ブロガーとしての高野秀行

最近立て続けに高野秀行本を読んでいる。25年以上の作家としての経歴を持つ高野秀行氏なんだけど、2004年から12年に渡り今もブログを更新されている(不定期)。作家によるブログというのは珍しくないが、これほど早い時期から始め、長い間ずっと続けている人をあまり知らない。それも作家としての業務的な活動報告にとどまらず、数多くの書評、映画評から音楽、料理、趣味の話など日常生活の話も含め内容が多彩でなおかつ面白い。ブロガーという言い方は適切ではないが、ブログだけでも十分に面白いため、高野本を読んだことがない人にも高野秀行ブログをおすすめしたい。

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辺境作家、高野秀行

それではまず、ノンフィクション作家、高野秀行とはどういう人なのだろうか。著書を読んだ人やクレイジージャーニーを見た人なら多少はご存知かもしれない。冒険の舞台となる場所はコンゴやアマゾンの密林、ミャンマーやブータンの山奥、幻の動物を調査したりゲリラの村に潜入したり、未確認国家や前人未到の西南シルクロード踏破など、「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」がモットーの辺境作家。

早稲田大学探検部の部長を務め、在学中に作家デビュー。英語はもちろんフランス語、スペイン語、中国語、タイ語、リンガラ語、ビルマ語、シャン語、ソマリ語など幾多の言語をあやつる自称言語オタク、現地の人と打ち解けるために現地の習慣、現地の言葉、現地の食事に馴染み、マラリアにかかったり薬物中毒に陥ったり死にかけるのは当たり前、取材のために身分証明書を偽造することもしばしば。必要に迫られた国境の越境により、インドのブラックリストに載ってしまったため今でも入国拒否の扱いになっている。

各国では地元のジャーナリスト、政府高官に限らず少数民族や反政府ゲリラとも親交があり、多様な人脈と厚い人望を持つ。地元東京では盲目のスーダン人を作家としてプロデュースし、ミャンマーのシャン族の難民が経営しているレストランに通い、上智大学では1年間アジア文化論の講師を受け持つ。執筆にあたっては常に10個ぐらいのテーマを頭の中に持ちながら同時進行させ、形になったところで著作へと落としていく。

なんてプロフィールだけを見たら、めちゃくちゃ多才でハードボイルドなおっさんだ、と思うだろう。これ全部ウソじゃないのが凄い。しかし、ブログにそのような雰囲気は全くない。著書にさえほとんど見られない。ブログで見られる高野さんは大抵、ユーモアにあふれたかわいそうな人だ。

プライベートの高野秀行

ブログにおける高野さんは実に親しみやすい人だ。専業作家なのにブログ上では誤字脱字も多く、単純な間違いも多いためよく読者にコメントで指摘されては訂正している。尊大なところは全くなく、それどころかカッコつけているところさえ見当たらない。真っ直ぐな自分の姿、正直な自分の意見、面白かったこと、つらかったこと、楽しいこと、悲しいこと、仕事における悩み、そういった感情をそのままブログに掲載されている。

それは著作においても同じ姿勢だけど、著作は冒険譚が主題となるためブログにおいては日常における高野さんの身近な親しみやすさが存分に発揮されている。熱烈なファンを生む理由が伺える。

また、高野さんは劣等感が強い。大学生の時にノンフィクション作家としてデビューして以来、ずっと売れなかったそうだ。ブログ上では長い間ご自身のことを重版童貞と揶揄されていた。

高野 だから、『ムベンベ』からスタートして十何冊かは、すべて初版で終わっちゃったよ。俺はずっと「重版童貞」といわれてた。

角幡 あの『ムベンベ』も重版がかからなかったんですか?

高野 かからない。『アヘン王国』にいたっては、出すのも大変で、出版社に原稿を持って行っても、説教までされちゃってね(笑)。「まだ若いうちにこんな薬物の本なんか出しちゃ駄目だよ」なんて。なにしろアヘン中毒で帰国したわけでしょう? 抜けようとしたらアル中気味になったりして、すごく消耗していた。渾身の作品のつもりだったから、出版して、本が売れれば、まあいいんだけど、どうにもならない。やっとすごい峠を越えたら、そこは奈落だったみたいな状態で、その後はちょっと厳しかったね。

(こちらは対談記事でブログとは別物)

また、ド派手な著作と打って変わって、日常においてはかなり慎ましい生活をされていた。

家賃は一万二千円だったし、金がなければ生活レベルを下げればいいというその一点張り。おれがいちばん金かけてたのはたぶん本だと思うんだけど、それ以外は本当に金使わない。

毎日、書店や古書店めぐりをして、途中でプールに行ったり。一日の日課がそれだけみたいな生活だったよね。プールに行くから銭湯も行く必要がない。銭湯代ってけっこう高いんだよ。プールのほうが安い。それにプールに行くと「今日、おれ、がんばったな」という充実感も得られるし。・・・・・・えーと、なんの話だったっけ(笑)。

高野さんは現役部員の間で有名だったんですよ。本も書いてるし。だけど、バリバリやっているようなイメージがあって、近寄りがたかったんです。「おまえ、何やりたいの?」なんて聞かれそうじゃないですか。

その一方で、会ったことのある人に聞くと、高野さんは三畳間に住んでいて、いつもシーチキンご飯ばかり食べているなんて話しか出てこない。「いやあ、ジャーナリストなんかなるもんじゃねえな」みたいな。もう、どういう人なんだかわけがわからない。

高野 ツナ缶ね。あれは貧乏だから食ってたわけじゃなくて、好きで食べてただけなんだが。

角幡 そうですか(笑)。高野さん、学生時代からそんな感じだったんですか。

この対談相手となっている角幡唯介氏は大学探検部の10年後輩であり、デビュー作で開高健ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞を受賞している。そのことについて高野さんは褒め称え、喜びつつもひたすら劣等感を抱えている。

