「本についての、僕の本」を読んだ

こういうタイトルだけど、ここで紹介されている本はアメリカの写真集が多い。この「本についての、僕の本」を知ったのはInstagram上だった。写真の説明文としてこの本の文章が引用されており、原文を読みたいと思った。1988年のやや古い本で、雑誌ポパイで連載されていたコラムをまとめたものだそうだ。本屋などではおそらく見かけることがない。僕はまず、図書館で借りた。そして全部読み終える前に古本を購入した。

著者は片岡義男という作家。僕は全然知らなかった。作品も読んだことがない。Wikipediaによると父親が日系二世のハワイアンだそうで、アメリカ文化に精通しているのかもしれない。この「本についての、僕の本」で紹介されている本は、アメリカの文化を切り取った本ばかり。テディベアの本とかミッキーマウスグッズの本とかボーリングの本とかホットドッグの本とか、そのどれもがあまり興味の湧かない本。しかし、著者の紹介文が読ませる。一冊の本に対してわずか2ページから4ページの紹介なんだけど、実に上手くその魅力を語る。

そのバトン・ガールは、若い。躍動している。はちきれそうである。きっと美人だろう。太腿やふくらはぎが、素晴らしい。とは言え、彼女は決して特別の存在ではない。一九四〇年のアメリカのなかで、彼女のような女性をさがしたなら、困ってしまうほどにたくさんいたにちがいない。彼女は、ごく普通の人だ。しかし、まさにその普通の人として、彼女は、この写真の中で、ロススタインの写真的な力量によって、具現のようになりえている。
なにの具現かというと、アメリカの力の具現であり、ではその力とはどのようなものかというと、常に新しく自分を作り出していくことのできる力だ。そのような力に対する、信仰にも似た信念を、彼女はパレードの先端で具現している。具現することによって、彼女は、アメリカのなかで普通の人が持ちうる、あるいは持たなくてはいけない、尊厳のようなものを、端的に表現している。 P156

これはアーサー・ロススタインという人の「America in Photographs 1930-1980」という写真集の紹介文で、表紙になったパレードの写真について解説している。この紹介がなければ、この写真集のことは知らなかった。たとえ本屋で見かけたとしても手に取らなかっただろう。それが今僕はネットで注文してしまっている。見事にしてやられている。僕だけでなく、この文章を読んだ多くの読者が、全く興味もなかったはずの写真集を手にとって購入したんじゃないだろうか。この「アメリカの心がうたう歌が聞こえる」と題されたコラムは、公式サイトでも全文公開されているので、興味が湧いたらどうぞ。

この本の中では、36冊の本が紹介されている。そのうちさすがに全部とは言わないが、5冊は欲しい本が見つかった。手に入りそうにない本もある。ジョエル・マイヤーウィッツの「A Summer's Day」なんかは古本でいくつか見つかった。ルー・ストーメンの「Times Square」も、あるにはある。ただタイミングを逃せば見つからないだろう。もしくは海外からの輸入になる。ネットで海外通販なんて今どき珍しくないから、頑張れば手に入るか。送料と期間がどれぐらいかかるかはわからない。ゲイル・レヴィンの「Hopper's Places」もほしいけれど、そんなに安くは売っていない。

こういった、本が欲しくなる本は実に読んでいて楽しい。それが、聞いたこともないような本だったり、もともと全然興味が湧かなかったような本だったら、この本を読むという体験そのものが全て新しい発見になる。そして、この本を読んで欲しくなった本を買い、ページをめくるときも手元に置いておきたい。改めてコラムを読み、内容を照らし合わせて確認したい。それぐらい、「本についての、僕の本」は何度も楽しめる。

[asin:4103490055:detail]

今週のお題「おうち時間2021」