Think Simpleを読んだ

Think Simple ―アップルを生みだす熱狂的哲学

Think Simple ―アップルを生みだす熱狂的哲学

 

Kindleにてセールで売られていた際に買い、当時読んで最近二度目を読んだ。クリエイティヴな職種に限らずどんな人であれ、働いている人がこの本を読むと鼓舞されつつも落胆するだろう。スティーヴ・ジョブズとの仕事はなんてエキサイティングで、自分のやっている仕事はなんてつまらないんだろうと。

この本は、iMacという名前を考えたケン・シーガルという人が書いた本で、シャイアットというマーケティングの会社でアップルの外注を受けていた。この人はスティーヴ・ジョブズと10年に渡って広告の仕事をしてきた。スティーヴがネクストの頃からアップルに復帰して以降もマーケティングの外注を受けてきた。広告という媒体を中心に書かれてはいるが、内容に至っては主に、スティーヴ・ジョブズの考え方について書かれている。僕は広告もマーケティングについても全くの素人だが、そんなことは全く気にせず読むことができた。

think simple

タイトルのとおり、この本は物事をいかにシンプルに考えるかについて書かれている。そしてそれを体現してきたスティーヴ・ジョブズとアップルという会社、それにマーケティングという面でタッグ組んできたシャイアットという会社、その社長のリー・クロウ、現場を共に歩んできた著者が、シンプルに考えるとはどういうことかを、エピソードを交えて文字通りシンプルにまとめている。
Macのファンであればそのエピソードだけを取っても面白い。かの有名なthink differentのCMや、著者がiMacと名付けた際のエピソードなど、それらは当時は革命であり、今となってはもはや伝説となっているエピソードの意味が当事者の目線から記されている。

シンプルの杖

著者(だけでなくスティーヴに関わった人)は、スティーヴが物事をシンプルに下すプロセスを「シンプルの杖にやられた」と表現している。物事をシンプルにするというのは、機能や表現、デザインを研ぎ澄まし、無駄を省くということだ。製品について余計な機能や仕様など、広告については文言や説明や魅せ方など、一番伝えたいものを一番伝わる形で提供する、それがシンプルにするという過程になる。
これが実に魅力的で、どこの企業でもできていないんじゃないかと思われる。顧客や関連会社の要望、法的な安全性、部門間での争いなど、お金や関わる人数が増えれば増えるほど意思決定は慎重で無難で複雑で時間のかかる退屈なものになる。スティーヴが度々用いたと言われる「シンプルの杖」はそういうったものを全て削ぎ落とす魔法に近い。

アップル社の仕事

アップルの社内では通常の大企業で考えられないような手順にて物事が決定されていた。それは部門にもよるだろうが、例えばこの本に書かれていた広告に関しては、当時CEOであったスティーヴが一番最初に案を見るというものだった。それはスティーヴ自身のマーケティングに対するこだわりであったのかもしれないが、外注して仕上がったものを担当者ではなく部門長でもなくCEOが一番最初に見て判断するなんてことをアップル規模の会社が行っていた。そこでクソミソにけなして作り直しになることもあれば、目に涙を浮かべて讃えることもあったらしい。それが一番早い意思決定なのは言うまでもない。

シンプルとスティーヴ

この本に書かれている「物事をシンプルにする」ということはとても単純で、それだけに難しい。シンプルを求めるという作業は完璧を求めるゼロ100の世界で、少しでも妥協があるとそれはまがい物になってしまう。だから実行に移すのはとても大変で、まずはセンスを研ぎ澄ませて考え抜かねばならず、また関係者の霧が晴れるように説得をせねばならず、全責任を負って結果を出さねばならず、その評価を継続させねばならない。ただシンプルに考えるだけではうまくいかない。
それをやりぬくことが非常に難しく、スティーヴだからできたということが書かれており、その思想や考え方、人物像についても触れている。彼は非常に率直でフラットな人物で、さらに人の心を掴むのがうまかった。また、驚異的なまでに打たれ強かった。彼を失ったアップルがシンプルを貫けているかどうかは、外側から見ている我々にはよくわからない。

ジョブズが率いていたアップル社は、誰もが望むような理想的な環境にて経営、開発、イノベーションをしていたということになる。
あなたの会社は、あなたの仕事は数字だけを追っかけていないだろうか?あなた自身が、本当にその商品を自ら利用したいと思っているだろうか?世の中を偽っていないだろうか?世の中に真の価値を提供していると自信を持って言えるだろうか?