「何者」感想・書評

一番最初に抱いた感想が「気持ち悪い」だった。この小説は新卒の就職活動とTwitterがテーマになっている現代劇だ。登場人物たちは表面的に友人としての体裁を繕いながら、お互いのTwitterを確認して毒づく。痛いヤツだという本音をどこかで発散しながら、自分もまた痛い誰かを演じる。Twitterというツールは現代的だけど、その構造というか形式そのものは過去から、国を跨いでも普遍的にあるもので、就活時代にTwitterがなかった僕のような世代でも、ああ、見てられないという感情を抱く。そういう人間の普遍的な気持ち悪さをよく表していた。それはかつての自分にも、もしくはいまだに自分にも通っている気持ち悪さであり、村上春樹的なものとはまた違った無自覚な、風呂敷を大きく広げられない気持ち悪さだった。この「何者」は言うならば「地獄のミサワ」が346ページに渡って書かれている小説。正直言って吐き気を催す。しかし読んでしまう。

 

気持ち悪さの本質

この気持ち悪さの本質はなんなのか、と考えたところどうも行き着くのは「粋がる」というところにある。「粋がる」関西圏では昔よく「イキってる」とか「いちびってる」と言われた。他の言葉で言い表すなら「調子に乗ってる」とか、つまり自分がそれ以上の人間であるかのように振る舞う気持ち悪さ。それが失敗しており中身の薄っぺらさを強調している。いわゆる「ハッタリ」である。「自分はこういう人間なんですよ!」とハッタリをかますことで人から凄いと思われたい。facebookで繰り広げられる幸せ自慢の虚構大会だ。Twitterにも確かにそういう人がいる。これ、実際にTwitter見て書いただろって。タイムラインに流れる違和感をそのまま小説にしたようにさえ思える。最初のページに登場人物の紹介として、Twitterのプロフィール欄が書かれている。きつい、これきついよー

にのみやたくと@劇団プラネット @TAKUT0DESU
劇団プラネット第14回公演「羊を数え始めたあの夜のこと」12/2~5@ミヤマ新劇場小ホール http://www…… OBですが少し関わってます。チケット欲しい方DMかリプライ下さい。【好き】演劇、映画、水泳、日本酒。就活生。よろしくお願いします。

コータロー! @kotaroOVERMUSIC
緑川中軽音部、春日北高軽音部、御山大MUSIC(元)部長!OVERMUSICヴォーカル/中国語8組/塾講バイト/フットサル/草野球/酒/麻雀/ウイイレ/邦楽ロック/「スリーピース」大好き!ファン同士で繋がりたい!/ライブハウス【orange】常連バンドです、対バン相手募集!

田名部瑞月 @mizuki__tanabe
二見女子中、二見女子高、現在は御山大学で世界遺産について勉強しています。本と映画(最近は北欧のもの)とコーヒーが好き。最近コロラド州への留学から帰ってきました。留学経験者の就活仲間が欲しいです!

RICA KOBAYAKAWA @rika__0927
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宮本隆良 @takayoshi_mymt
休学を経て、現代総合美術館学芸員堀井さん(@earth_horii_art)運営のホームページ、「アートの扉」(http://www.door.of.ar )にてコラム「センス・オブ・クリエイティブ)連載準備中。創造集団【世界のプロローグ】所属(第4期)。創造的な人との出会い、刺激に敏感。コラムや評など文章を書くこと

烏丸ギンジ @accountGINJI
より刺激的な演劇を!“演激”集団【毒とビスケット】座長。元劇団プラネットの演出家兼脚本家。今は独立し、誰にも想像できなかったものを表現しようと日々模索中。毒ビスを立ち上げてからは毎月1回必ず公演をしています。フライヤー等の送付希望はDMください!詳しくは、烏丸ギンジオフィシャルブログで→http://www/ame……

こうやってTwitter上に劇中の登場人物を模倣するアカウントがあるけれど、一般のアカウントと言われても区別がつかない。

人間関係は9割ぐらいが虚構であり、友人でも親兄弟でも同僚でも客を相手にしていても、いつでも仮面と演技を駆使して相手と接している。それはお互いがそうで、そこに生身の関係はない。いつでも相手に凄いと思われたくて、現実の自分よりも良く見せようとハッタリをかます。これは承認欲求なんていう生易しいものではなく、サバイバルだ。人は自分の本質など見てくれない、見られると困る、本質など求めてもいない、相手にも演技を求める、役を求める、役さえしっかり果たしてくれたら中身なんてどうでもい。見ている余裕もない。相手が果たして本当にふさわしいかなんて、ろくに判断する時間もない。やらせてみてダメだったら相手に罪を着せればいい。そうやって表面だけで成り立った空洞の社会が、我々が生きる世界だということを露悪的に見せてくる。

