「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」感想・評価

ジム・ジャームッシュの『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』を見た。この映画を知ったきっかけは現在タンジェにいらっしゃる、まなつさんの旅行記。

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ジム・ジャームッシュといえば『ストレンジャー・ザン・パラダイス』しか見たことなかったんだけど、モノクロだしもう引退しているんだろうなーと思ったら、今でも現役だった。現在『パターソン』という新作が公開されている。『ストレンジャー・ザン・パラダイス』も実は1984年公開という、見た目以上に新しい映画だった。

映画『パターソン』公式サイト

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雰囲気を極めた作品

『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』に戻る。ヴァンパイアの映画だということと、タンジェが舞台になっているということ以外は知らずに見た。しかも英語で見たからストーリーはいまいちよくわかっていない。さらに僕自身は映画を見るのが下手だから、なんて言っていいか。

月並みな言い方になるけれど、美的な映画だった。いわゆるアート映画のようなわけのわからない映画ではない。まっすぐ決まったストーリーに沿って進んでいく。でも見ていて惹かれるのは物語の進行ではなく、そこに描かれている画の流れや細部であったり、移り変わる音楽、声や言葉遣い、動く人の姿といった部分。世界観。

散らかった部屋

僕が一番気になったのは、部屋の模様だった。インテリアというよりは、散らばった物。建物は明らかに廃墟で、ミニマルな服装とは対極にある、現実味に欠けた住居空間。部屋の中でのシーンが長く、そこには人間の生活からかけ離れた空気がただよっている。これを美的とか頽廃的とかかっこいいとか、そういう語彙でしか表現できない。見てもらえればわかりすい。

生活に向いた部屋ではないんだけど、ずっと見ていたいしこういう部屋に住みたいし住めると思う。『ファイト・クラブ』も廃墟に住む映画だったが、あーいう何もない地べたの生活とは違って、もっと好きなものが散らばった洗練された感じ。いつか廃墟に住みたいです。

人っぽくない

人物は見た目からして人間味がない。ヴァンパイアの話なんだから人間を描いていないにしても、演じている感じがしない。人間からかけ離れた、もともとそういう雰囲気をまとった俳優を選んだんじゃないかと思う。ただまあ電気を修理するのにライトを使うんだ(夜目は効かないんだ)ってところは笑ったが。エヴァという登場人物には僕らが思い描くヴァンパイアっぽい部分が残っており、主人公のアダムとイヴは長い年月を経てそういうところから遠ざかって暮らしていたような感じ。

音楽は良すぎる

さて、音楽である。この映画を見ながらセリフが全部聞き取れなくても、映像を見て音楽だけ聴ければそれで十分だと感じた。それぐらい音楽がいい。いろんな場面に応じてあらゆる種類の音楽が流れるにも関わらず、全体としてこの映画に調和している。ヴァンパイアが過ごす悠久の時間が、それぞれの場所と時代の音楽を引っ張ってくる。

タンジェとデトロイト

最後に街。映画の舞台は前述したとおりモロッコのタンジェと、もう一つアメリカのデトロイト。偶然そのどちらも滞在したことがあって、映画に出てきたのと大体同じような場所を訪れている。映画の中では現実の雰囲気を十分に残しながらも、映画の世界観と混ざり合って奇妙に歪んでいる。映画を見てからあの現場を訪れたら、どこか別の異形さを感じられるだろう。僕のように現場を訪れてから映画を見たら、リアリティに隣り合う世界観の異質さを実感する。

ジム・ジャームッシュ作品人気投票

『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』のウェブサイトでは、過去のジム・ジャームッシュ作品のファンによる人気投票が行われていた。

マイ・ベスト・ムービー オブ ジム・ジャームッシュ!! 投票終了! | ジム・ジャームッシュ初期3部作 Blu-ray BOX&DVD-BOX 3/19発売 !|映画『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』

『パターソン』も公開されていることだし、これを機に他のジム・ジャームッシュ作品も見てみようと思った。『ナイト・オン・ザ・プラネット』とかタイトルからしてそそられる。