うーん、とまた考えてしまう。
同じ探検モノを書いていても、私は大宅賞の候補にすらなったことがない。
ていうか、そういうメジャーな賞から無縁だし、ノンフィクションでも文芸でもどっちからもほとんど無視されている。
いつまで経ってもキワモノとしか扱われないんだなとしみじみ思う。
と、暗くなっていたら、『ワセダ三畳青春記』が10刷になったという知らせが来た。
累計部数も9万部を超えた。
結局このまま独自路線を歩むしかないか。

角幡唯介はノンフィクション界の村上龍

高野さんの本は昔から傑作ばかりで読んだ人は皆面白いと言い、熱烈なファンは多かったものの、一般的には手に取られない、見向きもされない時代が長く続いた。しかし、2013年に出版された「謎の独立国家ソマリランド」が一つの転機となる。

ソマリランドと高野秀行

エゴサーチをしていた高野さんは、Yahoo!知恵袋で一つの記事を見つける。

「最近、高野秀行の本がつまらないと思われている方、私以外にいらっしゃいますか?」

『幻獣ムベンベを追え』 『早稲田三畳青春記』 『西南シルクロードは密林に消える』 などの著書は紛れもない名作でしたが、最近の失速ぶりは往年のファンとして、正直正視に堪えれるものではありません。(中略)最近の著書を読んでみると題材は以前やったことの二番煎じ、文章は乱雑でふざけすぎ、素人が書いているようです。

往年のファンからも一部愛想つかされたような意見であり、高野さんはブログ上で反論する。

そこまで言われなきゃいかんのか。

しかし。

質問者のtakezo2010jpさん。

最近の私の本についてはどうこう議論するつもりはないですが、次に出る『謎の独立国家ソマリランド』を読んでみてください。

私が守りに入ってるかどうか、よくわかりますから。

最近、高野秀行の本がつまらないと思われている方、私以外にいらっしゃいますか?

ソマリランドは高野さんにとっても「アヘン王国」「西南シルクロード」以来の渾身作ということで熱が入る。そして、ソマリランドは発売された。ソマリランドは発売当初から好調な売れ行きを見せ、雑誌や新聞にもたくさんの書評が書かれその勢いは止まらない。

『謎の独立国家ソマリランド』が順調すぎるってことだ。
主要な新聞や雑誌の書評で片っ端から取り上げられているし、売上げもまったく落ちる気配がなく、
発売後2ヶ月半たって、むしろ上がってきている感すらある。

当然嬉しいはずなのだが、どうにも腑に落ちない。
芥川龍之介じゃないが「漠然とした不安」を感じる。
なにしろあまりに売れない時期が長かった。
文庫はまだしも単行本に至っては、「売れた」と言えるのは24年間やってきて今回が事実上初めてだ。
その不安が高じて体に異変を生じさせているのではないか。

ぶったるんでるのか、それとも…

そしてついに…!

『謎の独立国家ソマリランド』が講談社ノンフィクションを受賞した
という電話がかかってきた。

1989年12月に『幻獣ムベンベを追え』でデビューして以来、24年。
やっとメジャーな賞をとることができた。
鳴かず飛ばずだった時代が本当に長かったけれど、それでもずっと応援してくれた人たちがいたから
ここまで書き続けることができたのだと思う。

講談社ノンフィクション賞を受賞しました

コメント欄も知人やファンからの歓声で沸き立っている。授賞式の日は、出版社の編集担当や作家仲間、友人、応援してくれた人たちと大いに盛り上がった。

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受賞式が終わり、神保町に移動してイタリア・レストラン「オーレオーレ」で二次会。
中に入ると、参加者の人たちがものすごく嬉しそうな顔をしているのに驚く。
みんな、酒だけではない、独特のハイな状態になっているよう。
(中略)
そしてクライマックスは杉江さん(出版社の編集担当)のスピーチ。
絶対泣くだろうという万人の予想通り、途中で声を詰まらせ、周囲からは「スギエー!」「がんばれ-!」と声がかかり、
杉江さんはますます涙にむせぶという、最高の展開。
わかっていながらも私ももらい泣きしそうになり、杉江さんを抱きしめて、彼の手を高々とあげてしまう。

そして、そして…そのあとはよく覚えていない。
誰かに抱きつかれたり、抱きついたりしたような気もする。
三次会でどこかの店に行ったのは覚えているが、話の内容はまったくわからず。

杉江さんとハイヤーで杉並のうちまで帰り、浦和に帰る杉江さんを見送ったところで
完全に記憶は終わっている。

朝、目覚めたら犬がチャンピオンベルトの匂いをかいでいた。

以上、みなさん、ほんとうにどうもありがとうございました!!

9月30日ドキュメント受賞式

もう3年も前のことだが思わず「おめでとう高野さん!!」と言いたくなる。この経緯経過をブログで辿って見ていくのは感動モノだ。この流れをリアルタイムで追いかけていた往年のファンにとっては、ブログだけで一つの本に匹敵するドラマである。

他にも引用はしないけれど面白いブログ記事多数です。特に書評というか読書の数と幅がものすごい人なので、本を選ぶ参考にも高野さんのブログはいいと思います。ブログを読んで高野さんファンになって、そして高野本を買いましょう。これからのご活躍も期待しております。

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  • 作者: 高野秀行,二村聡,下関崇子,井手裕一,金澤聖太,モモコモーション,黒田信一,野々山富雄,姜炳赫
  • 出版社/メーカー: 本の雑誌社
  • 発売日: 2009/11/19
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