「会長はメイド様!」感想・評価

少女マンガである。マンガは子供の頃から親しんできたが、少女マンガと言えば今まで「ちびまる子ちゃん」しか読んだことがなかった。それがふとしたきっかけで読むことになり、見事にハマってしまった。2006年に連載が始まったマンガであり、当時のメイドカフェブームに乗っかったタイトルからして「オタク向けのマンガ」と言われた。しかし実際読んでみると、これ全然オタク向けじゃないでしょ。いや、わからない。メイドカフェの店長みたいに確かにオタクっぽい人も出てくる。しかし「オタク向け」とは一体なんだろう。

いわゆる「オタク向け」

当時の「オタク向け」とは、おそらく「都合のいい設定」のことを指すのではないか。このマンガでは「碓氷くん」などが都合のいい人物にあたる。長身でかっこよく頭脳明晰でスポーツ万能だが、愛想がなくて何考えてるかわからない。そんな都合のいい人物が理由もなく自分のことを好きになってくれる、そういう都合のいい世界。こういったテンプレは男性向けの作品にも多く見られる。

ではこのマンガが「オタク向けではない」と感じたのはなぜか。それは最初「都合のいい」と感じられた部分に、徐々に根拠が備わっていくからだ。最初のうちは、なぜ「碓氷くん」が「会長」に言い寄るのかわからない。「会長」はこのマンガの主人公で、タイトルの通り生徒会長をやりながらメイド喫茶でバイトをしている。

会長はメイド様!

男子校から共学へ切り替わったばかりの星華高校は、女子生徒の立場が弱く校風も男子校の名残りが強い。そんな学校を共学の学校として、女子生徒にも過ごしやすく改善していくために、女性初の生徒会長が奮闘していく。そのあまりに厳しい姿勢から男子生徒の間では「鬼会長」と呼ばれる主人公。会長としての威厳を保つため、校内でメイド喫茶のバイトを隠している。メイド喫茶を選んだ理由は「時給がいいから」。

しかし前述の「碓氷くん」にバイトしている姿がバレてしまい、それ以降ことあるごとにチョッカイをかけられるようになる、というのがこのマンガの冒頭の筋だ。碓氷くんはチョッカイをかけるんだけど、同時に一貫して会長を「かわいい」と言ったり立場を守ろうとしたり、いわゆる小悪魔的な白馬の王子様みたいな態度を取る。読んでいる側からすれば「なんで?」という疑問が湧く。

というのも、この時点ではまだ会長が魅力的な人物として描かれていない。黒髪のボサボサで、キャラクターデザインからして容姿が特に優れているわけではない。男勝りな性格でおまけに貧乏、ファッションを気にかける様子もない。それに比べて完璧な王子様である碓氷くんが、なぜ会長に言い寄るのだろう?これってゼロ年代のオタク的な「都合のいい設定」ではないか?と思ってしまう。

「会長」という人物の魅力

でもそうではなかった。ここから18巻に渡り、会長の努力と思いやり、困難に向き合う姿勢、挫折と成長、そして克服が描かれる。会長は家柄ではなく、特殊能力ではなく、ラッキーでもなく、努力とガッツでありとあらゆる無理難題に立ち向かう。時には失敗し、反省し、時には人に支えられ、時には人を許し、会長の人間としての魅力がどんどん膨れあがっていく。ここはもう言葉で表現のしようがなく「最後まで読んでくれ」としか言いようがない。

少女マンガの皮を被っているが、はっきり言って熱血だ。都合のいい人物である碓氷くんがなぜ会長に好感を抱くのか、その根拠となりえる部分が読んでいくうちに次から次へと植え付けられていき、読者は次第に「都合のいい」碓氷くんではなく、会長の人となり、そして成長する姿に魅せられていく。

このマンガは2010年にアニメ化されたみたいだが、アニメではどうやら前半のライトな部分しか描かれておらず、結末に向けての大スペクタクルは含まれていない。アニメだけ見ればやや「オタク向け」に見えなくもない。アニメしか見ていない人は是非マンガを最後まで読んでもらいたい。

「都合のいい設定」を求めるのがオタクだとしたら、努力と根性で現実を乗り切っていくマンガ原作はむしろ、オタクには向かない作品じゃないだろうか。

コメディとしての「会長」

以上のような主軸以外にも、このマンガには忘れてはいけない魅力がある。それは「笑い」の要素だ。特に前半を読んでいると、ジャンルとしてラブコメを超える、突出したコメディ要素に気づく。ところどころで繰り広げられる漫才のような掛け合い、見落とされそうな場所に散りばめられたシュールなボケ、「え、これ少女マンガでやるの?」と何度も驚かされた。

このマンガはLaLaという月刊誌で連載されていたそうで、対象となる読者層は中高生の女の子。それにしてはあまりにレベルの高い笑いがふんだんに盛り込まれており「このシュールは理解されるのか…?」と不安さえ覚えた。しかしどうやらこの「笑い」の要素もマンガの評価を高く上げた部分らしく、中高生女子のセンスをなめてました。ごめんなさい。少女マンガというものを知らなすぎる。

「笑い」の要素については、おそらく作者が生粋の関西人だから自然と盛り込まれたのだろう。コメディが主体のマンガとして描かれていないだけに、不意にもたらされる仕掛けに毎回驚きながらも吹き出していた。恋愛一辺倒ではないからか男性読者も多いみたいで、海外でも人気が高いようだ。

一度完結したマンガだが現在でも人気が高く、読み切りの特別編が今度単行本になるらしい。