あまり写真を撮らなくなった話

2010年頃にカメラを買って、それから10年ぐらいはよくカメラを持ち歩き、写真を撮っていた。当時の僕を知る人は、よく写真を撮っている人というイメージを持っているかもしれない。趣味でしかなく、写真教室に通ったりコンクールに出したりしたことはない。プリントも滅多にしない。100円の電子書籍で撮り方を勉強したことはある。雑誌を買ったり、写真集を買ったりはしていた。その程度。

もともとは旅行したときに、旅先の写真を撮って残しておきたくて、カメラを買った。旅行なんて年に1回するかしないかだから、それ以外のときにもてきとうに撮るようになった。イベントごとが苦手で、写真を撮っていればその場のいたたまれなさを気にしなくて済むから、写真係を自ら買って出るようにした。でもそういうのは途中から飽きた。

10年近くカメラと写真とともにある生活を送っていた。それがここ数年であまり撮らなくなった。明確な理由が二つある。一つは、コロナに入り移動が制限されたこと。もう一つは、写真の扱われ方が敏感になったこと。

撮るものがなくなった

もともと旅行中の写真を撮るのがメインだったから、旅行をしなくなり写真を撮るメインの機会を失った。結婚してからは夫婦で国内旅行をしており、そのときに記念撮影のような写真は撮っている。でも前みたいに一日数百枚も頻繁には撮らなくなった。

旅行だけでなく、日常の移動も制限された。巣ごもりなどと言われた時期もあり、自宅とその周辺にしか足を運ばない日々が長く続いた。自分は身の回りの些細な変化に疎く、そういう変化を繊細に写すような写真は撮れない。もっと大雑把でわかりやすいものしか目に入らない。同じところを行ったり来たりする生活が続き、撮るものがなくなった。カメラを持ってもシャッターを切らないまま帰宅し、そのうち持ち歩かなくなった。

撮りにくくなった

日本は特にそうだけど、ここ数年で写真を撮ること、撮られることに非常に敏感になったと感じる。Googleマップやテレビ番組のような企業だけでなく、個人がSNSに写真を載せるときに顔をぼかしたり、顔にマークを被せたりしている。僕はこの風潮が本当にわからない。百歩譲って、偶然写り込んだ赤の他人の顔を、何かよくわからない配慮をして隠すのは、まだ理解できる。でも中には明らかに一緒に写っている知人や参加者の顔をボカしたり、上からニコニコマークをつけた写真を近年は多く見かける。あれは本当に意味がわからない。

個人の主観として、あーいう写真はめちゃくちゃ気持ち悪い。モザイクのように顔が隠れていたりアノニマスのようにマークに上書きされている写真は、単純にやばい写真だと感じる。なぜあんな加工をしてまで写真を載せたいのだろう?SNSに写真が載ることに対して、写っている知人に配慮したりお気持ちを忖度したり、いちいち許可を取るのがめんどくさいっていうのがあるのだろう。だったら載せなければいいだけで、あんなに加工しまくったホラー写真を載せてまでアピールしたいことってなんなんだ。気持ち悪すぎ。

ブサイクに写った自分の顔を公開されていることが許せない、という人は昔から一定数いる。でも今は個人情報とか特定とか、得体のしれない恐怖を理由に、顔写真に敏感になっている。だからみんな顔を隠す。ごちゃごちゃ言われないために、配慮お気持ち忖度で、他人の顔を隠す。それと真逆の思想であるストリートスナップなんかは、本当に撮りにくくなった。僕は外国でも日本でも、人が写り込む写真を道端でよく撮っていた。でも今は気が引ける。

2020年2月にあった鈴木達郎の炎上は、自分にとって象徴的なできごとだった。僕はあーいうスナップを目指していたわけではないけれど、今の世の中で写真を撮ることのハードルが格段に上がっていることを表している。

「フジフイルムPV炎上」のモヤッと感を整理する(1/2 ページ) - ITmedia NEWS

仕事や表現で写真を撮っている人なら、世の風潮を気にしないか業務的にクリアしていくのだろうけど、所詮趣味で写真を撮っている人間からすれば、今は街中の人がいる方向にレンズを向けることも気が引ける。僕は人に迷惑をかけるとか人の嫌がることについて、どちらかといえば顧みないほうだけど、怒った人に絡まれそうでめんどくさい。めんどくささには勝てない。写真に写って怒る人の気持ちはよくわからない。きっと感情的に嫌なのだろう(実害に遭う有名人はともかく)。

ちょっとだけ撮るようになった

コロ中はあけていないけれど、今年の春から移動の制限はゆるくなり、外食や市をまたぐ機会や、人と会う機会、街中に出る機会もようやく増えた。それに伴って、以前ほどではないにしても、ときどき写真を撮っている。少しでも気軽にカメラを持ち運ぶために、コンパクトデジタルで撮るようにもなった。まだまだ使い慣れなくて、悪戦苦闘している。

また、ライカでもときどき撮るようになった。きっかけは写真展に行ったことと、Instagram等でもライカで撮った写真の評判がいいと聞いたこと。道楽で買った高い買い物だったから、眠らせておくのはもったいない。でもやっぱりスナップはもうなかなか撮らないかな。