誰もが生きる意味を持てる世界へ、ザッカーバーグのハーバード卒業スピーチ

facebookを立ち上げたマーク・ザッカーバーグの、ハーバード卒業スピーチを今更ながら聞いた。イノベーターによる卒業スピーチと聞いて真っ先に思い浮かぶのが、スティーヴ・ジョブズのスタンフォード大学スピーチ。同じIT起業家ということもあり、どうしてもマーク・ザッカーバーグのスピーチと比較してしまう。スティーヴ・ジョブズのスピーチ内容はあまり覚えていないけれど、個人の人生の歩み方について、自身の経験を踏まえ語ったような内容だった。今回のマーク・ザッカーバーグのスピーチも大学卒業後の生き方を説く内容ではあるんだけど、個人の生き方というよりはむしろ、社会に対する関わり方みたいな話だった。スピーチの内容について、ところどころ噛み砕いていきたい。

ミレニアル・ジェネレーション

スピーチでは特に世代について強調されていた。マーク・ザッカーバーグはまだ33歳で、今年の卒業生と10年も違わない。そういう若い人が卒業スピーチに登壇することは珍しいことで、同じ世代だからこそ伝えられる話をしたいと語る。

今日、僕は「目的」について話します。しかし「あなたの人生の目的を見つけなさい的なよくある卒業式スピーチ」をしたいわけではありません。僕らはミレニアル世代なんだから、そんなことは本能的にやっているはずです。

この「ミレニアル世代」という言葉は初めて聞いた。ミレニアル世代とは2000年以降に成人を迎える世代という意味で、それまでの世代とは別の価値観を持った世代として捉えられている。代表的なものとしては、生まれたときからコンピューター、ネット環境が当たり前に存在するデジタルネイティブが、ミレニアル世代の特徴に含まれる。

他には国境や文化障壁にとらわれないことも、ミレニアル世代の特徴として挙げられる。インターネットによる国を越えた繋がりもそうだが、旅行や移住のための海外渡航が一般的になり、ビジネスでは旧来の商社や貿易会社ではなく一般企業において、国際化が当たり前となった。この今の時代の国際感覚を、ミレニアル世代は自然なものとして持ち得ている。僕らは当たり前のように海外とやりとりをし、外資のサービスを利用し、ボーダレスな世界を生きている。

そして目的。目的についてもミレニアル世代の感覚は違う。かつての世代において目的意識というものは、空から降ってくるものだった。会社や宗教、家族、地域、国家といった共同体から自動的にもたらされるものであった。しかしミレニアル世代の目的意識は、自ら探し求めなければ手に入らない。あれこれ彷徨い、運良く見つかり没頭できる人もいれば、見つけられないまま虚無感にさいなまれる人もいる。このあたりを実感している人は非常に多いだろう。 目的意識という言葉がピンとこなければ、「生き甲斐」や「生きる意味」、アイデンティティと置き換えてもいい。

「目的」というのは、僕ら一人ひとりが、小さな自分以上の何かの一部だと感じられる感覚のことです。自分が必要とされ、そしてより良い未来のために日々頑張っていると感じられる感覚のことなのです。「目的」こそが本当の幸福感をつくるものなのです。

ミレニアル世代の挑戦

マーク・ザッカーバーグがミレニアル世代のハーバード卒業生に訴えかけるのは、目的を持てという話ではない。

今日僕が話したいことは、「自分の人生の目標を見つけるだけでは不十分だ」という話をします。僕らの世代にとっての課題は、“誰もが”目的感を人生の中で持てる世界を創り出すこと なのです。

「人生を彩る有意義な目的」を持てない人たちをなくすこと。そういう社会を創るのがミレニアル世代の挑戦であると説く。

それではどのような挑戦を乗り越えることで、“誰もが”目的感を人生の中で持てる世界が創れるのか。マーク・ザッカーバーグは3つの方法があるとして具体例を挙げてくれる。ここからがすごい。ぶったまげるような内容だった。

世の中を良くする大きなこと

まず1つ目が大きくて意味のあるプロジェクトについて語ること。マーク・ザッカーバーグは「過去に人類を月に送るといった大きなプロジェクトがあった」とアポロ計画の実例を語る。関わった人たちはNASAの掃除夫に至るまで、大きな目的意識を持って取り組んでいた。

ではミレニアル世代の「大きくて意味のあるプロジェクト」とは?マーク・ザッカーバーグ自身はfacebookで、世界17億人の人々を一つのサービスで繋ぐという偉業を成し遂げた。fecebookに関わった人たちだって、アポロ計画と同じぐらい人生を彩る目的意識を持てたはずだ。他にはどんなことがあるだろうか?