気持ち悪さの地域性

こういう言い方をすると差別的だけど、この本は東京的だと感じた。この、中身が無いくせに表面上を取り繕う薄っぺらさ、ハリボテ感、自分がいかにもすごい人物であるかのように振る舞うことが常態化した様子、見栄張っていることがかっこわるいことに気づいていない態度は、たまにしか会わない東京の人によく見られる特徴だった。彼らは「俺って凄いんだぜ!」とアピールする。はっきりとはアピールしないが、言葉の端々にそれを醸し出す。それは世代に関係なく有り、大人になってからもうんざりしていた。いつも何かの型にはまり、何者かであることを装い、相対化した価値観しか持ち合わせておらず、テンプレートのような会話しかできない。

僕は大阪で働いていたが、大阪でそういうことをやると「おもんないやつ」という烙印を捺されてしまう。標準語で言うなら「無粋な人間」という扱いを受けてしまう。地元である京都の感覚だと「そらほんま、よろしゅおすなあ」と言葉では言うが、内面は軽蔑しかない。それを誰もがわかっているから、誰も言わない。だからそういう事が平気でまかり通っていることに驚いたし、誰も指摘しないのが東京風なんだなと感じた。だって、年配の人でも自分を貶めるようなかっこ悪いことを平気で言うんだから。多分その感覚が東京にはないんだろう。東京は人が多いし、入れ替わりも激しいから、生き残りをかけたアピール合戦に必死にならざるをえないんだと思う。就活生や若手芸人がそうであるように、何の才能もない、何者でもない自分が生き残るためには、かっこ悪いとか気持ち悪いとか無粋とか構ってられず、とにかく誰かの目に留まるように、汚いものでも何でも見せびらかせる必要がある。

自分が「何者か」ぶっていたとき

この本を読んでいると自然に、自分の就活時代を思い出す。それは10年も前の話だが果たして、自分はどうだったか振り返らざるをえない。はっきり言って自分の就活とこの本は全然違った。僕は京都に住んでいて大阪を中心に就活していたから、そういう違いもあるかしれない。僕はほとんど一人で就活していた。就活セミナーや説明会、選考に一人で行くのは当たり前なんだけど、大学の友人と話し合ったりすることはまずなかった。お互い忙しくて会わなかった。だから、この本みたいにわざわざ群れて傷つけ合うのはなかなか理解できない。

僕は12月に就活を始め、1月2月と対策を打ったり説明会に参加して、3月4月と選考に挑み全て落ちた。僕が就活をしていた時期はこの3月4月に主要な企業の選考が集中しており、みんな勝負をかける。僕はこの期間に20社ぐらい落ちた。絶望的だった。エントリーシートで落ちることはまずなかった。筆記試験で落ちたのも1社だけだった。グループディスカッションはどちらかというと得意だった。ほとんど通った記憶がある。面接はダメだった。大体は面接で落ちた。1次で落ちたのもあれば2次で落ちたのも多い。3次まで行ったのは3社しかなかったかな。5月はもう2社しか受けておらず、6月にも2社受けて内定が出た。その時点で残った会社も断った。そういう就活をずっと独りでしていたから、この本みたいに周りの人の動向を気にすることはなかった。

では、僕がこの本にあるように何者かぶっていた時期はあったかというと、あった。でもそれは就活に励む学生の頃ではなく、会社員のときだった。会社員になってようやく人と関わるようになり、それまで演技も仮面も必要なかったのが、社会化することで必要とされ始めた。僕らは高い手数料を取って、それに見合うアイデアをポンポン出す人という扱いを受けていたため、横文字と専門用語でそれらしく振る舞うのが僕らの粋がる姿だった。ただ仕事における虚勢はどちらかというと交渉みたいなもので、自分を着飾るのはむしろ仕事以外の場だったように思う。

早めに読むのがおすすめ

さて、この「何者」はそういったグロテスクな姿を長々と見せられるだけの小説、ではない。この小説に興味があれば、早いうちに読んでおいたほうがいい。「普遍的な感覚」と言ったが、それでも時代を象徴するツールがたくさん出てくるため、時代がズレてしまうとそちらに気を取られがちになる。この本が刊行されたのは2012年であり、今ならまだ違和感なしに読むことができるけど、来年や再来年になればもうギャップが大きくなる。そうは言っても現代の就活生なんて、この話はつらくて読めないんじゃないかな。これをつらいとか気持ち悪いと思えないような感受性の低さだったら、現代においても強くたくましく開き直れる。

外伝も出ている

この本は欲しいものリストから送っていただきました。ありがとう!読みたい人がいれば先着1名であげます。是非読んで欲しい。また、新しく何か頂けたらレビューを書きます。

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