映画「エヴァ破」ネタバレ・感想・評価

最近シンゴジラを見たこともあり、アオイホノオを読んでいたら庵野ウルトラが見たくなって、その後の勢いでエヴァ「破」を再び見返していた。エヴァ「破」を初めて見たのは、DVDになったときだから2010年。「破」を僕は肯定的に見たが、新劇エヴァの評価はだいたい三つに分かれている。一つは「破」路線のエンタメ推奨派、もう一つは「Q」路線の懐古派、最後に「旧劇」路線のエヴァもう作らなくていい派。映画の興行成績は序破Qのうち「Q」が一番良かったみたいで、ファン層もやはり懐古派が一番多いことが伺える。もしくはデータに現れない旧劇派。「Q」を見て喜んだ人たちが「破」を見たときは「こんなのエヴァじゃない」と思ったらしい。

「破」を評価せざるを得なかった人たち

では僕を含め「破」を評価せざるを得なかった人たちとは、いったいどういう層なのか。テレビでもエヴァファンとして知られているオリエンタルラジオの中田敦彦は、「破」を見て号泣したそうだ。「破」を人生史上最高傑作と言っていた。オリラジ中田は僕と年齢が近い。この世代が旧劇エヴァをリアルタイムで見ていれば、ちょうど主人公たちと同い年の頃に見ていたことになる。テレビの向こう側では自分と同い年の、言わば同級生の少年少女を主人公とした理不尽なアニメがやっていた。そして旧劇エヴァは多くの同級生視聴者にトラウマを植え付けた。

旧劇エヴァ放送当時に僕は見ておらず、高校生になってからビデオで見たが、やはりそれなりに落ち込んだ。それから10年後「破」を見た。今から7年前の2010年、「破」のDVDが発売されたとき僕は名古屋に住んでいた。久屋大通の地下を歩いていると「翼をください」がえんえん流れており、なんだろうと思ったら「破」DVDのプロモーション映像だった。「序」は既にDVDを借りて見ていた。「破」もDVDになったら見ようと思っていたから、何の気なしにその場でDVDを買った。

当時のツイートが残っている。

ドハマリしていた。

「破」はエンタメ

新劇エヴァ「破」については、旧劇エヴァを当時同級生として見ていた人にしか感動できない仕掛けになっている。新劇だけを見ていれば「破」は普通の作品だし、旧劇を最近見た人や、当時から大人として冷静に見ていた人は「破」を見ても感動できない。「Q」肯定の懐古派や、旧劇主義のエヴァもう作らなくていい派がその層にあたる。1995年から放送されていた旧劇エヴァは、中高生にとって紛れもないストレスであり、トラウマだった。それは必ずしも悪い意味だけではなかったが、多くの中高生視聴者の心には、"いつまでも癒えない傷"としてずっと残り続けていた。

それから10年後に公開された「破」は、旧劇の重苦しい文学作品とは違うエンタメ映画だった。しかしそのエンタメが、僕たちの心を解き放った。中高生のときに負った心の傷を癒やしてくれた。映像の中で、あの当時は弱く、現実に目を向けられず、逃げ出してばかりいた人は、あの日助けられなかった人に声をかけ、手を差し伸べ救った。10年前のあの当時、彼らの同級生だった僕らは拍手喝采した。

「私が死んでも代わりはいるもの」というセリフがこの10年間トラウマだったんですね。緒方さん(碇シンジ役の声優)と対談したとき、緒方さんも二人目のレイが死んだときにすごく失ったものがあると、終わってしまったような気がしたとおっしゃってました。僕もそうなんですよ、僕も二人目のレイにしか思い入れがないんですよ。だってレイはレイでも三人目は違うレイなんだから。

そこでねシンジは「破」で言ったんですよ。レイの「私は死んでも代わりはいるもの」そのセリフに対して、この10年後にシンジが出した答え、このセリフ、言っちゃいます。「違う!」と。「綾波は綾波しかいない、だから今、助ける!」と、これを言った瞬間に僕はもうハプッ、ハプハプハプッともう嘔吐しかけました。

オリラジ中田―よしもとオンライン「ヱヴァンゲリヲンの日」

この後の「翼をください」のピアノイントロが流れるところが好きです。

エンタメだからこそ

そんな新劇「破」を見て、「エヴァがありきたりなエンタメ作品になってしまった」と嘆くファンも多かった。そりゃあなたはそれでいいよ、当時も今もそうやって冷静に見れたんだから、しかし旧劇でトラウマを植え付けられた僕ら同級生にとって新劇「破」の意味はそんなもんじゃないんですよ。新劇「破」は僕らにとって何年かかっても必要な解毒剤みたいなもので、10年の時を経てやっと与えられたものだったんです。そしてそれは高尚な文学作品ではなく、10年来の成長を描いた正常なエンタメ作品でなくてはいけなかったんですよ。

確かに作品としての価値は旧劇に劣る。「破」のカタルシスなんて旧劇ありきで成り立つものだから、単体としての作品の価値は低いかもしれない。それでも、それでも当時重症を負った僕らにとって、「破」の意味は大きかった。エンタメによって救われることも確かにあるんです。

今の人にわかりやすく言うならば、「秒速5センチメートル」で落ち込み9年かけて「君の名は。」で癒やされたような感じ。エンタメはエンタメでバンザイ。シン・エヴァンゲリオンはどうなることやら。

エヴァンゲリオン 公式サイト