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短編小説の集い「のべらっくす」に参加しようとしたら期限が切れていた

書いてしまったから載せるだけ載せておこう。短いです。

お題は「猫」

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僕は君のことを、ずっと前から知っている。いつからだったかは思い出せないけれど、僕らがまだ子供だった頃、僕らはもっと打ち解けていて、僕がよく君を励ましただろう?

僕らが道端で再び会った時、君はもう大きくなっていた。僕は、僕が君を覚えていることを知っていた。それまでずっと忘れていたんだけれど、なんでだろう、君を見て思い出した。以前君と一緒だったのは、もうずっと昔のことなのに。僕は君を思い出したことがうれしくなり、声をかけた。あの日のように。「なあ、元気でやってるか、俺だよ」って。君は僕を見て、何も言わなかった。君の顔は雨の日のように灰色で、何もないところを見ていた。僕のことを昔のように呼ぶことはなかったけれど、君は僕に気づいて、僕と目が合い、少し笑ってくれた。君が僕を認識してくれた。僕はそれだけで満足だった。あの日に戻った気がした。

君と会ってから、君と一緒だった頃を思い出すようになった。今までずっと忘れていたんだ。お互いなんて呼び合っていたかさえ思い出せない。けれどちいさかった君は、僕の隣にいた。僕らはお互い笑っていた。まだ君が小さかった頃のように、僕は君が立ち去ろうとする後を追いかけた。すると君は振り向き、僕がついてきていることに気づいた。僕を見て、君は何か言うのかなと思ったけれど、君はまた前を向き、そのまま歩いた。君は、僕のことを覚えていないんだな、と思った。でも僕だって君を責めることはできない。君が君だということ以外は何も思い出せない。

それでも君は、僕がここにいることを知ってからか、よく来るようになったね。君が何も覚えていないんだったら、思い出さなくてもいい。僕は君と、こうやって時間を過ごせるだけで、昔に戻ったような気分になれるんだ。君はすぐに立ち去ってしまうし、僕もずっとここにいるわけじゃないから、あの頃よりも時間はずっと短い。あの頃のように、ずっとお話しているわけでもない。きっと君は大人になったんだね。僕は、どうだろう?

本当は、話したいことがたくさんあったんだ。僕たちが一緒に過ごした時間は、僕にとって大切な思い出だから。君が忘れていようと、僕は構わない。本当は、君にも覚えていて欲しかった。君と、僕とで、もう一度あの頃を振り返りたかった。そして、君に出会えた時、またそういう暮らしができるかもしれないと思った。僕と君はそれぞれ別々に生きているけれど、その中で交わることが有り、また君の話を聞いたり、君を励ましたりすることができるんじゃないかって。でも僕らにあるのは、今この時間の、この場所だけ。僕らはもう、お互いを語り合う言葉さえ持たない。君はなぜ、ここに来るの?僕は君と会うためにここに来ている。

「ありがとう」

君は僕にそう言ったね。そして、もうここには来なくなった。僕はあれからも時々ここに寄るけれど、君を見かけたことは一度もない。君が僕に最後に言った言葉、あれはなんだろう。君も僕のことを思い出してくれたのかもしれない。君がいなくなって寂しい。君はまだ、あんな灰色の顔をしているのだろうか。僕はあの頃のように、君を励ますことができただろうか。君とまた会えれば、それはうれしい。でも僕たちはもう別々に生きている。君がずっと、幸せでありますように。僕たちは、今でも家族だ。