僕らが地球を壊してしまう前に、数百万人の人々をソーラーパネルの製造と設置に巻き込んで、気候変動問題を止めるというのはどうでしょう?すべての病気についてボランティアを募って彼らのヘルスデータと遺伝子データを集めるというのは?今日僕らは病気にならない予防法を見つけることよりも50倍以上もの費用を既に病気になった人の治療に費やしています。そんなことは馬鹿げていますね。なんとかしましょう。オンラインで投票できるようにして民主主義を現代化するというのは?あるいは教育を個人化してすべての人が学べるようにするのは?

やばい、デカすぎるよマーク・ザッカーバーグ! それは確かに世界を前に進める良いことかもしれないけれど、デカすぎる!できない!そもそもやり方がわからない!と僕らはどうしても考えてしまう。しかしマーク・ザッカーバーグは答える。

秘訣をお教えしましょう。誰もそれを始めたときは知らないんです。 アイデアはいきなり完成形でやってきたりしない。それについて取り組んでいるうちにだんだんクリアになってくるんです。とにかくまずは始めなくては。人と人を繋ぐ方法が全部わかるまで始められないのだとしたら、僕はフェイスブックを始められなかったでしょう。

俺もそうだったと言われた!

僕らの社会では、あまりにミスを恐れるあまり、もし何もせずにいたらそもそも全てがダメになってしまうということを忘れてしまって、結局何もせずにいてしまうことがよくあります。そりゃ何をやっていても、それなりに未来に課題はうまれますが、しかしだからといって、「それを始める」ことから逃れることはできません。じゃあ僕らは何を待ってるんですか?

とにかくやれよ!! と。えっと、これはハーバード卒業生に向けたスピーチです。ハーバード大学は名実ともに世界で最高の大学です。マーク・ザッカーバーグもハーバード出身です(facebookが軌道に乗り中退している)。言うならば選ばれし者。そのレベルの話だと思えば、まあ納得…頑張れハーバード卒。ハーバード卒業生に限らずやる気のある人は、世界に目的意識を取り戻すために、大きくて意味のあるプロジェクトに今からでも挑戦してください。

社会システムの再構築

さて、2つ目は“平等性”を再定義して誰もがその目的に参加する自由を持てるようにすること。これは先ほどの「大きくて意味のあるプロジェクト」よりもっと壮大な話。マーク・ザッカーバーグは恵まれた環境で育ったから何度もチャレンジができた。しかし、生活苦など恵まれた環境じゃなければ今この場に立っていなかっただろうと語る。ラッキーなんだと。

恵まれた人たちはその恩恵を社会に還元しなければいけない。誰もが恵まれた環境にいられるような社会システムを作ろうじゃないか。誰もが起業家になれる世の中ではより多くの進歩が生まれ、それは社会全体にとって良いことなんだ、と。

ここまではよくわかる話だ。そしてここから具体的になっていく。「平等性の再定義」とはなんなのか。前の世代では公民権や参政権といった平等を勝ち取るために闘った。では現代の平等とは?誰もが目的に参加する自由を持てるようになることだ。では、そのために我々ミレニアル世代やることは?

だれもが自分の新しい挑戦ができる余地が与えられるような、ユニバーサルベーシック・インカムのような制度が検討されるべきだ。一生のキャリアの中で働く会社を何度も変えなくてはいけない時代だから、1つの会社に紐付けられていない形の、多くの人にとって手の届く育児とヘルスケアの仕組みが必要です。誰しもがミスをします。だからこそ僕らには失敗者が身動きできなくなったり、汚名を着せられて社会的に抹殺されたりしない社会が必要です。そしてテクノロジーが変化し続ける時代ですから、(若い頃に一度だけの教育でなく)生涯に渡って継続的に教育を受けることにもっと目を向ける必要があります。

うわーすげーやってくれーと思う。 ハーバード卒業生がんばれー。で、財源は?なんて思う人もいるだろう。それにもちゃんと答えている。

僕のような人間がそのコストを支払わなくてはならない。 そして多くは富を得ることになるだろうあなたがたも、そうすべきです。だからプリシラと僕は、チャン・ザッカーバーグ・イニシアティブを始めて、僕らの財産を機会均等の推進のために使っています。

