渡り愛着のあったヴィレッジヴァンガードだが、去年日本に帰ってきたとき、その失墜具合に愕然とした。なくなった北山店はもともと客が入っている店でもなかったが、新風館は建物ごとなくなっており、その他の店舗もただイオンの一角を占めるだけの存在になってしまっている。新京極SPINSの下に現存する店舗は、もはや全く惹かれない。なんだろうこの感じ、ただ僕が年取っただけなんだろうか。今の若者をターゲットにしているなら、時代についていけるわけもない。僕らが愛したヴィレッジヴァンガードは、完全に失われてしまった。さようならヴィレッジヴァンガード。時代をありがとう。