飛ばし言葉で

冬が近づいている。来週また暖かくなるという話も聞いたけれど、今日はまぎれもなく冬の手前まで来てしまった。道行く人はコートを羽織り、首にはマフラー。マフラーはもういらないだろうと思って、置いてきた。後ろを見たら、それとは違う別のマフラーがコートツリーにかかっている。deviceという店で10年ぐらい前に買った物。手にとって広げてみたら、特に傷んでいる様子はない。そのまま折りたたまずに羽織ってみた。

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薄手のシャツとデニムを履いた女の人もいた。誰もが冬の装いというわけでもないらしい。事実、シャツの上に毛糸のベストを着ているだけでも、歩いていると暑くなってきた。知らない道を通れば、住宅に挟まれる小さな田んぼで稲の収穫を行っていた。頭の中の地図を頼りに、遠い昔に歩いた道に出た。僕は小学1年生だった。月末になると祖父母の家の集まりがあったため、いつもとは違う方向へ歩いた。小学校から祖父母の家までは遠く、歩いて行くのは初めてだった。

「あれ、お前今日こっちなん?」

「そうやねん、月末やから。でもあんま道わからんねん」

「途中まで一緒に行ったるわ」

彼は普段仲のいい友達というほどではなかったけれど、その頃は関係なかった。僕とは反対方向の、学校から遠い家に住んでおり、学校以外で会うことはない。ドラゴンボールがすごく好きなやつで、ドラゴンボールの絵を描くのがうまかった。ドラクエも好きで、エスタークとの戦闘音楽を口ずさんでいた。小学生なのにラグビーのチームに入っていた。兄がいて、兄は府立の小学校に通っていた。一度誕生日会に呼ばれたことがあり、立派な家に数十人の同級生が集まった。今はヤクザになってしまった。

僕と彼とは何かずっと話しながら歩いていた。祖父母の家は僕の家よりずっと遠かった。

「ここまで来たら道わかるわ」

「おお、じゃあ俺こっちやから」

彼の家はもっと遠かった。祖父母の家までの道のりは、今歩けば短い。小学1年生の僕にとっては、どこまでも続く遠い道のように感じられた。

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