俺やってます!と来た。かっこいい! しかしそれだけじゃない。その次に「ミレニアル世代は、最もチャリティに前向きな世代の1つです」と続く。これは確かにそうだと思わせられる。募金を募る団体も増え、オンラインでも募金がしやすくなった。大富豪じゃなくても多くの人は募金経験がある。我々ミレニアル世代にとってチャリティ精神とは、特別意識することではなく自然に備わっているものだ。

そしてマーク・ザッカーバーグは募金だけではないと言う。多くの人と直接会って知恵や時間を共有できると言う。俺は今もやってるぞ、と。生の声を聞き、直に触れ合うことは自分自身にとってもすごく勉強になったし、良い経験だったそうだ。

すべての人に、自分の目的を追える自由を与えましょう。それはそうすることが正しいことだからというだけではありません。そうすることで、より多くの人がそれぞれの目的を追求できたら、僕らの社会全体がよくなるから、そのためにやるのです。それが理由なんです。

ローカルをグローバルに

ミレニアル世代の挑戦は、第一に誰もが参加できる「人生を彩る大きなプロジェクト」を始めること、第二に「誰もが平等にチャレンジできる基盤を創ること」と続いた。そして第三は「目的感は仕事からのみ来るものではありません」という言葉から始まる。3つ目、コミュニティの話。冒頭からしてかっこいい。

3つめの話は、コミュニティを作ることでみんなに「目的感」を与えることができるという方法です。そして僕らミレニアル世代が「everyone」という時、それは「(アメリカ国内だけでなく)世界中のみんな」のことです。外国から来た人、手を上げてもらえますか?じゃあ、彼らと友達になっている人はどれだけいますか?・・・この通り僕らは「繋がっている時代」に育ってきたんです。

ミレニアル世代に、自分たちのアイデンティティを問うと、最も多い回答は「国籍」ではなく「宗教」でもなく「民族」でもなく、「世界市民」だという調査結果があるそうです。これは凄いことだ

この感覚は、いまだに「日本人すごい」などと連呼している我々にはまだまだ馴染みがないかもしれない。確かにハーバードは国際色が強い。英語をベースに世界中から学力のある学生が集っている。しかしハーバードやアメリカに限らず、現代では学生やビジネスマンが日常的に世界中を行き来しており、国境を越えた繋がりを持っている。そこでは外国の顧客相手としてではなく、友人や仕事のパートナーとして国籍を越えた関係が築き上げられている。

あなたはミレニアル世代の感覚を持っていますか?世界市民という意識を持つことで、どのような可能性が広がるのか。

僕らはまさに貧困や病気を終わらせることができる世代でもあるのです。 そのためには世界中からの協力を得ることも必要です。気候変動問題や世界的な感染症の拡散問題について、どの国も一国だけで対処はできません。今目前にある問題は、都市単位や国単位でなく、グローバルコミュニティレベルでの協力関係が必要な課題なのです。

つまり国家レベルで対処しきれない問題を、国連などではなく自らが率いるグローバルコミュニティで解決しようという話だ。しかし同時に、グローバル化なんかに目を向けていられない人のことにも触れる。このあたりはイギリスのEU離脱やトランプの大統領就任に至る経緯に大きく関わっている。

世界中にグローバリズムに取り残されたと感じている人たちがいる。 もし自分が暮らしているホームグラウンドでの人生に満足を感じられていない時、世界のどこか他の場所の人たちのことまで考えるのは難しいです。

世界に目を向けてもらうためには、まず彼らの生活や気持ちに余裕を持ってもらわなければならない。ではそのために我々ミレニアル世代は何ができるのか。

だからこそ最善の対処法は、今ここで、ローカルなコミュニティを立て直すことなのです。

まさかここで、 地域コミュニティ の話になった。世界市民であるミレニアル世代がグローバルなコミュニティを築くにあたり、まず最初に行うべきなのは地域コミュニティの立て直しだと。そしてハーバード卒業生の中で地域コミュニティを立て直した学生たちが呼ばれる。地元ウガンダの安定に寄与する法律家を育てている学生、慢性病のコミュニティで助け合いを繋ぐ非営利団体を立ち上げた学生、メキシコシティをラテンアメリカで最初の「婚姻の平等」を実現した都市に導いた学生。どれもこれも地域の不安を軽減し、前進に貢献するコミュニティ活動だ。

