「国境なき医師団」になろう!を読んだ

医師も看護師も若い人も年配の人も、みんな自分の国にいたらもっと快適な生活がおくれるはずのなのに、治安も住環境も給料も条件の悪いところにわざわざ来て。気温40℃や50℃が当たり前で、美味しいものなんてなくて、そんなところに半年とか一年とか住んで。 P188

朝早く、チームは宿舎からオフィスまでばらばらと歩いて向かいます。重たいリュックを背負って一歩一歩、前を歩く仲間たちの背中を見ながら思ったんです。よくやるな、と。肌の色、目の色、髪の色、ばらばらの人たちがMSFの名のもとに集まって、緊急人道援助が必要な人たちのために働いている。自分がその一員であることを忘れるくらい見惚れてしまって、MSFはすごい組織だなとつくづく感心しました。 P189

国境なき医師団に入りたいわけではないけれど、どことなく小さな憧れがあった。ただでさえ人を助け命を救う医者という職業の人が、被災地や紛争地に出向いて自らの危険を顧みず活動している。

普通の医者として日本で働いていれば高給取りにもなれるのに、国境なき医師団はそんなにお金がもらえない。地位も約束されていない。見返りなく前線に出て人の命を救う人たち。わかりやすいヒーロー像だ。ある種別世界の人間である。

TBSラジオ・アトロクにゲストとしてきていたいとうせいこうが、「国境なき医師団」になろう!という自著の話をしていた。「なろう」とは?国境なき医師団のメンバーは、実はその半分近くがノンメディカル(非医療従事者)なのだ。つまり、医者や看護師、助産師、臨床心理士、薬剤師といった医療に関わる専門家ではなくても、国境なき医師団になれる。

ラジオ放送では現場を見てきたいとうせいこうが、わかりやすくおもしろく解説している。

どんな人がいるのか

非医療従事者でも枠があるなら国境なき医師団に入りたいかって、僕はそんなふうに思わない。ただそれでも、国境なき医師団が何をやっているのかは気になる。特にその、一般人枠、ノンメディカルの人たちはどんな人たちで、どんな仕事を行っているのか。

本によると、例えば現地で人を雇用するにあたっての人事、物流や経理、水の浄化、確保、現地での交渉、マネジメント、医療現場を支えるありとあらゆる職種の人が、自らも国境なき医師団として関わっている。彼らは、もともと国境なき医師団に入るためにキャリアを形成した人だったり、企業で働いた後に面接を受けて採用された人、リタイアの後にセカンドキャリアとして入る人もいる。

この「国境なき医師団」になろう!では半分ぐらいが国境なき医師団の日本人メンバーへのインタビューで構成されており、どんな人が国境なき医師団に入って、何をしているのかよくわかる。僕にだってできるかも!とは思わないが、医者じゃなくてもやれることはたくさんあり、自分の身の回りでも、やりがいのある仕事を探している人には勧めたいと思った。

どういう動機で参加するのか

国境なき医師団は不定期な仕事で、緊急人道援助の要請がなければ基本的には本国で待機している。とても意義のある仕事だけど、本人たちはあまり恵まれない。彼らはなぜこのような過酷な道を選ぶのだろうか。本国で豊かな暮らしを望めば手に入る人たちが、それらを捨てて人助けに奔走する理由とは。

自ら被災経験のある人、人に助けられた経験から人助けを志すようになった人などがいるなか、資本主義の成功モデルに賛同できなくなった人も珍しくない。

MSFに入る前は外資系企業やIT企業、経営コンサルティング会社で営業やマーケティングの仕事をしていました。いつからか「俺は誰のために働いているんだろう」と疑問を感じるようになっていたんですよね。このまま金銭欲や物欲にまみれたらまずいな、今日の自分が健康であることや風や陽光を快く感じることに幸せを感じたいな、と。

自分はこれまでお金持ちのために働いていたんだ、そうじゃない人のために働きたい、と気づかされました。 P198

こういう人は日本だけでなく、海外のメンバーにもいる。

学生時代にWATSAN、下水システムを学んだ彼は、パリの私企業でソーラーシステムの仕事をしていました。けれど、日に日に不満が募りました。 「お金のことばっかり考えるのが嫌になったんです。」 その企業の先輩が人道援助組織で活動していることを知り、転機になりました。 P228

彼らは皆、自らが望んで現場に足を運んでいる。他にも国境なき医師団を職場として、日本国内の就労と比較した部分は印象的だった。

「日本だと社長のためとか、給料のためとか、あるいは不安だからとか、そういうモチベーションですよね。どうしても世間が神様という感じがあります。でも、ここでは個でいられます。誰と比較する必要もありません。自分で計画を立てて、患者さんのために動くだけ。MSFはシンプルです。だからストレスがありません」 P243

この意見に対していとうせいこうが

日本がいかに働くことへの能動性を奪われる社会であるかがわかります。

と続けている。「実力があれば…」と思うかもしれないが、彼らは国境なき医師団に採用されるためにタイの大学院で学んだりフランス語を学んだり医療現場で4年のキャリアを積んだりと、才能だけでなく意志と努力でこの道に進んでいる。その気があるなら、「国境なき医師団」になろう!面接で落ちても、足りない部分とどこで何を学べばいいか教えてくれる。

「国境なき医師団」になろう!を読もう

本の中身の一部は、以下の連載から読むこともできます。

まとめて読むなら、本で読んだほうが読みやすいです。新書なんで、すぐ読み終えることができます。

自分が国境なき医師団になることはないけれど、今回この本を読んで思わず寄付してしまった。たった3,000円だが、ラジオではいとうせいこうがこう言っていた。

この本を出して会う人会う人が「いや、私も寄付をしているんですけども、本当に少ないんですよ。申し訳ない」って言うんだけど、とんでもない!それが100円であれ1000円であれ、現地でどれだけの包帯になって、どれだけのワクチンになって、死にそうな子供たちに打たれているのか。僕は見ているから、それが全部使われているから

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