刺激的な刺激とは

知り合いが東京で、ポーカーができるバーをオープンするらしい。そういうのが流行ってるそうだ。もちろん日本ではお金を賭けられないけれど、知り合いは競技ポーカーのプレイヤーであり、ここ数年はいろんな大会に出ていた。ポーカーをやるためにオランダへ行ったりしていた。コロナ前には他にも並行して準備していた事業があったんだけど、渡航制限がかかり一気にポシャってしまった。再開するのはいつになるかわからない。

新しくバーの経営を始めるにしても、ポーカーにだけ関わっているとだんだん仕事になってしまい、うんざりしてきそうと言っていた。彼は他に何か、新しいこと、楽しいことがしたいと言う。曰く、刺激を求めているそうだ。

彼は元ゲーマーで、最近元ゲーム仲間と会ったらしい。その写真をInstagramで見て、僕はある動画のことを思い出した。この番組がなんなのかわからないけれど、フルバージョンが上がっている。1時間半近くある長い映像だ。

これはバーチャファイター10周年のドキュメンタリー番組のようだ。まだeスポーツなんて言葉がない頃に全国大会が開かれ、プレーヤーがテレビに出るぐらいの盛り上がりを見せた、バーチャファイター。映像に映る人たちは、バーチャはゲームの枠を超えた、コミュニティだと言っている。僕はこの映像を1時間半ずっと見ていた。

元ゲーマーの彼はこの映像に出てこないけれど、まさしくこの渦中にいた人だった。アテナ杯、その延長のビートライブカップ、これを超える刺激なんて、今後彼には訪れないんじゃないか。

「またゲームでも始めようかな」とも言っていた。普段からPS4などのゲームで遊んでいる彼だけど、バーチャぐらい本気でのめり込むゲームがあるのだろうか。当時の彼は、ゲームにのめり込むと同時に、シーンを作っている側の一人だった。現在の、既に出来上がったゲームシーンに、後からただ参戦して、プレイヤーとして遊ぶのではきっと物足りないだろう。

刺激って何なのかと思う。黎明期の刺激、ゼロから始める楽しさ、何もないところから人々を巻き込んでいく喜びというのがある。自分はそんなの経験したことないけれど、まだ名を知られていないものが、これから飛び出そうとしているエネルギーを感じたことは何度かあった。これから流行りそうなものを、立ち上げている側ではなく早期のユーザーとして、一緒になって盛り上がっていた。

はてなの近藤さんは創業以来webのシーンを作っていたけれど、オフラインに足を伸ばしたくなって物件ファンを始め、それから宿とレストランとコワーキングの複合するUNKNOWNを立ち上げた。同時に趣味の登山、マラソンの延長でトレイルランニングを始め、滋賀一周ラウンドトレイルという山の中を400キロ走る大会を開催した。

知人も多分、そういう人を巻き込む何かを一から始めたいんじゃないか、新しいシーンを切り開く側で何かやりたいんじゃないかと思った。でも今のところその何かは見つからないそうだ。

ついでに僕自身はそんな大それたことは考えたことがない。手近なところで、一人、もしくは数人で細々とやるのが性に合う。人を巻き込むほどの何かをやろうとしたことはなく、誘われる魅力も実力も持ち合わせていない。だから自分にとってこの手の話は、縁遠い話だ。特に今は、何かおもしろことを始めたいっていう気持ちがない。このまま何も起こることなく、今の生活が死ぬまで続けばそれが理想、とさえ思っている。