家だったり、スポーツチームだったり、教会だったりアカペラグループだったり、それらは自分がより大きな何かの一員であることを、そして一人じゃないってことを教えてくれます。それによって僕らは自分の可能性を押し広げる強さを得ることができる。

コミュニティの創生。まずはローカルコミュニティを再建することにより、地域の人たちへ人生の目的意識を再び築いてもらう。そしてゆくゆくは、貧困や病気を終わらせる世界規模のコミュニティへ育てる。

ザッカーバーグは問いかける

2017年クラスのみなさん、あなたがたは「目的」を必要としている世界へと飛び込んでいきます。それが創り出せるかどうかはあなた方次第なんです。そんなこと本当にできるかなあ!?って思っていますか?

いくらミレニアル世代とはいえ、我々程度には無理でしょ。せいぜいハーバード卒業生が頑張ってくださいと思ってしまう。しかしマーク・ザッカーバーグはそんな甘えを許さない。何ぬるいことをぬかしているんだと。

マーク・ザッカーバーグは子供向けに起業やマーケティングを教えるチャリティを行っている。中でも優秀な生徒の一人が、不法移民だから大学に行けないかもしれないと悩んでいた。そんな彼の誕生日にマーク・ザッカーバーグは、プレゼントは何がいいかたずねた。彼は苦労している学生たちのことを話し始め「社会正義に関する本が欲しいかな」 と返ってきた。

僕はびっくりました。彼は人生についてシニカルになってしまっても当然な状況にいるんですよ。彼のことを唯一知っている故郷であるまさにその国が、自宅に電話かけてきて、彼の大学への夢を断ってしまうかもしれない状況にいる。でも彼は自分を悲観したりしません。彼は自分のことを考えてすらいない。 より大きな目的感の中で生きていて、人々を巻き込んで行くのでしょう。

我々は確かにハーバード卒業生ではない。しかし少なくとも彼よりは恵まれた環境にいる。そんな彼は世の中を良くするために取り組んでいる。より恵まれた我々が、誰もが目的意識を持てる世界を創るという挑戦を前にして「そんなこと本当にできるかなあ」だって?「おいおい情けないぞミレニアル世代!」 と言われているようだ。

将来どうなるかも知らない高校三年生が世界を前に進めるために自分の責任を果たしているなら、我々にだって、我々の責任を果たすことでその世界に対して借りを返す義務があるのではないでしょうか?

たとえハーバード卒業生でなくとも、我々にだってそれ相応の恩恵があり、それ相応の責任がある。“誰もが”目的感を人生の中で持てる世界を創り出すこと に対して、我々も能力に応じた形で寄与すべきではないか。

私たちに何ができるか

全体的にハーバード卒業生向けのどデカいことを言っているが、思い出すのはThink Differentの最後の言葉。

「自分が世界を変えられると本気で信じる人たちこそが、本当に世界を変えている」

彼らは本気だ。本気でやる。そしてここにマーク・ザッカーバーグの有名な言葉を添えるとしたら、

「やり遂げることは、完璧さに勝る」

とにかく動けと。本気で良いと思ったことをとにかくやり遂げろと。私たちは世の中がどうなれば良いと思うだろうか。そして思ったことを実現するには何をすればいいだろう。答えを知らなくても、とにかくやってみる。人と会い、意見を聞き、本を読み、考え、そして実行実行実行、やり遂げる。すると新しく見えてくるものがある。これを繰り返していけば、世界は本当に良い形に変わるかもしれない。世の中はそうやって変わってきた。マーク・ザッカーバーグは自身が挙げた例も「全部実現できます。やりましょう」と言う。それがゆくゆくは、誰もが目的意識をもった人生を送る世界へとつながる。

スピーチは一部を引用しただけで、まだまだ多くの部分が残っています。ぜひとも一度は通して見てください。

日本語字幕付きのYouTube動画

スピーチ本文の引用はこちらから行っています。

マーク・ザッカーバーグに関連する本は、映画の原作になったやつよりもこちらが断然おすすめです。

この本が出た当時「日本で実名制は根付かない」と言われ日本人のfacebookユーザーは本当に少なかった。けれど既に世界では6億人のユーザーがいて、今では日本でもすっかり当たり前になり、特にビジネス利用においては欠かせなくなっている。