飛ばし言葉で

冬が近づいている。来週また暖かくなるという話も聞いたけれど、今日はまぎれもなく冬の手前まで来てしまった。道行く人はコートを羽織り、首にはマフラー。マフラーはもういらないだろうと思って、置いてきた。後ろを見たら、それとは違う別のマフラーがコートツリーにかかっている。deviceという店で10年ぐらい前に買った物。手にとって広げてみたら、特に傷んでいる様子はない。そのまま折りたたまずに羽織ってみた。

https://www.instagram.com/p/BLgoVROlvs7/

薄手のシャツとデニムを履いた女の人もいた。誰もが冬の装いというわけでもないらしい。事実、シャツの上に毛糸のベストを着ているだけでも、歩いていると暑くなってきた。知らない道を通れば、住宅に挟まれる小さな田んぼで稲の収穫を行っていた。頭の中の地図を頼りに、遠い昔に歩いた道に出た。僕は小学1年生だった。月末になると祖父母の家の集まりがあったため、いつもとは違う方向へ歩いた。小学校から祖父母の家までは遠く、歩いて行くのは初めてだった。

「あれ、お前今日こっちなん?」

「そうやねん、月末やから。でもあんま道わからんねん」

「途中まで一緒に行ったるわ」

彼は普段仲のいい友達というほどではなかったけれど、その頃は関係なかった。僕とは反対方向の、学校から遠い家に住んでおり、学校以外で会うことはない。ドラゴンボールがすごく好きなやつで、ドラゴンボールの絵を描くのがうまかった。ドラクエも好きで、エスタークとの戦闘音楽を口ずさんでいた。小学生なのにラグビーのチームに入っていた。兄がいて、兄は府立の小学校に通っていた。一度誕生日会に呼ばれたことがあり、立派な家に数十人の同級生が集まった。今はヤクザになってしまった。

僕と彼とは何かずっと話しながら歩いていた。祖父母の家は僕の家よりずっと遠かった。

「ここまで来たら道わかるわ」

「おお、じゃあ俺こっちやから」

彼の家はもっと遠かった。祖父母の家までの道のりは、今歩けば短い。小学1年生の僕にとっては、どこまでも続く遠い道のように感じられた。

f:id:kkzy9:20161014022552j:plain

f:id:kkzy9:20161014022610j:plain

近い将来、当たり前になるテクノロジー

自動走行車

運悪く運転免許を失ってしまったため、5年以内に自動運転の時代が来ないと困ります。自動走行車が描く未来とはどのようなものだろうか。それはおそらく、従来の自家用車が自動運転になるというより、タクシーやレンタカーに近いだろう。ドライバーがAIになっただけ、行き先を入力して、目的にたどり着く足として公的に利用される。

続きを読む

「予告された殺人の記録」感想・書評

https://www.instagram.com/p/BLagCPDAwFS/

これはある小さな町で起こった殺人事件について、調べた記録である。調査を行ったのはその町で生まれ育った男であり、事件当時も町に居合わせていた。事件から数年後、彼は何人もの関係者から話を伺い、まるで刑事か探偵のように検証している。この事件は初めから犯人がはっきりしている。被害者サンティアゴ・ナサールを殺した犯人は、パブロ・ビカリオとペトロ・ビカリオの双子の兄弟。殺人の動機もわかっている。事件後に裁判が開かれ、判決も出ている。それでは一体何を調べているのだろうか。事件からは既に年月が経過しているにも関わらず、町の住民一人ひとりに丁寧な聞き込みを行い、調書記録を作る目的とは。

  • 予告された殺人 
  • 違う意味での迷宮入り
  • リアリズム小説
続きを読む

「君の名は。」vs「まどか☆マギカ」

先月に見た「君の名は。」の流れでアニメ映画をいくつか見ており、新海誠は「秒速5センチメートル」と「言の葉の庭」を見た。それ以外にも亡くなられて気になっていた、今敏の「パプリカ」「パーフェクトブルー」を見た。他に何かあるかなーと思っていたら、ああそうだ、手を出していなかったなーと思いつつ遠ざけていた「まどか☆マギカ」があった。これは2011年のTVアニメで、当時話題になっていたのは知っていた。友人に勧められたこともあったが、あえて見ようとは思わなかった。今回たまたま劇場版の総集編と続編があることを知り、「魔法少女まどか☆マギカ」っていうタイトルで子供向けみたいな絵だけど、そんなに凄いと言われるんだったら見てみようと思った。

続きを読む

「何者」感想・書評

一番最初に抱いた感想が「気持ち悪い」だった。この小説は新卒の就職活動とTwitterがテーマになっている現代劇だ。登場人物たちは表面的に友人としての体裁を繕いながら、お互いのTwitterを確認して毒づく。痛いヤツだという本音をどこかで発散しながら、自分もまた痛い誰かを演じる。Twitterというツールは現代的だけど、その構造というか形式そのものは過去から、国を跨いでも普遍的にあるもので、就活時代にTwitterがなかった僕のような世代でも、ああ、見てられないという感情を抱く。そういう人間の普遍的な気持ち悪さをよく表していた。それはかつての自分にも、もしくはいまだに自分にも通っている気持ち悪さであり、村上春樹的なものとはまた違った無自覚な、風呂敷を大きく広げられない気持ち悪さだった。この「何者」は言うならば「地獄のミサワ」が346ページに渡って書かれている小説。正直言って吐き気を催す。しかし読んでしまう。

  • 気持ち悪さの本質
  • 気持ち悪さの地域性
  • 自分が「何者か」ぶっていたとき
  • 早めに読むのがおすすめ
続きを読む

「知っておきたいマルクス資本論」感想・書評

冷戦の時代、赤狩りが行われていた西側諸国では「俺はマルクスなんて読んだこともない!」と叫ばざるを得ないほど、なかば禁書扱いされていた資本論。名前だけは誰でも知っており教科書にも載っている。しかし、実際にその中身を熟知している人はどれぐらいいるのだろう。読んだことがある、読み終えた人も多いかもしれない。「ナニワ金融道」というマンガを描いた青木雄二はマルクス主義者として有名であり、単行本の著者欄にはいつも共産主義のメッセージを載せていた。講演を頼まれると呼ばれた場に関わらずいつも「唯物論とは」などと語りだして止まらなかったという。資本論には一体何が書かれていたのだろうか。赤は危険思想だと言われつつも、気になる。僕も一度だけ資本論を手に取ったことがあったけど挫折した。読み進めるのが非常に大変で、そのため解説書がたくさん出ている。その中で今回選んだこの「知っておきたいマルクス資本論」を読んだ。正直言ってこれすらも読むのが大変だった。

資本論は全3部あり、2部3部はマルクスの死後エンゲルスによって草稿が編集され、刊行された。この入門書では、マルクスが唯一自身の手で刊行まで関わった第1部だけを対象に解説されている。

  • 経済の本だった
  • 何のために資本論を知るか
  • マルクス経済学
続きを読む

内容を重視するなら、移転先はMediumか

最近のブログサービスに限界を感じていたり、今までとの変容についていけなかったり、ちゃんと中身のあるコンテンツを読みたい、書きたいという人が出てきていると思う。そういう人にはMedium(ミディアム)がいいのかもしれないと思ってきた。

続きを読む