「西南シルクロード」と「ソマリランド」の違い

欲しいものリストでいただいた本は次に読みます。「西南シルクロードは密林に消える」を読み終えた。この本は高野本の中でもファンの間で1,2を争う人気本であり、評価も非常に高い。高野さんの早稲田大学探検部の後輩であり、ノンフィクション作家の角幡唯介氏もこの本を読んで探検ノンフィクションを志すようになったとか。高野さん本人も、自身の勝負作として「アヘン王国」「西南シルクロード」「ソマリランド」を挙げている。そんな「西南シルクロード」だけど、実は全然売れなかったそうだ。「アヘン王国」が敬遠されたのはテーマ設定的になんとなくわかる。しかし「ソマリランド」が大ヒットして賞を取り、なぜ「西南シルクロード」はこうもファンに評価されながら一般的な評価は受けなかったのか。実際に読んでみて、確かに面白かった。面白かったけれど、一方で「ソマリランド」が大々的に評価され、「西南シルクロード」が知る人ぞ知る日陰者の道をたどったのは、なんとなくだけど理由がわかったような気がした。

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「西南シルクロード」とはどういう本か

まず、シルクロードというのは実は2つあるそうだ。メジャーなのは中国から中央アジアを抜けてヨーロッパにたどり着く北側ルート。そしてもう一つ、中国の蜀から東南アジアを抜けてインドへたどり着く西南ルート。こちらはマイナー中のマイナーであり最も古いシルクロードだと言われているが、中国の古い文献を頼りにわずかな人が研究する程度で、交易ルートも細かい部分がはっきりしていない。歴史的にはまだまだ未知であり、なおかつ第二次大戦以降に誰かが踏破したという記録もない。

そんな「西南シルクロード」の戦後初踏破を目指し、一念発起して中国に飛び立つ高野さん。実はワケがある。当時高野さんは30代半ばにして2年近くどん底の精神状態に陥り、毎日寝てばかりの引きこもり生活を送っていた。友人と酒の席で口を滑らせたことがきっかけになり、社会復帰の意味合いを込め、もう一度未知への探究心を取り戻すため、高野さんは「西南シルクロード」という考古学ロマンを追いかける旅に出たのだった。

辺境ノンフィクション

「西南シルクロード」は、中国の蜀があった成都からインドのコルカタを目指すルートになる。そのためには途中ミャンマー北部を経由しなければならない。そこはミャンマー国家からの分離独立を望み、闘争中のカチン州と言われる地域にあたる。いわゆる反政府ゲリラの拠点となっている。その先にはインドからの分離独立を望み闘争中のナガランド州がある。戦後長い間踏破されていない訳もそこにあった。中国国境からミャンマーの少数民族ゲリラ支配地域なんて、入国許可が降りるわけもない。高野さんはかつて知りあった別の反政府ゲリラであるシャン人のつてを頼り、今回のルートを渡るためのコネクションを得ようとするが、果たしてそんな話はうまくいくのだろうか、当然それはうまくいくわけがなかったり、運良くうまくいったり。という流れがこの本の主題となってくる。これはもう、一般人に真似できる旅行などではなく命がけの冒険譚である。

「ソマリランド」との違い

少しネタバレしてしまうと、この本で西南シルクロードの謎は厳密には明らかにならない。冒険が大変すぎることに加え、紀元前には既に存在していたと言われるそのルートが古すぎて、それまでの間に文化、国家、宗教などが入れ替わったり交代しているため資料や痕跡が少なく、そこに住む人々の実感にも残っていない。古くからある養蚕の歴史など、文献の記述と符合する部分を各所で見かけはするが、決定打に欠ける。そして高野さんは、全てを飲み込む密林へと入ってしまう。西南シルクロードはタイトルの通り、密林の中に消えてしまっている。

「ソマリランド」については現時点の謎であり、歴史を辿ったところで分断もなく、高野さんの行動力と分析力で今そこにある国家の謎が明らかになった。「ソマリランド」の魅力は異世界のヴェールに包まれた現場を写実的に描くだけでなく、その背景や成り立ちを解明していく過程にもあった。しかも非常に複雑である氏族社会の仕組みを、事実を事実として述べるだけでなくこれ以上にないぐらいわかりやすく解説していた。そこには今まで未知で難解だったソマリ社会を明らかにしたという一つの大きな功績があり、文化を学ぶ上で十分な価値がある資料としてできあがっている。2つの本の大きな違いはそこにあると感じた。

一方は「西南シルクロードの謎」というタイトルになっておらず、登場した謎はそのほとんどが謎のままで終わってしまう。現地ではノンフィクションとして信じられないような体験を繰り返しており、純粋にそこがメインの冒険スペクタクルロマンの本となった。もう一方は探検というより「ソマリ文化」という未知との遭遇、接近、解明が主なテーマになった。「ソマリランド」ではこれまで知られていなかった多くのことが高野さんの行動と本により明らかになり、題材や内容の進め方としてもこちらのほうが一般人や賞に受けが良かったのではないだろうか。

あなたはどの高野本を選ぶ?

2008年のファインイベントによれば、高野さんのファンが選ぶ作品ベストスリーが発表されている。

私のベスト3は
1.『アヘン王国潜入記』
2.『西南シルクロードは密林に消える』
3.『ワセダ三畳青春記』
さすがコアなファンの集まり。一般的にはさほど人気がない(というか文庫化されていないため読んでいる人が少ない)「西南シルクロード」が2位に来て、
「ムベンベ」がランク外とは。
ある意味でベストより気になるワーストは
『神に頼って走れ』&『極楽タイ暮らし』
う、痛い。
自転車本は、旅は最高によかったのに、ブログをそのまま本にするという作戦が失敗だったんだなあ…。

日曜日のイベント

「アヘン王国」はまだ読んでいないが、「西南シルクロード」の冒険と「ソマリランド」の謎の解明を足したような内容になってファンが選ぶ堂々の1位なのだと思われる。一般的に受けなかったのはアヘンという題材がハード過ぎたからじゃないかなと予想する。そのうち読みたい。3位の「ワセダ三畳青春記」は高野さんが家賃1万2000円のアパートに住んでいた頃の自伝であり、他の著書とは作風が違うけれど発売当初から人気作だった。これが2008年で8年前になるから、今集計を取ればどういう結果になるだろう。ソマリランド以降も「西南シルクロードがベスト」というファンの声はあり、好みが分かれるところだと思うので、いろいろ読んで判断して、自身のマイ・ベスト高野本を見つけてほしい。

西南シルクロードは密林に消える (講談社文庫)

西南シルクロードは密林に消える (講談社文庫)

 

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