夏休み

小学生の頃の夏休み、100円ショップのくじ引きで簡易のテントが当たった。キャンプに憧れていたから、友達を二人誘って近所の河原でキャンプの真似事をすることにした。ヤマ、と呼んでいたヤマくんと、イシと呼んでいたイシくん。二人とは前に自治会が主催しているキャンプも一緒に行った。今回は自分たちだけでやる。自転車でテントや寝袋を運び、お菓子や作ってもらったお弁当などを持って行った。河原ではバーベキューをしている大学生たちと話したりしていた。キャンプの真似事と言っても、ポータブルTVやゲームボーイを持ち込んでいたり、マンガを読んでいたり、ただ大人の管理下から離れて好き勝手したかっただけだと思う。

僕とヤマは共謀して、夜寝ているイシの口の中にフリスクを大量に入れた。少し経つとイシが起きた。

「うえっ!!やめろや!!うっとしいね!!」

僕とヤマは二人で大笑いしていた。不機嫌そうなイシが再び寝ると、また口にフリスクをさらさらと流し込んだ。また少し経つとイシが起きた。

「ぶっ!!おい!なんやねん!もう!」

僕らは寝たふりをしながら二人で肩を震わせていた。

「おまえらやんけ!わかってんにゃぞ!!」

それでも僕ら二人は寝たふりを続けていた。すると口の中に何かが入ってきて焼けるような痛みがした。

「ぶえっ!」

「はははは!!はははは!!」

イシの仕返しだった。彼は一通り笑うと満足して再び寝た。僕らは諦めなかった。

夏休み、テントの中は蒸し風呂のように暑かった。それでも寝ている間に虫が入ってくると嫌だから、テントは網戸のファスナーをしていた。寝袋に入ってそのまま寝るのは暑くて耐えられないため、寝袋もファスナーを開けて敷布団のようにして寝ていた。僕はまず、テントのファスナーを閉めた。網戸でもなく、風通しもなくなった。完全密閉状態。蒸し風呂の完成だ。そこで今度はイシの寝袋のファスナーを閉めた。僕とヤマは寝袋を取っ払い、マットの上に直に寝転んだ。そのまま時間が経つのを待った。暑い中を我慢していたが、僕もヤマも少し眠くなってきていた。

「あっつ」

イシの顔を見ると汗だくになっていた。サウナ状態のテントの中で寝袋にくるまっているのだから当然だ。僕とヤマはまた吹き出しそうになるのをこらえて寝たふりをしていた。イシはガサガサと動いているが、寝袋のファスナーを閉めたから暴れたところで布団のようにはだけることはない。

「ああっ!!暑いねえ!!チャック閉まってるやんけ!!」

僕とヤマはまた肩を震わせながら寝たふりをしていた。

「あっつ、誰やねん!!おまえらやんけ!!わかってんにゃぞ!!」

イシは脱ぐように寝袋から出ている。僕とヤマはおかしくて肩の震えが止まらない。

「なんやねんお前ら!!眠いんじゃこっちは!!あっつ!!」

イシはテントのファスナーを開けて再び寝た。僕は網戸のファスナーを閉め直した。もう朝方になっており、そろそろ寝ることにした。