「森山大道 路上スナップのススメ」を読んだ

ススメというタイトルだけど、一般人に路上スナップを勧めている本ではない。また、いわゆる写真論や撮影手法について解説している本でもない。ただひたすら森山大道の撮影に同行している本、森山大道的撮影スタイルを紹介していると言えばいいか。

写真や撮影について語られはするけど、説明があるわけではない。だから正直言ってわからない。森山大道、何を言ってるのか、何が言いたいのか、意味がわからない。

とにかく僕は、『何でもよく見てすべて写せ』と教えてきた。まず量を撮らないと見えてこない、少なくとも路上の写真はね。自分が何を撮っているのかも見えてこない、何を撮りたいのかも分からない。世界も見えないし自分も見えない。ましてや写真が何かなんて、分かりっこないんだ…。なんて言ってる僕自身が、写真のことをどこまで理解できているのかも、本当のところは分からないんだけどね。 P23

森山大道はとにかくたくさん撮る人で、以前にテレビでやっていたドキュメンタリーを見たときも、とにかくずっと撮っていた。その様子がこの本でも触れられている。常に動き、常に撮る、そのためカメラはコンパクトカメラを使う。

一眼レフや大型カメラを持つと、頭で考えちゃうだろう。構図を気にするとか。その点、コンパクトカメラは考えなくても撮れる。それに、サイズは小さくても意外によく写るしね。 P71

撮影に同行し、その場で撮られた写真の一部が本に収録されている。よくあるコンパクトカメラでこんな写真が撮れるのか、と驚くようなものもあり、なんなんだこれはというものから、一見ごく普通のよくある写真っぽいのもある。森山大道の写真は印象がはっきりしていて見やすい。

この本は文章以上に写真の分量がそこそこあるから、読んで見ているだけで楽しめる。文章は次に現れる写真の説明書きのような役割を果たしており、より写真が見やすくなっている。

今回のこの本では、東京近郊の5箇所でそれぞれ撮影している。商店街、水辺、カラー、車窓といったテーマでも分かれている。撮影と重ねて、著者による森山大道へのインタビューが行われている。デジタルについてとか、絵葉書写真について、とか今回の撮影に関係しつつ、よくある質問に森山大道が答えるような形にもなっている。

絵葉書の写真って、じつは、みな良い写真なんだよ。だから、この言葉は消して馬鹿にした表現じゃない。絵葉書の写真って、たいがい対象のちょっと上から撮ってる。あの撮り方に辿り着いた先人は、やっぱり凄いな、と本当につくづく思ってるから P104-105

絵葉書写真については、以前読んだ「写真はわからない」でも触れられていた。

そこでは個性がない、奥行きのない写真というような意味で説明されていたけれど、あの本はもっと初心者に向けた本だと思う。ここで言う森山大道の言葉は、もっと先の話のように思える。

森山大道の言葉は、シンプルで直接的なんだと思う。それが「わからない」と感じるのは、その立場に立ったことがなかったり、それをやっていないから実感が伴わなかったりするだけで、きっと言葉として難しいことは言ってない。

写真に写っている対象を見るのではなく、また写真を見て何かを連想するのではなく、写真そのものを見るようになることで、この世界に入っていけるんじゃないか。

森山大道は写真集がめちゃくちゃたくさん出ている。僕が持っているのはダイジェストのような本だけど、基本的には撮った場所がタイトルになっている一冊や、ワンテーマで一冊まとめられている。

森山大道 オフィシャル